待ち合わせと約束 ①
部活が終わり、帰宅して食事を済ませて自室でくつろいでいた。部活は前日が休みだったので、今日は通常通りの練習でキツイ訳ではなかったが、前の晩にあまり寝られなかったので寝不足気味だった。机に座って宿題をしていたが、食事後の満腹感ど睡魔でついうとうととしていた時に、スマホの着信音が鳴り、寝ぼけ眼でスマホを見る。
(あれ? メールじゃないみたい……)
寝ぼけていて状況が把握出来きなくて、画面を見ると絢からで、やはりメールではなく通話だった。いつもならメールなのに何かあるのかなぁ……と考えながら通話をタップする。
「もしもし……」
「あ、よしくん……こんばんは……ごめんね突然……」
「ううん、どうしたの?」
特に変わった様子がない絢だった。俺は出来るだけ平静を装うが、やはり内心かなり驚いて一気に目が覚めてしまった。
「もしかして、寝てたのかな……部活で疲れてた?」
「あっ、い、いや、ね、眠たくないから大丈夫だよ」
どこかで見られていたのかと焦ってしまい、とっさに誤魔化した。
(この前の絢と美影の事で寝不足気味だとは言えるわけがない)
「そう良かった……あのね、この前の試合も見てたけど、やっぱり凄いよね、よしくんは」
「あぁ、絢の学校との試合ね」
「うん、だって試合の中で苦戦していてもよしくんがどんどんと上手にシュートを決めていくんだもん」
「そ、そうかなぁ……」
絢は楽しそうに話している。俺は電話越しだけど何か恥ずかしくなってしまい照れてしまう。
その後も絢と世間話のような会話をして、まるで側に絢がいるかのような錯覚に陥りそうになった。当たり前のように絢が側にいた中学時代を思い出してしまい、三十分近く会話をしていた。
「あっ、もうこんな時間だ」
「ホントだな、あっという間だな」
「ふふふ、こんなにいっぱいよしくんと話をしたのは久しぶりだね」
嬉しそうな声で話す絢の姿が見えそうな気がしてとても楽しかった。でも一つだけ気になる事があった。それは美影の事だった。この会話の中で一度も美影の名前は出てこなかった。俺から聞くのも変だなと美影の名前を出す事はしなかった。
(また聞くチャンスはあるだろう……)
時間も遅くなってきたからそろそろ電話を終わろうとした時に絢が「ちょっと待って」と言ってきた。何事だろうかと気になる。
「どうしたの?」
「あのね……週末にどこか予定が空いてない?」
「えっ、週末⁉︎」
「そ、そう……」
絢が恥ずかしそうに顔を赤くしている姿が思い浮かんでくるが、俺もなんだか恥ずかしくなってきた。
「そ、そうだな……来週土曜の昼からなら、練習も午前中で終わるし、大丈夫だよ」
「はぁ〜、良かった……うん、じゃあ来週の土曜ね、また時間と待ち合わせ場所は連絡するね」
緊張が解れたのか絢の声は嬉しくてたまらないようだった。最後に絢は「またね、おやすみ」と言って電話を切った。
電話を切った後、俺は胸の奥がモヤモヤとして素直に喜ぶことが出来なかった。何故、絢との約束を来週にしたかというと……実は今週末も練習が午前中に終了するのだが先約があったのだ。
昼休みに恵里と話をして、教室に戻った時に美影が俺に話しかけてきた。
「宮瀬くん、今度の日曜の午後、買い物に付き合ってくれないかしら、一昨日の試合のお祝いも」
「あぁ、いいよ、毎度の事だな」
「ううん……毎度の事じゃないけど」
「えっ、どういう事?」
俺が不思議そうな顔をしたが、美影は「なんでもない」と小さく悪戯ぽい笑いをして席に戻った。
放課後、美影の一言が少し気になったので練習前に一人で準備をしていた志保に日曜日の予定を聞いてみる事にしたが、意外な答えが返ってきた。
「なに、日曜日? どういう事?」
「えっ、日曜日の午後だよ、美影と買い物に行くんだろ」
志保は寝耳に水みたいな顔をしていたので、俺がもう一度同じ事を聞いてみた。志保は何かピンときたみたいで「ははーーん」と言ってニヤッと笑っていた。
「私は行かないわ、美影と由規の二人きりだよ」
俺がポカンと驚いているのを見て志保はニヤニヤと笑っていた。
確かに美影は志保も行くとは言っていなかった。だからと言ってきちんとした理由も無いのに美影との約束をキャンセルする事は出来ない。
俺の側で志保は楽しそうに独り言で「さすが美影ね、ホント進歩したわ」と呟いていた。
「まぁ、二人で楽しんで来てね」
志保は優しい笑顔で俺を見ていた。昼休みに恵里と話していた事が頭を過ぎる。
(今の気持ち……やっぱり今は美影なのかな……)
俺の勘違いと言えども、美影と出かけることには全く違和感はないし普通の出来事みたいになっている。美影がいるのが当たり前の日々だ。
練習が始まりいつも通りのメニューをこなしていると、志保が美影に話しかけている姿を目にした。あまりジッとは見ていなかったけど、志保が話した事に美影は恥ずかしそうな反応をしていたのできっとさっきの話をしているのだろう。
きっと美影は俺に教室で話しかけてきた時に本当は恥ずかしかったのかもしれない、美影は俺に分からないように頑張ったに違いない。その美影の何気ない姿を思い出して愛おしく思ってしまった。
(ちょうど良かった、小学校の頃の話を聞けるかもしれない……)
そんな事を考えて練習を続けていた。練習が終わった後に美影が「ゴメンね」と言ってきた。美影は志保の話を聞いて、俺の勘違いに気が付き謝って来たのだ。
美影の中では罪悪感があったみたいで、「嫌だったら断ってもいいよ」と言ってきたが、俺は全然無いので、「大丈夫だよ」と返事をした。美影は「ありがとう」と言って満面の笑みを浮かべていた。俺もほっとしてはにかんでいた。
「詳しく事はまた明日決めようね」
美影は少し顔を赤らめて言って笑顔で今日は別れた。俺もこの時は何も考えること無く明日を楽しみにしていた。
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