待ち合わせと約束 ②
日曜日、午前の練習が終わり一度帰宅して、美影と待ち合わせした場所へ急いだ。
十一時に終わって十二時に駅前に待ち合わせになっている。待ち合わせした駅から二駅先のこの辺りでは一番の繁華街に行く事になった。
時間的には余裕があるが、やはり女の子を待たせてはいけないと思ったので、約束の時間より早く到着しようと急いでいたのだ。
「あっ、は、早かったね」
「ううん、ついさっき着いたとこよ」
既に美影は待ち合わせ場所に着いていた。さすがだなと美影の立ち姿を何気なく見ていると、いつもの制服姿では無いので何故か気恥ずかしくなった。
これまでに美影とは志保の三人で何度か一緒に出掛けた事があるので、私服姿を見るのは初めてではない。それでもそう思ってしまったのは、美影の可愛さが際立っているからかもしれない……
ここに待ち合わせでいるだけで、すれ違う同年代の男子達のほとんどがちらっと美影を見て通り過ぎて行くのだ。俺は周りの目を気にしながら、困惑したような顔していた。
「どうしたの?」
美影が心配そうに顔を覗き込んできたので、不意を突かれた感じになり慌ててしまう。慌てたのを誤魔化そうとしてとりあえず何か言わないといけないと焦ってしまう。
「えっ、あっ、と、とりあえずお腹空いたし、何か食べないか……」
「うん、いいよ」
美影は優しく返事をして頷く。俺は周囲を見渡して、駅前にあったファーストフードの店を指を差す。
「あそこでいいかな?」
再び美影は頷き、「じゃあ、行こう」と言って俺の腕をグィっと引っ張ってきた。美影の行動にドキッとして何も抵抗出来ずにそのまま引っ張られるようにして向かった。
(あっ、あれ、何かいつもの美影と違う……)
お互い注文をして商品を受け取り窓側の二人席に座った。向かい合って座り、改めて思った。これまでに何度か一緒に外で食べたりする事があったけど、二人きりは初めてだな……そう思っていると途端に恥ずかしさが表に出てしまった。
「変な感じね、宮瀬くんと二人で食べてるの……」
俺の頭の中で思っていた事を美影が話すので、余計に意識してしまい「そうだね」と言って暫く無言で食べてしまっていた。
それから少し落ち着いて美影とこの後の予定の話をして店を後にした。再び駅に戻り電車に乗り目的地に向かった。電車の中でもやはり美影は、目につくみたいで一緒にいる俺は何となく居心地が悪かった。この時ほど志保の存在の有り難さが身に染みた。
目的地に到着したが、美影は絶対にここへ行きたい所はないみたいで、とりあえず何軒か雑貨店や洋服店を見て回る事になった。
「いいの? 宮瀬くんは行きたいとこないの」
美影が気を利かせて尋ねてきたが、特に買いたい物もなかったので「美影の行きたいお店でいいよ」と返事をした。美影は少し不満そうな顔をしたが頷いていた。
二人で並んで歩いているとすれ違う同年代の男女共に「あの子可愛いね」と言う言葉が何度も耳に入ってきた。改めて、ショーウィンドウに映る美影の姿を見ると、やはり上位ランクになるなと納得していた。
その後、二時間位店を見て回り美影は何点か買い物をしていた。歩き疲れたのか美影が「何か飲まない?」と聞いてきて、さすがの俺も疲れてきたので目の前にあったコーヒー店に入る事にした。
注文する所まですでに四、五人並んでいて、その後ろに二人で並ぶことになった。すると俺達の後に同年代の男子が並んできた。その男子が何故かジッとこっちを見ている。気にはなったが無視しておこうと思っていたら、突然声を掛けてきた。
「もしかして宮瀬じゃないか?」
俺はその声に反応して振り返り、その男子の顔をよく見ると中学時代のチームメイトの井藤慎吾だった。
「やっぱり、宮瀬じゃん」
「久しぶりだな慎吾、卒業して以来か?」
慎吾が笑顔で懐かしいそうな顔をしていて、俺も笑顔で答えた。美影は隣で不思議そうな顔をしている。俺達の注文の順番が来て美影と一緒に注文をして、商品の受け取り口に移動する。
