練習試合と再会 ①
年内最後の練習日にキャプテンの橘田先輩から練習試合の話があった。この前美影が言っていた通り、近場の学校が練習試合の相手だった。
その練習試合の相手が絢の通っている高校なのだ。場所も相手の学校になった。意識をしないようにしたがやはり顔に出てしまったようで、美影に「どうかしたの?」と不思議がられてしまった。
その時志保は俺の顔を見て、明らかに不機嫌そうな表情をしていた。
(もしかしたら志保は知っているのかもしれない)
しかし確認することは出来ずに年末年始の休みになった。
休みの殆どは出かける事なく自宅で過ごした。唯一、年明けに美影から連絡があり、「この前みたいに三人で初詣に行かない」と誘われた。特に用事もなかったので快諾したが、志保が行かないということになったので中止になった。
三が日が過ぎて部活も再開して、いつも通りの練習が始まった。
志保は相変わらず機嫌が悪そうで、俺とは全く目を合わせることもないし、話しかけてくることもない。他の部員に対しては普通に接しているが、明らかに俺にだけ態度が違っている。
「宮瀬、石川とケンカでもしたのか?」
長山がからかい気味に話してかけてきた。しかし俺は理由も分からず志保の不機嫌が続いているので困惑した顔をしていた。
「別に、思い当たる節はないんだけどな……」
「へぇ、そうなのか、あれだけ宮瀬にべったりだったのに?」
不思議そうな顔をして長山が俺を見て首を傾げる。
「大体、彼女って訳でもないのに、何であそこまで不機嫌な対応になるんだ」
「宮瀬、酷いこと言うなぁ、どう見ても周りからは彼氏彼女しか見えないぞ」
長山の少し冷めた反応を見て俺は驚いた。まさかこんな風に見られているとは予想もしていなかったので、あまり言うと俺が悪者になりそうな予感がした。
「本当に付き合ってないけど……ただ俺の態度がそう見えたなら反省しないと……」
「えらい真面目だな……まぁ、頑張れよ、石川相手だと大変だろうけど、ほどほどにな……」
最後には気の毒そうな顔をした長山だったが、もう少し志保との関係に気を付けないといけないと改めて感じた。
冬休みも残り少なくなり、いよいよ練習試合の日になった。近場の学校だったので、現地集合になり一人で行く事にした。K田高は、元々受験しようと思った学校なので道に迷う事なく到着した。
もしかしたら絢に会えるかもと思い集合時間より早めに着いたが、さすがに冬休みということもあり生徒はまばらで会えそうな予感はしなかった。
部員全員が集合して体育館がある方に向かう。校舎にはあまり人気がなく、グラウンドはサッカー部が練習をしているが、部員以外の生徒はいないようだ。
周りを見渡しため息をついていると、離れて歩いていた志保と目が合ったが、まだ機嫌は治っていないみたいだ。話しかけようとしたが、すぐに視線を逸らして隣にいた美影と会話をし始めた。またため息を吐くと後ろにいた長山が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫か、宮瀬。何かため息ばかりついているけど……」
「心配かけて悪いなぁ……でも大丈夫だ。試合には影響ないようにするから」
確かに体調が悪い訳ではない、ただ気持ちの問題だけなので、元気な素振りをして長山に返事をした。体育館に着くとまだ他の部活が練習中で、練習試合の開始が三十分ほど遅れるみたいな話しになった。
「各自でアップを始めてくれ、また時間になったらここに集合するように」
キャプテンの橘田先輩が皆んなに伝えるが、ほとんどがその場に残り荷物を置いて軽く体を動かし始めた。
マネージャーの二人だけ練習試合の準備をする為にこの場から離れていった。俺も他の部員と一緒にアップをしていたが、時間も少し過ぎて体も大分ほぐれてきたところで、どうしても落ち着かない。
長山に中学の時の友達がいたからと話してくると適当な事を言ってその場を離れた。
(もしかしたら絢がいるかもしれないもう一度探してみよう)
だが、当てもあるはずがなくウロウロと校舎の周りを歩いていたら、不意に横から声をかけられる。一瞬、こんな目立つ他校のバスケ部のジャージ姿で歩いていたのでヤバイと恐る恐る呼ばれた方を見る。
「あぁ、やっぱり宮瀬くんじゃない、久しぶりだね……」
白川が少し驚いた顔をして話しかけてきた。白川の姿を見て俺は安堵した顔で息を吐く。
「良かった……白川か、久しぶりだな」
「あれ、何か宮瀬くんひとまわりたくましくなった?」
白川の視線が上から下まで見るので少し恥ずかしかったが、当の白川はまだ驚いた表情のままだ。
「それが……手術したところをカバーする為にリハビリと筋トレをした結果だよ」
「すごいね……この姿を見たらきっと喜ぶんだろうな……」
意味深な事を白川が言うので、俺は緊張をして核心部分を聞く事にした。
「絢は今日、学校にいるのか?」
「残念だね、今日はいないよ。あの子は部活には入ってないのよ……」
俺は一気に気が抜けるような感覚になり、落胆するが笑って誤魔化すしかなかった。
「ははは、そうだよな……そんな……上手い事いかないよな……」
顔には出さなかったが、内心はかなり期待していた。でもそんな簡単にはいかないのがよく分かった。
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