練習試合と再会 ②

 白川は落胆をしている俺にとどめを刺すような質問をしてきた。


「宮瀬くん、一つ質問だけど、あの時の絢の返事はまだ聞いていないの?」


 白川は多分、絢からなにも聞いていなくて知らないのだろう。絢もそんな事を自分から話す性格ではない。


「あぁ、返事は聞いていないし、あれから一度も会っていないよ」

「えっ、本当に……会ってないの?」


 不思議そうな顔をして白川が俺を見るので少し身構える。


「本当だよ、一度も会っていない……」

「絢は何度もバスケの大会を見に行っていたのよ。宮瀬くんの高校の試合に合わせて」


 白川の話を聞いて少し驚いたが、俺が残念そうな顔をするので白川は何かマズいことを言ってしまったかのような表情になる。


「そうか……最初の大会で怪我をして手術をしたんだよ。それからリハビリとかでやっとこの前の大会の最後に出られるようになったんだ」


 そう話すと白川は目を丸くして黙っている。


「だから一度も会ってないし、会う機会もなかったんだ……」

「そうなの……何かごめんね……」


 申し訳なさそうに白川が頭を下げる。


「別に白川が謝る事ではないし、俺が情けないだけだから気にしないでくれよ」


 あまりに暗い空気になりそうなので俺は軽く笑っていたが、白川が真面目な顔をする。


「絢は忘れていないよ、宮瀬くんの事を、絶対に……」


 そう言いかけたところで俺を探している声が聞こえてきた。振り返り辺りを見回すと美影の姿が見えたので手を振ると、気が付きこちらに走って来る。


「やっと見つけたよ。アレ、彼女は?」


 白川の存在に気が付き美影は呼吸を整えて質問するように俺の顔を見る。


「中学時代のクラスメイトだよ」

「元クラスメイトの白川です」


 白川は丁寧にペコっと頭を下げる。


「バスケ部のマネージャーの山内です」


 律儀に美影まで頭を下げるので、俺は思わず笑ってしまったが、美影にはそんな余裕がなかった。


「宮瀬くん、大変なのよ」


 慌てた様子の美影を見て白川が遠慮気味に会話の間に入ってくる。


「私、行くね。宮瀬くん頑張って」


 そう言うと走って校舎の中に消えていった。俺はまだ話の途中で聞きたいことがあったので心残りだった。


「で、何だよ。大変って」


 気持ちを切り替えて美影に話しかける。


「志保が……さらに機嫌が悪くなっててを付けられないのよ、今はキャプテンが話してるけど、宮瀬くんを呼んでこいって……」


 その話を聞いて俺は大きくため息をつくと同時に項垂れて言葉が出てこなかった。


「分かった、すぐに戻ろう……」


 二人共駆け足で体育館に戻って行った。急いで戻ってきたが、志保はもう落ち着いた様子で試合開始の準備をしていた。一緒にいた美影はその様子を見て安心したようで俺の顔を見てニコッと笑って志保のところに行った。


「大変だったんだぞ、宮瀬。でもキャプテンが上手い事なだめてくれたから助かった……」


 長山は冷やかし半分で話しかけきたので、俺は分かったと頷き黙って聞いていた。結局、絢がいない事が分かったし、志保も落ち着いたようなので試合に集中しようと気持ちを切り替える。試合前に橘田先輩には一応謝っておいたが、「これもキャプテンの仕事だ」と笑っていた。

 でも最後に「後は宮瀬がちゃんと話をしておけよ」と付け加えられたが、先輩には頭が上がらないと感謝しかなかった。


 いよいよ、練習試合が始まった。今回は、来週ある新人戦の決勝リーグに行く為の準々決勝の試合対策なのだ。

 復帰したが、実戦はこの前の地区大会に出場しただけで、それも途中からだ。この練習試合で実戦のカンや連携を確実に取り戻しておきたい。

 もちろんスタメンで試合が開始された。試合序盤相手チームは、俺にはあまり強く当たってこない。これまでの試合でも見かけていなかったし、背番号も大きい数字なのでマークが甘くなったのだろう。

 しかし俺が連続して得点を挙げると相手も焦ったのだろう、当たりが強くなってきた。その中でも更に得点を重ねていったので、相手チームはこんな奴いたのかという感じで俺を見ている。

 俺自身もかなり調子は良かったので、リバウンドも取れてシュートも決まり気が付けば、ハーフタイムまでにチームの半分近くの得点を挙げていた。ベンチに戻り、チームメイトが賑やかに迎えてくれる。


「宮瀬、さすが絶好調だな。相手チームもかなり意表を突かれていたぞ」


 俺の肩をポンっと叩きながら、楽しそうに橘田先輩が話しかけてきた。


「そんなことないですよ、先輩のパスがいいんですよ。皆んなも助けてくれるし、凄くやり易いです」


 少し遠慮気味に答えたが、久しぶりに楽しくプレーが出来ていた。明るいチームの雰囲気の中、志保もやっといつもの感じに戻ったみたいで笑顔を見せていた。

 俺も少し安心したところで、ハーフタイムが終わる間際に長山が気になる事を話してきた。


「あの二階の角にいるK田高の制服を着た女の子が宮瀬がシュートを決める度に手を叩いて喜んでいるんだよ、宮瀬の知り合いじゃないのか?」


 K田高はもちろん今日の練習試合の相手だが、そのK田高の応援じゃなくて俺達の学校を応援しているのは不思議な感じがする。もしかしてと思うが、この位置からだと顔がよく分からない。でも何となく確認できる背格好と髪型からすると似ているんだけど……


「来てないって言ってたからな……」


 そう呟くと、もう一度その女の子がいる二階を見上げるとこっちを見ているような気がした。


「そうか、違うのか……おっ、そろそろ始まるみたいだ」


 長山は立ち上がり軽く足を叩いて気合いを入れ始めたので、俺も気にはなったが同じようなに立ち上がって体を動かした。

 ハーフタイム後もチームの勢いは変わらず調子良く得点を重ねていった。俺は試合前橘田先輩にお願いしてフルで出させて欲しいと言っていたが、どこまで体力が持つのか確認したかったからだ。

 最後まで試合に出させてもらえたが、以前より体力がアップしたと言ってもフル出場はキツかった。試合が終わった後、また二階を見上げたが、女の子の姿はなかった。試合中は流石に見れなかったので、本当に絢だったのか分からずじまいだった。

 その後も練習試合は続いたが、俺は試合には出ずにベンチで試合を見ていたら、志保が隣に座ってきた。


「ゴメンね……」


 落ち着いた口調で志保は話すので俺も一言謝ろうとしたが、志保が首を左右に振る。


「……いいの、由規は悪くないから」


 そう言うと志保は立ち上がってチームの応援をし始めた。

 その後も志保はいつもと変わらない様子で俺に対しても普段と変わらないように接してきた。色々とあった練習試合は終了したが、なんとなく後味の悪い一日だった。

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