新学期 ②

 二年生の新学期が始まった。クラス替えはあったのだが……目の前に見慣れた奴が立っている。


「まどかさん、何故そこに立っているのかな?」

「あら、同じクラスだからでしょう、よしのりくん」


 お互いにワザと芝居じみた感じで名前を呼びながら二人共うんざりとした顔をしている。

 俺は大きなため息をついてもう一度大仏の顔を確認して項垂れる。


「人の顔を見てため息なんかついて失礼よね。仕方ないでしょう、アタシだって好き好んで同じクラスになった訳じゃないの」

「はぁ〜、確かにお前のせいではないけれど……これで何年目だよ」


 もう中学の頃から五年も連続で同じクラスになる。この学校は三年になる時にはクラス替えがないので自動的に来年も同じクラスになる訳だ。


「まあいいわ、由佳との約束が実行しやすくなったからね、いろいろと……」


 大仏がクラス全体を見回して、ある方向を向いてうんうんと頷いている。その方向には志保と美影がいる。


「何だよ、その意味深な態度は……」

「別に、気にし過ぎじゃない? 何か心当たりでもあるのかな?」


 大仏の顔は明らかに何か言いたげな感じだが、言われなくても大体の察しはついている。この前の白川との電話で話した内容のことに違いない、大仏を通して様子を伺うということだろう……


「あまり話を盛るなよ、頼むから……」

「はいはい、そんなことしないから安心しなよ。どうせアンタのことだから劇的に状況が変わるとも思ってないし、期待なんかしてないよ」


 当たり前のように分かりきった口調で言われ、改めて大仏の俺に対する扱いを思い知らせる。俺はまた一つ大きなため息を吐いた。


  午後から入学式があるので関係者以外の生徒は昼前には下校になる。もちろん俺は、関係者でないのでこのまま下校する予定だ。


「由規、お昼食べに行かない?」


 志保が帰りの支度をして、直ぐに俺の所にやって来た。

 新しいクラスになったばかりなので席は五十音順に並んでいるので志保は反対側の教室の入り口側で、俺の近くには美影がいる。


「ねぇ、美影も一緒に行くでしょう」


 俺の席の所から志保は尋ねて美影は笑顔で頷いている。


「ほら、美影も行くって言ってるから、行こうよ!」

「分かった。行きますよ」


 部活は入学式がある為に休みで、家に帰っても特にすることもないので一緒に行くことにした。

 返事を聞いた志保は嬉しそうな顔をしている。


「とりあえずAモールにでも行って考えようか?」

「それなら俺は自転車だから先に行ってるから着いたら電話してくれ」

「そうね、私と美影はバスだから……今のタイミングであるかな?」


 バスの時間さえ合えば、到着する時間はそんなに変わらない。三人で昇降口まで一緒に行き、俺は自転車置き場に行き、二人はそのまま校門方向に向かった。

 自転車に乗り校門に向かうと途中で二人の後ろ姿が見えたので追い越し様に声をかける。


「じゃ、後で」

「気をつけてよ……」


 二人が声を合わせて返事をしてくれたので、手を振って答えた。校門を出て坂を下ると両脇に桜の花が風に煽られて散っていて桜吹雪のようになっている。その中を通り過ぎて、最寄りのバス停前を通過するとまだ結構な人数の生徒がバスを待っているようだった。

 次に来るバスに二人が間に合えば、先に着いてもあまり待たなくてもよさそうだ。俺は慌てることなく春の心地よい風を感じながら普通に自転車を漕いで目的地に向かった。結局、二十分もかからずに目的地に到着したが、まだ二人を乗せたバスは来ていなかった。分かりやすいようにバス停側の入り口近くで待つことにした。

 平日だが、割と制服姿の学生を見かけるので皆んな考えてることは同じようだ。行き来する人を眺めながら待っていると、携帯が鳴る。着信の履歴を見ると志保からなので、居場所を伝えると暫くして話しながらやってくる二人の姿が見えてきた。