「美影、アイツも一緒にいいかな?」
「えっ、あ、うんいいよ、せっかくだものね」
美影は嫌な顔をせずに笑顔で承諾してくれた。直ぐに慎吾に話をすると、「いいのかよ」と一旦躊躇したが、美影がすかさず「気にしなくていいですよ」と言ってくれた。
タイミングよく三人が座れる席が空いた。俺と美影が並んで、俺の対面に慎吾が座った。
「コイツが中学のチームメイトの井藤慎吾で……」
「私は宮瀬くんのクラスメイトの山内です」
俺が言う前に美影が自己紹介したけど、慎吾は怪訝そうな顔をする。
「クラスメイト……彼女じゃないの?」
慎吾の言葉に俺はやはりそうきたかと、どう返事をしようかと悩んでいると、美影が笑みを浮かべてまた先に答える。
「ふふふ、宮瀬くんがこれだからね……だからまだクラスメイトかな」
美影の返事を聞いて俺が焦っていると目の前にいる慎吾も意味深な笑いをして俺を見る。
「宮瀬、お前は進歩してないな……」
慎吾の少し呆れたような口調で言われて、俺は愛想笑いをするしかなかった。
「あれっ、山内さんて……」
突然、慎吾が何か記憶を辿っているような表情をしていて、俺は不思議そうに慎吾と美影の接点があったのかなと慎吾の顔を見ていた。
「思い出した。そうそう、俺達の試合によく観に来てたよ、それとあの……何度か話しかけに来てたよね」
そう言われて美影は少し赤くなりながら恥ずかしそうな表情をして頷いていた。
「凄いな慎吾、よく覚えてるんだ……」
俺は感心して呟いたら、慎吾は当たり前だという顔をして「特に可愛い子はな」と付け加えた。その後、慎吾と元のチームメイトの近況の話をしたり、中学時代の思い出話をした。隣に座っていた美影も退屈な顔一つせずに楽しそうな顔をして話を聞いていた。
「そろそろ約束の時間だし行くわ、隣の彼女にも悪いからな……宮瀬、お前いい加減にしっかりしろよ」
慎吾は再び意味深な笑いをして美影を見てから、俺を何故か励まして席を立ち店を出て行った。慎吾が行った後に美影に一言謝ろうとした。
「ごめんな美影、退屈だっただろう」
「全然、面白かったわよ、でも、井藤くんよく覚えていたわね、誰かさんは覚えてなかったけど……」
美影が少し冷たい笑いをするので、俺はもう一度美影に頭を下げて「ごめん」と何故か謝ることになった。直ぐに美影は笑顔で「冗談よ」と優しく言ってくれた。
店を出た後は、ゆっくりと寄り道しながら駅に向かっていると時間的にもいい感じになっていた。駅に着いて、ホームで電車を待っている時に、一つ聞いておかないといけない事を思い出した。
「えっと、美影……」
「なに? どうしたの」
俺が深刻そうな感じで聞いてきたので美影はどうしたのか心配そうな顔をしている。
「美影は、小学校の頃の事、覚えてるよね……」
「えっ……うん、覚えてるよ」
俺の質問に美影少し驚いた表情を浮かべるがはっきりとした口調で答えた。
「そうか……」
「うん、忘れてないよ……だいすきなよしくん」
美影が小さく呟くと、俺はハッとして美影の顔を見ると真っ赤な顔をして恥ずかしそうにしている。その美影の顔を見て、俺の頭の中に記憶が蘇ってきた。
「あの時の……」
思わず立ち上がり俺がそう言うと美影は小さく頷いて、今まで見たことないくらいの優しい笑顔を見せてくれた。俺が美影に話しかけようとすると、タイミング悪く電車の到着ベルが鳴る。
美影は恥ずかしさを振り払うように俺の腕を取り朝の時と同じようにホームドアの前に引っ張って行こうとする。しかし朝とは違って何か別の恥ずかしさがあり、お互いぎこちなさそうに歩いていた。
結局、その後はお互い目が合うけど微妙な感じで顔を赤くして言葉を交わさなかった。
帰り際に、美影は「宮瀬くん、また明日ね」と恥ずかしそうに言ってバスに乗り込んだ。俺は美影を見送り、自宅方向の違うバス停に向かったが、まだ顔が熱いように感じた。
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