再スタート
部活の練習が終わり、帰宅してからも気持ちは落ち着かなかった。夕食を済ませて部屋に戻ると普段は用事が無い限り使わないスマホを持ったまま考え込んでいた。
(どうしよう……学校にいる時は決心したのに)
自分が決めたことを後悔しながら、スマホを手に持ったまま固まっている。でもここで行動を起こさないとまた同じ事を繰り返してしまうだろう。
(あぁ〜、もお〜、うぅ〜、どうするんだ俺)
段々とマイナス志向の考えになってきそうな雰囲気だ。すると突然、スマホにメールの着信音が鳴った。驚いて画面をみると大仏からだった。
ふぅ〜、と大きくを息をはいて大仏からのメールの文面を確認する。
「まだ、連絡してないの? 早くしないかこのヘタレ!」
期待はしていないが、予想通りというか何ていうか……そんな文面のメールだった。どこからか覗いているんじゃないかと疑うぐらいタイムリーな内容だ。今日中に何かしら行動を起こしておかないと次に何を言われるか分からない……
ここは意を決して、そう思い再びスマホを持ち上げて画面をタップし始めた。やはり直接話しをするのは何を話していいのか困りそうなので、ショートメールを使うことにした。
文面も「連絡が遅くなってごめん」といった感じのシンプルな内容になった。
色々と葛藤したが、もうこれ以上悩んでも仕方ないと最後に送信をタップした。
それから暫くして、返事が来た。
「ありがとう、やっと送ってくれたね」
もしかしたら怒ってるかと想像していたが、文面を見る感じではそんな雰囲気ではなかった。その後は安心をして学校での出来事をお互いメールでやり取りをした。
顔を見ていない分、恥ずかしさや照れが無いのでメールに対して抵抗感は少しずつなくなってきた。
内容的にはたいしたことないのだけど、三十分くらいやり取りをして「またね、おやすみ」と終了した。終わった後は、絢と一緒にいた頃をちょっとだけ思い出して、こんなことなら早く連絡すれば良かったと後悔した。
週末の部活は月末の大会に向けて新入生も加わりハードな練習内容だった。
「問題が解決したみたいで、調子良さそうね」
練習の合間に美影がやって来て、意味ありげな笑みを浮かべている。
「別に問題なんかないよ、調子が良いのはたまたまだ」
「そうかな? この前と比べたら全然違うけどね」
「気にしすぎじゃない、そんなに変わらないけどなぁ」
確かに言う通り動きはかなり良いしその理由も分かっているけど、俺は適当な事を言って誤魔化そうとしたが、流石に美影は細かいところまで見ている。
「私の方が志保より宮瀬くんを見ていたのは長いから誤魔化されないわよ」
ふふふっと笑いながら美影の顔は自信満々で、何でもお見通しという感じだった。美影には敵わないなと笑っていたが、昨日の事を話す訳にもいかないので何とかはぐらかそうとした。
「そんなことない、いつもと変わらないよ」
「まぁいいわ。でもあんまり心配させないでね」
そう言うと少し寂しげな表情で美影は志保がいる方に戻って行った。
俺は美影の後ろ姿を見て少し罪悪感が残った。練習が終わった後に、気になったので美影に声をかけたけど、「どうしたの?」といつもの優しい表情だったので安心はした。
休み明けの日、早速朝イチに大仏が俺の所にやって来てどうだったか確認をする。
「ちゃんと連絡したの?」
「あぁ、メールをしたぞ、三十分くらいやり取りをした」
俺はドヤ顔をしていたが、若干呆れ顔して大仏が見ている。
女子からしたらたいしたことではないが俺にとっては大きな進歩だ。そこは大仏も分かっていたようで直ぐに諭すような笑みを浮かべて話す。
「ヘタレのアンタが一歩進んだのは分かった。でもこれから先が大事なのよ、学校も違って頻繁に会える訳じゃないだから、まぁ、アンタ達がどうなろうと関係ないけどね」
いつもの大仏節だが、その通りなのだ。これから先をどうするのか、ハッキリとしたものがないのが現状だ。絢とは一年以上殆ど連絡すら取っていなかったし、俺の周りの状況も大きく変わっている。
「……そうだよな、何かもうどうしたらいいのか……」
つい頭の中で考えていた事が口にでてしまい、大仏は蔑んだような目でみて冷笑している。
「全てアンタのヘタレさが生んだ事でしょうが……」
「……」
「仕方ないわ、それがアンタだから、皆んな分かっているわよ、慌てずにしっかり悩んで答えを出しな……」
何も言い返せず俯いてしまっている姿を見て大仏は励ますかのように言って自分の席に戻り、俺は大きく息を吐き顔を上げた。そんな様子を美影はじっと見ていたのか、顔を上げた瞬間に目が合ったけど、直ぐに美影は目を逸らして隣の席の子に話しかけていた。
二年生になって志保は、以前より大人しくなったような気がするが、美影の様子がこの最近今まで違うような気がする。特に恵里が入学してきてからだけど、俺の思い過ごしなのかもしれない……この後はいつもと変わらず過ごして放課後になった。
「私も一緒に行くよ」
机の周りを片付けて鞄を持とうとした時に志保が近づいて声をかけてきた。俺は志保の顔を見て珍しいなと一緒に行く事にした。
「美影は? 一緒じゃないのか」
「うん、美影は今度入った一年生のマネージャーに準備の仕方を教えるから先に行ったの」
「へぇ〜そうなんだ、マネージャーが入ったんだ」
この前から一人、美影と志保と一緒にいる子がいたのは知っていたが、その子がそうだったのかと考えていたら、志保が少し深刻そうな表情で聞いてきた。
「ねえ由規、美影と何かあったの?」
「何だよ急に、美影がどうかしたのか?」
さっきまで同じ様な事を考えていたので驚いたが、思い当たる節も無いので逆に志保に聞きたいぐらいだった。
「ううん、いいや、やっぱり気にしないで、大丈夫だから」
志保は、何か隠しているような笑い方をしてはぐらかそうとした。俺もあまり追及するのはどうかとそれ以上何も聞かなかった。
「まぁ、何かあれば、言ってくれよ。力になれるかどうか分からんが……」
「はいはい、分かりました。由規は変わらないねぇ……」
何故か少し呆れられた感じで志保に言われたが、表情はいつも通りだったので気にせずにそのまま体育館の方向へ一緒に向かった。
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