一年生大会 ①

 新入部員が加わり人数が増えたので練習の準備は当番制になった。新入部員の中には、中学時代に対戦した学校の奴が何人かいる。


「宮瀬、これ、ここでいいのか?」


 その中の一人で今話しかけてきたのがF中だった長山貴士ながやまたかしだ。身長はあまり俺と変わらないガタイが大きいので対戦していた時はやり難い相手だったし、よくマッチアップしていた。


「いいよ、そこで、あとは……」


 他の新入部員より先に練習に参加していたので、新入部員みんなが分からないところを聞いてくる。


「サンキュー、助かったぁ」

「たいしたことしてないよ」

「いいや、そんなことないけど、でも宮瀬と同じチームになるとはなぁ……」

「それを言うと俺だって、長山と同じチームになるとは思ってもみなかったよ、でもポジションが被るから厄介だなぁ」

「仕方ないさ、お互い試合に出られるように頑張ろうぜ」


 そう言うと長山は笑ってボールを取りに行った。上級生が体育館に入ってきて少し緊張感が出るが、すぐにいつもの様に練習が始まる。

 部員が増えたのでこれまで以上に練習に活気が出てきた。ウォーミングアップとパスやドリブルなどの基礎練習をして、オフェンスやディフェンスの練習を重ねていく。

 そして今日は時間があったので、一年生同士でミニゲームをすることになった。


「やったぁ! こんなに身近に宮瀬くんのプレーが見れるなんて」


 マネージャーになった石川がミニゲーム前に休憩になり、お茶を飲んでいたところに近寄ってきた。


「はぁ……普段から近くで見てるじゃん」


 ため息混じりに頼むから大人しくしててくれと思っていたが、石川には通じることはなかった。


「もちろん練習の時もいいけど、やっぱりゲームとなるともっとカッコウイイもんねぇ」


 ダメだ、これはどうしようも出来ないと諦めかけた時、もう一人のマネージャーである山内と目が合った。山内も石川のことは気にかけてくれていたみたいで、俺と目が合った時には頷いて任せてと合図を送ってくれた。


「ほら、ちゃんとマネージャーの仕事をしろよ」


 そう言うとやっと石川もマネージャーの仕事を再開させようとしたが拗ねた顔をしている。もう一度ため息をつき残っているお茶を飲んでいると、長山が隣にやって来て苦笑いをしている。


「変わらんな石川も、宮瀬の事になるともう周りが見えてないみたいだなぁ、お前も大変だなぁ……」


 長山は同じ中学だったから、石川の事はよく分かっているようだ。


「そう言えば、F中との試合の時は俺が恥ずかしいぐらいだったよ、ホントに……」


 二人で笑っていると、石川が戻ってきて少し怒った顔をして俺と長山の間に入ってきた。


「あぁーー! なんか私の悪口言ってるでしょう……」

「そんなことないけど……さぁ、始めるみたいだぞ」


 逃げるように立ち上がりボールを突きながらコートの中央に移動した。ミニゲームが始まり俺は長山とは別のチームになった。これまで何度も対戦して実力がある程度分かっているので出来たら同じチームが良かったが仕方ない。

 予想通りリバウンドは長山の体が大きい分、なかなか楽に取らせてもらえない、オフェンスの時は何度か長山のディフェンスを掻い潜ってシュートを決める事が出来た。ディフェンスもある程度は止められるがやはりゴール下に入られると厄介な相手だった。


「さすがだなぁ、宮瀬」

「いいや、長山も相変わらずリバウンド強いなぁ、敵わないよ」


 ミニゲームが終わり今日の練習自体も終了した。お互い汗を拭きながら片付けを始めようとしていた。そこに興奮冷めやらぬ様子で石川がやって来た。


「めちゃくちゃ良かった、こんな間近で見れて幸せだったわ……」


 既にミニゲームの途中から大騒ぎで、ゲームを見ていた先輩達は若干引き気味だったが、隣にいた山内はいつものことのように平然としていた。

 マネージャーが二人だけ大変だけどマネージャーの先輩がいなくて良かったのかもしれない。もし先輩でもいれば少しは大人しくなっていたかも……


「あのなぁ、こんなの普通に練習の一部だぞ、ホントに大丈夫かこの先……」


 恥ずかしさを通り越して少し心配になってきたが、山内が石川を連れ戻そうとこっちにやって来て苦笑いして頷いている。


「大丈夫だと思うよ……志保、片付け手伝ってよ」


 山内は強め口調で石川の手を引っ張って連れて行った。二人の様子を眺めながら長山とやれやれといった感じだった。


 六月になりインターハイの県予選が始まったが、俺達の高校は、ベスト十六で終わった。一応ベンチには入ったが試合に出る事は無かったが、試合を間近で見られて雰囲気も感じる事が出来たのでいい経験になった。

 後日、三年生がやって来て川崎キャプテンから次の後任のキャプテンの発表があった。大方の予想通り橘田先輩がキャプテンに指名された。俺もそうなるだろと思っていたのでとても嬉しかったし、気心の知れた先輩なので安心した。

 新体制になり始めての大会が一年生大会だった。新キャプテンを含めた二年生は試合に出場することがないのだが、精力的に俺達一年生中心に練習メニューを組んでくれた。一年生もみんなの期待に応えられるよう練習に取り組んだ。いよいよ七月になり大会が間近になってきて練習もこれまで以上に力が入り、ある程度スタメンが決まってきた。

 数日後に控えた大会の練習前にキャプテンの橘田先輩に呼び止められた。


「宮瀬、一年の中で背番号を決めていいから皆んなに伝えておいてくれよ」

「いいんですか、俺達が決めて」

「あぁ、だって一年生大会だからな」

「分かりました、決めておきます」


 そう言われて、その日の練習の終わりに一年生が集まって決める事になったが何故かマネージャーの二人も加わってきた。


「私、宮瀬くんは四番がいい、絶対に……」


 真っ先に石川が威勢よく声を上げるので流石に恥ずかしかった。


「俺もそれでいいと思うよ、宮瀬の四番」


 すぐに真面目な声で長山が発言してきたので意外だったが、このままの流れだと決まりそうな感じだ。


「えぇ、ホントにいいのかぁ、長山の方が合ってるじゃないか」


 俺が反論するけど、その場の空気には勝てなく結局四番に決まってしまい、石川は満足そうな顔をしている。やはり四番を着けるのは身が引き締まる思いだ。少しだけプレッシャーを感じた。その後はそれぞれ希望の番号が被らなかったのであっさりと決定した。

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