記憶と想い ②
帰宅してから調べようと思ったが、試合の疲れで力尽きて寝てしまった。翌日、いつもの様に登校して前日の疲れが抜けきらずに教室でぼやっとしていた。
「おはよう、ねぇ、アンタ、大変だったみたいねぇ……」
ニヤッと笑みを浮かべながら興味ありそうな顔で大仏が前に立っているので、「はぁ〜」とため息を吐き大仏の顔を見上げる。
「お前はどこまで知っているんだよ」
「えっと、笹野さんと山内さんが幼友達だっていうところかな」
「ほとんどじゃないか……なんかもう筒抜けだなぁ」
俺はがっくりと肩を落として、話す気力も無くなりそうだ。そんな俺の姿を見て大仏は「仕方ないね」と笑っている。
しかしこの前、初めて絢と美影が会った後に美影が呟いた言葉が気になっていた。
「でも……美影との記憶が無いんだよなぁ……」
「へぇ〜、そうなんだ……でも同じクラブにいたんでしょう?」
「まぁ、絢と一緒にいたのだから間違いないけど……」
俺は困惑した表情をしていたが、大仏は俺の顔を見て考える素振りをする。
「う〜ん、山内さんとは高校で初対面だったから、幼馴染みのアタシが知らないということは、そのクラブで間違いないでしょう」
「やっぱりそうだよな、まずは家に帰ってから写真か何か手掛かりを探してみるか……」
今日は部活が休みなので探すには丁度良かった。大仏も「そうしてみれば」と頷いていた。
下校するまで、何度か美影と話す機会があったが、いつもと変わらない様子で、特に絢の事を聞かれたりもしなかった。
帰宅してから、とりあえず手掛かりとして写真を探してみた。過去の写真はきちんと印刷してアルバムに整理してあったので探しやすくて母親に感謝した。
一冊づつ遡る様にアルバムをチェックしていたが、意外と記憶が無い様な写真があって驚いたりしていた。見始めて三冊目の辺りから小学校時代のクラブでの写真が出てきて、絢と一緒に写っている写真が出てきた。
ちょっと恥ずかしそうに一緒に並んでいたり、お互い楽しそうに笑っていたりする写真が何枚もあった。
(一緒に写っている写真、かなりの枚数があるなぁ、こんなに写真があるとは……)
次のアルバムに移るとさっき見ていたアルバムよりも少し幼い感じがする写真が増えた。
(あっ、あった……多分これだ)
三人で写っていて、笑顔で仲良く手を繋いでいる。真ん中が俺で右に幼い顔だが間違いなく絢でその反対側も幼いが目鼻立ちをよく見ると美影の顔だった。この後も三人で写っていたり、絢と美影とそれぞれ一緒に写っている写真が多数あって更に驚いた。
(こんなにあるのか……)
この頃の絢と美影は背格好が同じ位で髪型も似ていて、まるで姉妹か双子のような雰囲気だ。俺の中の美影の記憶が曖昧なのは多分この似た姿のせいだろう。しかしどちらかというと絢よりも美影との写真が多い……その事を写真を見終わってから母親に聞いてみるとやはり美影との仲の方が良かったみたいだ。あの頃の思い出は全部が絢だけではなくて半分以上は美影との思い出なのかもしれないが、何故美影との記憶が曖昧なってしまっていたのか不思議になる。
「あれ〜忘れたのかな? 由規はその子のことが大好きだったからねぇ〜」
昔を懐かしむかの様に微笑する母親が衝撃的な発言をしたので、俺は座っていた椅子から転げ落ちそうになる。
「な、な、なんて?」
「だって、その子がもう来れなくてなるって時、由規は大泣きだったわよ」
更に衝撃を受けて俺は唖然とした顔をしている。その様子を見て母親は笑っているが、全く記憶にない……というより記憶を抹消してしまったのか……それだけ、強烈に悲しい記憶だったのだろう。悲しさを紛らす為に絢との思い出と一緒になってしまったのかもしれない。なんとも言えない気持ちでこの日はなかなか眠る事が出来なかった。
