待ち合わせと約束 ③
今日は日曜日だけど午後から部活がある。昨日の事があって美影に会うのが何となく恥ずかしいような気がしてあまり行きたくなかった。だからといって部活をサボる訳にもいかないので、いつもより遅くギリギリに行くことにした。
学校まで行く間で美影に会ったらどんな感じで話をしようかと考えてみたが、あまりいい案は思い浮かばなかった。
しかし意外にも美影とは話をする機会がなかった。部活の練習はいつも通りだったが、最後にキャプテンから俺にとっては重要な連絡事項があった。
「今度の土曜日は、練習時間を変更して急遽、練習試合をすることになった。練習時間は十時からで試合は一時から始めるぞ。悪けど予定を開けといてくれよ」
練習の終わりに全員が集まってキャプテンの話を聞いていた。
「えっー」と言っている奴もいたが大半の部員は練習試合を好意的に捉えていた。その中で俺も一瞬、喜んだがすぐにある事に気が付いた。
(あっ、次の土曜日といえば絢との約束が……)
隣にいた長山が俺の顔色の変化に気が付いたみたいだ。
「どうした、何か都合が悪かったのかよ」
「えっ、いや、別に……大丈夫だ、問題ない」
ここで正直に言っても仕方ないし、面倒な事になりそうなので平静を装って誤魔化そうとした。多分、美影には気付かれていないだろう、とりあえず家に帰ってから考えるしかないか……そう思い表情には出さないよう気を付けた。
片付けも終わり着替えて帰る準備をして自転車置き場に移動しようとした時に美影の姿が目に入る。
「お疲れ、また明日!」
俺の声に気が付き、美影が振り向き優しい笑顔で頷く。
「うん、お疲れ様」
しかし隣にいた志保は意味深な笑みを浮かべて美影を見ている。
「あれ、美影、それだけでいいの、何か言う事ないの?」
「な、なに、急に……」
志保と美影の二人が俺には聞こえない声で何か言い始めたが、美影は志保と話している隙に「ゴメンね」と俺に合図を送ってきた。
「それじゃ、帰るぞ」
「あっ、こらっ、由規、逃げるな」
この場から立ち去ろとしたら、志保が引き留めようとするので、美影は直ぐに志保を制して俺に帰るように促す。
「もう、美影ったら……」
志保は残念そうな顔をして俺の方を見ていたが、きっと昨日の事を聞いて確かめようとしたのかもしれない。本当に美影が一緒で助かった。
それにしても志保は美影に対しては殆ど無理強いをしないし、美影の言う事は割と素直に聞き入れるので、本当に不思議な力関係だ。
無事に家に帰り、もう一つやらないといけない事がある。絢との約束の件だ。
(さて、どうしようかな……やっぱり直接話さないといけないよなぁ)
当たり前の様な感じだが、悩んでいる間に時間が経ってしまった。もう時間的にかなり遅くなってきたので、このタイミングで電話をしないといけない、どう話そうかと焦っていた。
(もう悩んでいても仕方ない、電話しよう……)
そう決意してスマホを手にして、絢に電話を掛ける。予想外に直ぐに電話が繋がり慌ててしまい、しどろもどろになってしまう。
「あ、あ、ご、ゴメンね、お、遅くにで、電話して……」
「ううん、大丈夫だよ。どうしたの?」
絢のいつもと変わらない優しい声を聞いて、俺は焦らないように気を落ち着かせた。
「えっと……土曜日の事なんだけど」
「うん……」
俺が改まった感じで話し始めたので、絢の声のトーンが下がり不安そうに聞こえた。
「き、急遽、土曜日に練習試合が入って……あの……いけなくなって……」
一応電話をする前に話す言葉を考えていたのだが、全て頭から抜けてしまい真っ白になってしまった。絢は、俺の動揺している雰囲気が分かったのか、優しく返事をしてくれた。
「そう……残念だけど練習試合があるなら仕方ないわね」
「ううん、ごめんね……せっかく誘ってくれたのに……」
「そんな、よしくんが悪いわけじゃないし、謝らなくてもいいよ……また誘うからね」
「うん、分かった……」
この時に一瞬迷ってしまった。ここで次の約束をするべきかどうか……でも結局は出来なかった。何故か、分からないけど言葉が出てこなかったのだ。
何となく次の会話が出てこなくてて少し間が空いてしまい、話題が……と思っていたら絢が話し始めてきた。
「今日は部活があったのよね……みーちゃんも部活に来ていたの、マネージャーだし、元気にしてる?」
「みーちゃん? あぁ、み……山内さんね、部活には参加していたし、元気にしてるよ」
「そうなの……この前、連絡先を渡したけど何にもなくてね、昔はよく体調を崩していたりしたから……忙しいのかな」
「そう言われてみれば昔はね、今はそんな事ないみたいだよ、いつも元気そうだし教室とか部活でも、一緒のクラスになってから一度も休んでないかな……まぁ確かに色々と忙しそうだけどね」
絢に言われて記憶の片隅に時々、美影が休んでいたような光景が思い浮かんでいた。確かにあの頃は、体力的にも弱そうな感じだったからよく俺が手助けをしていたりしていた。今は全くその面影はなくなっているけど、絢はあまり知らないのだろう。
「えっ……一緒のクラスなの?」
「あぁ、そうだよ。一年の時からで、俺達の学校は三年の進級時のクラス替えはないから、三年間一緒になるな……」
「……」
何故か驚いた様子の絢だったが、クラス替えの説明をしてから更に絢は絶句したような感じだった。少しの間、絢が黙っていたので気になり「もしもし」と二、三回呼び掛けるとやっと反応が返ってきてとりあえず安心した。
「そ、そうなの……だから詳しいだね。じゃあ、みーちゃんに伝えてて、時間があったら連絡してねって」
「うん、分かった伝えておくよ」
絢の声のトーンが、会話の始めのより落ちたような気がしたが、やはり美影の事が気になっているのだろうか、だけどこれ以上、こちら側から聞く訳にもいかないし、この最近の美影との出来事を考えると余計に聞く事が出来なかった。
「もう大分遅くなったから……」
「そうだね、それじゃあまたね、絢」
「うん、おやすみ、よしくん」
少し元気が無さ気な感じだったが、絢はいつもの優しい口調で電話を終わらせた。
通話が終わったスマホを机の上に置いて、大きく息を吐いた。心の中は安堵感と罪悪感が入り混じってイマイチ気分がすっきりとはしなかった。
でも昨日の美影の「だいすきな……」の言葉が心の中に残っている中で、絢との約束が中止になり、やはりほっとした気持ちが強かった。
そんな事やあんな事をいろいろと考えたりしていると、段々と自己嫌悪になりそうなので風呂に入って寝る事にした。
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