一年生大会 ②

 大会当日、組み合わせを見ると三回戦までは確実に行けそうな感じだった。


「よし、いくぞ!」


 そして一回戦が始まった。試合開始早々俺達の高校が連続して得点を決めて勢いに乗っていく。長山がセンターに入り俺がフォワードでリバウンドはほぼ制している。このままの流れで試合が進み、ハーフタイムになった。石川は興奮して応援ばかりでマネージャーの仕事はしていない、代わりに山内が落ち着いた様子でスコアをつけたりしている。

 第一Qが終わりインターバルになる。俺はベンチに座って体を休めていたが、以前あった腰の違和感を感じていた。


(まさか、この最近は全然調子が良かったのに……)


 今日は高校での始めての公式試合と思ったらそんな事を気にする訳にもいかなかった。ハーフタイムが終わりコートに戻ったら、腰の違和感は気にならなかった。

 得点差にも余裕が出てきたので途中交代しながら、最後まで試合に出場していた。この後は二回戦が控えている。

 次の試合までの合間に休んでいると先程の違和感が徐々に痛みに変わってきていた。どうしようかと悩んだが、試合が控えているし大袈裟にしたくないので石川にマッサージを頼むことにした。


「大丈夫なの、先生に言っといたほうがいいじゃないの……」


 頼んだ時は何故か嬉しいそうだったが、事情を話すと心配そうな顔になりいつもと違う表情になった。


「なんとかなるだろ、チームも勝っていい感じだしみんなにも心配かけたくないから……」

「ううん、でも……」


 勝っているチームの雰囲気を悪くしたくない気持ちだったが、石川は納得のいかない顔をしている。


「大丈夫だって、みんなには黙っておいてくれよ。石川のこと信用してるから、頼む」

「分かったわ……でも試合中に駄目そうだったらすぐに交代してもらうように言うわよ」

「あぁ、分かった……」


 それ以上は言えないので妥協した。俺はうつ伏せになり石川が腰の辺りをマッサージしてくれた。以前にも何度かやってもらったが、意外に上手なのでかなり体は楽になった。


「はい、終わったよ」

「ありがとう助かったよ。大分楽になったかな」


 相変わらず心配そうな顔をしている。


「絶対に無理したらダメよ、約束だから……」


 石川は語気を強めて念押しをしたので、あまり心配させてもいけないと俺は笑って答えた。


「大丈夫だ、心配するな」


 二回戦が始まり、初戦同様に試合開始からいい流れで進んだ。しかし俺の体は最初の試合に比べてかなり悪化していた。せっかく石川がマッサージをしてくれたが試合が始まりいくつかリバウンドをとると徐々に痛みが現れ始めた。ここで痛そうな素振りをすると石川はすぐに気が付き交代を進言するだろう。それは避けたいのでギリギリまで我慢しようとした。

 ハーフタイムまで残り一分になった時に、オフェンスのリバウンドを取ろうと無理な体勢から勢いよく相手をかわそうとジャンプした。その瞬間、激痛が走りそのまま崩れるように倒れてしまった。


「宮瀬!」

「宮瀬くん!」


 みんなが駆け寄ってくるが腰の痛みと落ちた衝撃の痛みで体が動かない、足も痺れている。頭は打っていないので意識はある。長山が体を起こしてくれて肩を貸してくれた。


「宮瀬、大分無理していただろう、無茶するなよ……」

「悪いな……初めての大会なのに」


 長山が呆れたような顔をしている横で今にも泣きそうな涙目の石川が立っている。俺はそのまま長山の肩を借りてベンチに戻った。


「私が早く交代を頼めば良かったのに……」


 俺が戻った時に石川は後悔したように小さく呟いた。


「石川は何も悪くない……全て俺の責任だよ……」


 慰めようにも痛みと精神的なショックが大きくて上手いこと言葉が出てこない。こんな事になったのが初めてで自分自身どうしたらいいか分からずただ痛みに耐えているだけだった。

 試合は俺が退場してから流れが悪くなりそうなタイミングでハーフタイムになった。得点差もあるので逃げきれそうな感じだったが、ハーフタイム終了後は先程とは別チームの様にバランスが悪くなってしまう。

 気がつけば第四Qに追いつかれてしまい、あっさりと逆点されそのまま試合終了になってしまった。


「すまん、宮瀬」


 長山が頭を下げて悔しそうな顔をしている。チームメイト全員が同じ表情だ。


「謝るなって、全部俺の責任だよ」


 そんな事はないと長山は首を振る。先程よりは痛みがマシになったがまだ足が痺れているので、起こしてもらい長山の肩を借りて歩き出した。


「本当にすまん」


 長山の肩を借りて歩いているとまた謝ってきたので今度は少し明るめに答えようとした。


「もう、いいって、気にするなよ」

「あぁ、分かった……」


 小さい声で長山が返事をしてくれが、かなり悔しいに違いない。その後は何とかチームメイトに助けられ無事に帰宅することが出来た。

 帰宅してからは今日の出来事が頭の中をグルグルまわる。


(俺が無理しなかったら勝てたはずだ。俺のわがままで迷惑をかけてしまった)


 怪我と同時にこれまでに感じたことのない相当な精神的なダメージを負ったみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る