翌日、当然の様に寝不足だった。
「おはよう、どうだった?」
朝イチから興味津々な顔で結果を聞こうと大仏がやって来た。俺は眠たい顔を上げて大仏を不機嫌そうに見る。
「お前、この顔を見て分からないか、今の気持ちを……」
「わかる訳ないでしょうと言いたいところだけど、今日は何も聞かないであげる。まぁ、いつものように悩みなさい」
大仏は嘲笑うような顔で俺を見ているが、これ以上大仏に当たっても仕方がない。大仏も察して直ぐに席に戻って行ったが、その様子を美影が心配そうに見ていた。
昼休みに美影が今朝の様子からして俺の所に来そうな気がしたので、先に教室を出て美影と顔を合わさないようにした。美影に対してどんな顔をしたらいいのか分からなかったからだ。
中庭に行き、丁度木陰のベンチが空いていたので座って、売店で買ったパンを食べていた。今日はあまり食欲がなかったので弁当は持って来なかった。気分もイマイチなので部活を休もうかと考えていた。
「はぁ〜」
大きなため息を尽き、青く澄んだ空を眺めていたら、突然元気な声がしてきた。
「せんぱーい、こんな所で、どうしたんですか〜」
座っているベンチの空いている俺の隣に恵里が座ってきた。手には紙パックのジュースを持っている。
「元気ないですね〜、これ飲んで元気出して下さいよ」
「恵里……それ飲みかけだよね……」
呆れた顔で恵里を見る。紙パックのジュースにはストローが刺さっていて、座る前に飲んでいたのを見ていた。
「えへへ〜、バレましたか、先輩が間接キスするかと思ったのに〜」
恵里は小悪魔のような笑みを浮かべて俺の様子を見ているが、相変わらず綺麗な顔で、高校に入ってからは更に大人びた感じになった。
「普通にしてたら、ホント文句を言うこと無しなんだけどなぁ……」
呟くように言うと恵里は頬を膨らまさせて拗ねた表情をして、ジッと俺を見てプイとよそを向く。
「ふん、先輩のイジワル」
俺は直ぐに「ごめんなさい」と謝ると恵里は「しょうがないなぁ」と言ってふふっと笑い元の表情になる。
「それで、何かあったのですか? 落ち込んだ様な顔をして」
恵里が真面目な顔で心配そうにしている。こんな顔をされると中学の時の事を思い出してしまう。どうしようかなと迷ったが、これまでの経緯を簡単に説明をして最後に今の心の内を話した。
「うーん、上手いこと説明出来ないけど、思い出が、実際と記憶が、違うんだなぁ……本当の気持ちがよく分からないんだよ……」
俺は空を見上げながら思い悩んだ表情で話すと、恵里が明るい表情で励ます様な感じで答えてくれる。
「過去の記憶を悩んでもどうしようもないですよ、今が大事なんじゃないですか、過去に捉われず今の気持ちが一番ですよ」
恵里の言葉で胸にあったモヤモヤが晴れてきたような気がしてきた。やっぱり恵里は優しくて頼りになる、本当に大切な後輩だと改めて実感した。
「そうだよな、ありがとう……恵里」
俺が一言お礼を言うと恵里は、可愛く首を横に振り微笑んでいる。
「そんなたいしたこと言ってないですよ……それで二人にフラれたら私のところに来てくださいね、待ってますよ」
ニヤッと可愛らしく笑って恵里は俺の顔を見る。一瞬、ドキッとしたが直ぐに我に返り「こらっ」とふざけた感じで怒るマネをした。ホント、恵里には頭が上がらないなと内心思った。
「そろそろ戻ろうかな」
「じゃあ私も、楽しかったよ先輩、またお話ししましょうね」
俺は立ち上がり、隣に座って楽しそうに微笑んでいる恵里の姿は、本当に可愛いらしかくて勿体ないぐらいだった。昼休みも終わりそうな時間になりお互いそれぞれの教室に戻って行った。
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