「ゴメン、待った?」

「そうでもないよ、バス間に合ったんだね」

「うん、間に合うには間に合ったけど、人が多いこと……ずっと立ちっぱなしだったよ」


 二人共、ちょっと疲れた様な表情をしているのはそれが原因のようだ。でも疲れていてもやはりお腹は空いたようで志保が急かすように言ってくる。


「では早速食べにいこうよ」

「ハイハイ、分かりました。でも俺あんまり小遣いがないから……」


 申し訳なさそうに俺が言うと志保は頷き、「分かってるよ」と一言笑顔で言ってファーストフードの店に向かっていった。その後ろを美影がついて歩いている。


「美影もよかったの、ここで」


 俺が尋ねると「うん」と笑顔で頷き、問題なさそうな感じだった。


 三人で店内に入り、各々が注文して商品を受け取り席を探すが、時間的にも混雑していて三人分の座席がなかなか見つからなかった。いつの間にか志保が離れた場所に移動していて、そこでたまたま席を立つグループがいたので志保がすかさず席を確保する。


「こっちだよ!」


 志保が手を振り、俺と美影に合図するので、二人で顔を見合わせて、「さすがだね」と言いながら移動した。

 四人がけのテーブルなので、志保て美影が並んで座り、志保の対面に俺が座った。お腹が空いていたので、三人共に「いただきます」と言ってまずは食べ始めた。

 それから少しすると美影が志保に話しかける。


「良かったね、志保。今年は皆んな同じクラスになれて」

「本当に良かったよ。昨年は一人だけ違うクラスでおまけに教室も離れていたから寂しかったんだよ」


 志保の嬉しそうな顔を見ると本当に良かったなと、俺が少し茶化すように話に割り込む。


「でも部活で殆ど毎日顔合わせてたじゃん」

「え〜、全然分かってないな……部活とまた普段の教室は違うよ。体育祭や文化祭におまけに今年は修学旅行もあるよね」


 志保は俺の言うことを簡単に否定して楽しそうに美影の方を向いて同意を求めると、美影も同じように楽しそうな表情で頷いている。この二人の様子を見て、今年一年はいろいろな意味で大変な年になりそうな気がしてならなかった。そんな会話を二人がしているのを俺はポテトを食べジュースを飲みながら聞いていた。


「そう言えば、由規……」


 志保が不意に声をかけてきたので驚いてしまったが、「何だ?」て話を聞いてみる。


「今朝、教室で話していた大仏さんて由規の何なの? 凄く親しそうに話していたし、なんて言うか馴れ馴れしく話をしていたみたいだから……」

「はぁ〜、何なのって言われると……簡単に言えば幼馴染みみたいな感じかな……でも世間一般の幼馴染みのイメージとは違うぞ」

「何よそれ……」


 志保は少し呆れたような顔をしているが、昨年同じクラスだった美影は俺の言いたいことは分かっているみたいで、小さく笑みを浮かべている。


「まぁ、悪い奴ではないんだが、いろいろと問題がある奴かな……腐れ縁みたいな感じだよ」


 志保は納得したようなしてないような微妙な表情をしている。多分、今頃大仏は大きなくしゃみを連発しているかもしれない……それから小一時間程話をして店を出た。


 志保と美影は行きたい店があると言うので俺はここで別れて用事もないので自宅に帰る事にした。そもそも学校から自宅とは全くの反対の方向に来ていて、天気が良くて時間もある。


(回り道でもして帰るか)


 中学時代に通っていた道を通ってみようと自転車をこぎ始めた。時間的にお昼も過ぎて下校している中学生はいないし、その他の学生らしき姿もない。俺は何も考えず軽快に自転車を漕いでいた。

 すると前方から三人組の別の高校の女子が自転車に乗ってこちらに向かっていた。特に気にする事なく自転車を運転をしていたが、すれ違う手前でその三人組の女子の一人と目が合った。


「あっ……」


 すれ違う瞬間に声が出てしまったが、目の合った子も同じように声を出した。俺は一瞬立ち止まったが、三人組の女子はそのまま行ってしまった。


(あれは間違いなく絢だ……)


 絢も俺の事には気がついていたみたいだが、一緒にいた二人が行ってしまうのでそのまま行ってしまったようだ。俺は絢達を追いかても変質者扱いされるのも嫌なのでこのままここで諦めた。

 この最近、絢を見かけたりする機会が増えたような気がするのでまた近いうちに会って話せるチャンスがあるだろうと前向きに考えて、素直に自宅に帰る事にした。

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