学祭と委員 ②
学祭までの準備期間中は、山内の計画的な段取りの良さで買い出しから設営の準備、人員の配置まで問題なく進み、後は学祭当日を迎えるまでになった。ちなみに志保のクラスは、まだ全然終わらないと嘆いていた。
「本当に凄いな、前日まで全く問題なしだ」
「そんな事ないよ、宮瀬くんのお陰だよ」
「いやいや、俺なんか何もしてないよ、全て美影のお陰だって、ホント凄いって……」
そう言って山内を見ているとなんか様子がおかしく、まるで固まってしまったみたいだ。俺は不思議に思い山内の顔を覗き込むと顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
「あっ……もしかしてさっき……」
思わず美影って呼んでしまった事に気がつき言い訳をしようとしたが、ようやく山内は元に戻ったようで遮られるように話してきた。
「いいの、これからそうやって呼んでね」
何故、俺は美影と呼んだのかよく分からないが、完全に無意識だった。
(なんでだろう……でもすんなりと名前を呼んでたよな……もう考えても仕方ないか……)
これまで見たことがないくらいの最高の笑顔をしている山内を見ると、俺は頷くことしか出来なかった。
いよいよ学祭当日、初日は自校生徒だけだが、二日目は校内が解放され自由に来ることが出来る。だから二日目は初日と比べる事が出来ないくらい忙しかった。
その忙しさもお昼を過ぎてから落ち着き始めたので順番に休憩に入る事になった。俺は立場上、最後に休憩に入る事になり、やっと休憩時間になった。
「それじゃ、休憩に行ってくるよ」
そう言って教室から出て、志保のクラスに行くと展示とネットを使って何かするようで、あまり人がいない。
「志保、迎えにきたぞ」
椅子に座って案内係をしているようで退屈そうにしていた。
「遅いよぉ……おなか空いた……」
退屈すぎてちょっと疲れた様子だ。何故俺がここに来たのか、その理由はいつも練習に付き合ってくれているので、学祭のお昼を奢る約束をしていたからだ。
「それで何が食べたいんだ」
俺がおもむろに尋ねると、志保は嬉しそうに指折り数え始めた。
「えっと、焼そばにたこ焼き、それと甘いものも……」
予想はしていたが、遠慮ということを知らないのかとツッコミたくなったが、とりあえずは黙って聞いていた。
「じゃあ、俺も腹減ったしまずは焼そばでも食べるか」
そう言って二人で焼そばを売っている所へ行った。その後も暫く色々と食べながら何軒か廻って行った。
「ねぇ、ねぇ、これってデートみたいじゃない」
歩きながら嬉しそうに志保が言い出して俺は思わず吹き出しそうになる。
「いきなりなんなんだよ……」
むせかけたて志保の顔を見ると、微妙に志保の顔が赤くなっている。多分思ったよりも恥ずかしかったのだろう。
「もういい、このバカ……私、教室に帰る」
今度は頬を膨らませ拗ねてしまった。コロコロと忙しく表情が変わる子だ。そのまま志保は元いた教室に戻って行った。何が地雷だったのかよく分からなかったが、時間を見ると休憩時間を既でに過ぎていたので慌てて俺も教室に戻った。
教室に到着するや否や大仏が俺の所にあたふたした様子で走って来た。
「なんだ大仏らしくないな、何かあったのか?」
俺はどうせたいしたことじゃないと余裕のある気持ちでいた。
「アンタ、何かあったじゃなくて、来たのよ、来たの由佳達が……」
「はぁ、由佳達? もしかして……」
俺は一気に余裕が無くなり焦り始める。
「そう、由佳と笹野さんが来たのよ」
「ホントに……」
「で、ついさっき帰ったわよ、一足違いでね」
大仏の言葉を聞いてガックリと肩を落とし項垂れるが、大仏は冷静に俺の様子を見ていた。
「すれ違ったりしなかったの、まだその辺にいるかもよ……」
そう大仏に言われてもう一度教室の外に出るが、それらしき二人組の姿は見えなかった。
「ダメだ、見つかりそうにない……」
残念そうな顔で再び教室に戻ると、さすがの大仏も気の毒そうな表情をしていた。
「ツイてないわねぇ……またいつかチャンスがあるわよ」
大仏にしては珍しく俺を励ますように言って、持ち場に戻って行った。俺も何事もなかった様に仕事を続けて、大きな問題もなく無事に学祭は終了した。
「後は片付けだけだな」
周りを見るとクラス全員で片付けを始めたが、結構な人数がいるので予想より早く終わりそうだ。俺も進んで掃除をしたりゴミを捨てたりして協力する。
ゴミ袋も溜まってきたので捨てに行こうとしたら美影がやって来て私も手伝うと言ってくれた。
「大成功だったな」
両手にゴミ袋を持ち隣を歩いている美影に楽しそうに話しかけた。
「そうね、本当に良かったよ」
嬉しそうな顔をして美影は答えてくれる。
「一番の功労者だよ、美影は」
「そんな大袈裟だよ、宮瀬くんだってたくさん手伝ってくれたし……クラスの皆んなも」
恥ずかしそう表情をして小さく笑っていて、誰かと違い謙虚で可愛らしい……不意に会えなかった絢の姿が重なって見えてしまい少し切なくなった。
美影はそんな俺の表情の小さな変化に気づいたようで顔を覗き込んできた。
「どうしたの……何かあったの?」
「えっ、な、何もないよ……本当にありがとう、助かったよ」
一瞬、ドキッとして我に返り慌ててへんじをしたが、美影は何か変だと疑っている顔をしている。
「さぁ、早く捨てて、教室に戻ろう」
そう言って俺は誤魔化そうと足早にゴミ捨て場に向かった。疑っていた美影も慌てて俺についてこようとしていた。
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