後輩の憂鬱【恵里の視点】
夏休みも後半、部活を引退して三週間が経ち今日は宮瀬先輩の学校のオープンスクールに参加している。
「恵里、こっちの方みたいよ」
「ありがとう、とりあえず行ってみるね、また後で」
一緒に来ていた友達と分かれて、校内の案内図を手に体育館を目指した。オープンスクールで来たけど、まだこの学校を受験するかまだ分からない。今の学力からすると県内の有名な私立の進学校に合格する実力はある。周囲もそれを期待しているけど、私自身はあまり考えていない。
体育館に行く途中、この学校の生徒とすれ違うがほとんどの人が振り返る。
「そんなに目立つかな……」
思わず呟いてしまった。
(中学の制服を着ているけど見た目が同級生に比べて少し大人びた感じだからかな?)
自慢する訳ではないけど、スタイルにはちょっとだけ自信はある。友達にもよく羨ましいがられているけど、それなりいろいろと努力はしているからね……
「あ、見えてきた……」
やっと見えた体育館に心の中はドキドキとワクワクでいっぱいだった。少し小走り気味になり体育館へ急いだ。バスケ部が練習しているかどうかはか学校の先生に確認済みだ。
夏なので体育館の扉は開いていて中の様子が直ぐに見える事が出来た。
「あれ、ちょうど休憩中みたいね……」
ドリブルやバッシュの足音がしない、みんな座ったりして水分補給などをして休んでいた。
「何処にいるか分からないわ……」
後向きに座っていたり、顔をタオルで覆っていたりして顔が見えづらくて、なかなか見分けがつかないので思わず声が出てしまった。
私が立っている姿と声に気が付き、一人の部員が近づいて来た。
「今日はオープンスクールの日だったな、俺はバスケ部のキャプテンだけど、誰か探してるの?」
一瞬慌ててしまったが、落ち着いた口調で答えた。
「あの……宮瀬……先輩を探してるんですけど……」
後ろで休憩していた部員が私を見てザワザワしている。小声でなんで宮瀬先輩を訪ねて来ているのかと話をしているみたいだ。マネージャーらしき女子が二人いて、そのうちの一人が宮瀬と言う言葉を聞いて鋭い眼つきで私を見てきた。
「あぁ、宮瀬ね……実は今休んでいるんだよ」
キャプテンは優しい口調で落ち着いた感じで残念そうに教えてくれたが、私はキャプテンの言葉を聞いて驚いて、項垂れてしまった。あまりにも私の顔が悲しそうだったのか、すぐにキャプテンが励ますように補足説明をしてくれた。
「でも大丈夫だよ、そんな心配しなくても、順調に回復すれば今年中に復帰できるだろう……君が入学する頃にはもう普通にここにいるよ」
その説明を聞き少し安堵の表情をしたが、先輩に会えなかったのはとても残念だった。
「ありがとうござました。先輩が戻ってきたら『楽しみにしてます』と伝えて下さい」
「分かった、伝えておくよ。俺達も宮瀬が戻ってくるのを楽しみにしてるからなぁ」
笑顔でキャプテンが話しているのを見て、私は一安心した。
(良かった……感じのいい先輩でこれなら宮瀬先輩も安心かな)
キャプテンに一礼して体育館から出ようとした。キャプテンもコートに戻り練習を再開するみたいで集合の合図をかけていたが、いきなり背後から声がして呼び止められた。
「ちょっといいかな……」
その声の主は私を鋭い眼つきで見ていた背が低い方のマネージャーだった。
「えっ、な、何か……」
突然のことで何事かと驚いた顔をして、相手の気迫に圧倒されそうになった。
「あなた、宮瀬くんとの関係は?」
いきなりストレートな質問に引き気味になるが、すぐに冷静になった。このマネージャーの顔を近くで見ると以前何処かで見たような気がするけど思い出せない。どうやって返事をしようかと少し悩んだが、一応先輩なので当たり障りがない返答をすることにした。
「バスケ部の後輩です。宮瀬先輩には妹のように可愛がってもらいました」
私の返事にマネージャーは呆然とした表情をしていたが、多分最後に言った『妹のように』がいけなかったみたいだ。
「宮瀬くんは……こんなに綺麗な後輩を……」
独り言のように言っているので私はヤバイ感じがしたが、タイミングよく体育館の中からキャプテンの大きな声が聞こえた。
「こら――! 石川。何してるんだ、戻ってこい!」
大きな声に反応して、冷静になったのか直ぐに返事をマネージャーがする。
(……助かった……)
私がほっとしていると仕方なさげにマネージャーが諦めたような顔している。
「まぁ、いいわ。ごめんね、引き留めて……」
そう言うと頭を下げてにっこりした顔で、体育館の中に戻っていった。ため息を大きく吐いて体育館を後にした。
無事に友達の元に戻った後、今あった出来事をその友達に話した。
「それって、そのマネージャー、あからさまに宮瀬先輩を狙ってるんでしょ」
私の話を聞いて友達は笑いながら答えたので恵里もやはりと確信した。
「それでどうするの、恵里は。この学校受験するの?」
笑っている友達はこの学校を受験する予定だが、私はまだ何も決めていない。
「う――ん、どうしようかな……」
「まだ時間あるし悩んだら、恵里なら何処の高校でもいけるでしょう、でももし恵里がこの学校に行かなかったら先輩は……」
最後の方は半分面白がって言っているし、他人事のように友達は笑っているが、真面目に悩んでしまう。この高校に興味が無い事はない。英語教育に力を入れていてこの辺りの高校にしては珍しくホームステイや短期留学などの制度が充実しているのだ。
これらの制度には興味があるので今回参加した理由の一つだ。最もの理由は先輩に会う事だったのだけど……
「うん、そうだね。よく考えるよ……」
友達にはそう答えたが私の中ではほぼ決まりつつあった。今回は先輩に会えなかったけど、今度会う時は先輩が驚くぐらい成長しているように努力しようと決意した。
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