部活

 体育館に着くとまだ先輩達は来ていなかった。ゴールの準備をしたりボールを出したりしていた。


「あっ、橘田先輩お疲れです」

「おう、宮瀬、悪いな、本当はまだ俺達の仕事なのに」


 体育館の中にきっちゃん先輩こと橘田きつだ先輩が入って来た。さすがに高校生なので先輩後輩をわきまえようと思いアダ名で呼ぶは止めることにした。


「もう春休みから来てるから慣れましたよ」


 そう言ってある程度の準備が終わったので、ボールを持って軽くシュートを打つとキレイに決まった。


「もう感覚は完全に戻ったな」


 橘田先輩も同じようにシュートを打ちながら話してきたので俺は返事をする。


「そうですね、後は体力かな……」


 春休みから練習に参加したお陰で他の一年生が入部する前からバスケをする感覚は半年前のレベルに戻すことが出来た。これも橘田先輩が合格発表の日に声をかけてくれたからだ。

 合格発表の日は、学校が休みでたまたま部活の為に来ていた先輩に会った。部員も少ないし練習に参加しないかと誘ってくれた。でも誘ってくれた日が後で大問題になる。

 それからほぼ毎日練習に参加して、始めの頃は練習に全然ついていけなかった。徐々に慣れてきて休みの最後の頃には、先輩達と混じってミニゲームが出来るぐらいまでになった。


「宮瀬、今日も準備ご苦労さん」


 三年生の川崎かわさきキャップテンが体育館に入ってきて直ぐに俺に声をかける。新入生の俺にかなり気をつかってくれていて、すっかり三年生の先輩にも顔を覚えられた。


「さて、練習始めるぞ!」


 川崎キャプテンの一声で全員が集合するが俺を含めて12名しかいないので少し寂し気がする。コート内でランニングしてウォーミングアップが始まった。

 中学時代と比較すると練習時間も長いので帰宅するのが夜七時は過ぎる。 部員が少ない上にマネージャーもいないので雑用は交代でしないといけないので色々と大変だ。

 今日も練習が終わってから片付けなどして学校を出たのは夜八時前だった。


 それから一週間後の放課後、授業も終わり片付けをしていると大仏が目の前にやって来て、何気ない顔で話しかける。


「アンタ、笹野さんからの返事は貰えたの?」


 いきなりの質問の内容に驚き、思わず手にしていたノートが落ちてしまい、拾う事なく大仏の顔をじっと見る。


「な、な、なんで、その事を知っているのかな?」

「何でって言われも、由佳から聞いてね、どうだったのか結果を知りたがっているのよ」


 何故か当たり前の様にサラッと言うので、俺としては何がなんだか分からなくなった。


「ちょっと待って……由佳とは、白川の事なのか?」

「そうよ、友達だもの」

「はぁぁあ⁉︎ ともだちぃだとぉ、いつから?」

「中一からよ」

「マジかぁ……」


 何を今更という顔をしている大仏に対して、俺は落胆して頭を抱えている。まさかこの二人が繋がっていたとは予想していなかった。確かに大仏が一時期やたらと俺と絢の事に詳しいと思っていたがそういうことだったのだ。


「それでどうなのよ、返事は?」


 早く答えろという感じで圧力をかけてくる。何処まで知られているのか分からないが、色々な事が頭を駆け巡りもうこれ以上過去の事を聞いても仕方ないので、答えたくなかったが諦めた。


「返事は……ない」

「ない……って本当に?」


 少し驚いた表情をして大仏は疑いの目をして俺を見るので素直に答えた。


「ああ、嘘じゃない。でも一度チャンスはあったんだ、絢から電話があって、話がしたいって」

「ほぉ……それで」

「話がしたい日が先輩から練習を誘われた日と同じ日だったんだ」

「まさかアンタは……」


 呆れた顔した大仏が俺をじっと見ているので、視線に耐えられず窓の外を向いた。ため息を一つして大仏が再び尋ねてきた。


「結局、それから何も連絡も無くて、アンタからも連絡してないのね」

「さすがだなぁ……それから休みの日以外は練習に参加していたから」

「なに感心してるの、情けない……ホント情けない……」


 大仏に呟くように二回も同じ事を言われたが反論出来ない言われる通りだ。でも何故、白川は大仏を通して確認してきたのか、絢に何かあったのか気になるがどうしようも出来ない状態だ。


「白川は何か言っていたのか?」

「いいや、別に……あっても教えないよ」


 口を尖らせて大仏は、俺の顔をちらっと見て鞄を持ち教室の扉の方に向かって行った。

 大仏の後ろ姿を見ながら俺は何も言うことが出来なかった。気にはなったが、不意に時計を見ると意外と時間が経っていてので驚いた。


「ヤベェ……」


 一人呟き鞄を持ち慌てて教室を出る。


 放課後に部活の入部説明会があったのだ。開始時間ギリギリだ。走って説明会がある教室に向かっていくと何とか間に合ったが一番最後だった。


「すみません、遅くなりました」

「宮瀬、もう来ないかと思ったぞ」


 俺は申し訳なさそうに頭を下げたが、川崎キャプテンは笑いながら明るく冗談みたいに言うので少し安心した。


「それじゃあ、始めるか。宮瀬早く座れよ」


 手前はもう埋まっているので後方に座った。先輩達も全員参加しているのでざっと二十人くらいいるみたいだ。

 前の席には女子の姿が二人見えるが、何か見覚えがある後ろ姿なんだが……とキョロキョロと周りを見渡していた。


「こら、宮瀬、話聞いてるか?」

「ち、ちゃんと聞いてますよ」

「そうか、ならいいけど、もう慣れてるからと言っても確認しとけよ」

「はい、分かりました」


 先輩達は軽く笑うが、今日はいつも以上にキャプテンが構ってくる。でもいつもの事なのであまり気にしないようにしていた。

 それから一時間くらい先輩達が交代で説明をして、後から来た顧問の先生の話もあった。


「最後に入部届を出して、今日は終わりにしよう」


 そう言われて家で書いてきた用紙を出そうと、前に行くと一年生の中に何人か見知った奴がいた。用紙を提出して元の席に戻ろうとした時に服がをグイッとと引っ張られた。その引っ張られた元を見ると最初に見た女子二人組の一人だった。


「あっ……」


 ニヤッと笑う石川だった。その隣には小さく可愛く手を振る山内が座っていた。

 そうかやっぱり……声には出さなかったがため息をついて元の席に戻った。その後、副キャプテンが提出した用紙を確認して今日は解散になった。

 椅子から立ち上がり教室から出ようとした時に、テンション高めの声で呼び止められた。


「み、や、せ、くん」


 振り向くとやはりその声の主は満面の笑みの石川で、山内も笑顔で並んでいる。ここで一応確認する事にした。


「ホントにするの? マネージャー」

「そうよ、いけない?」


 当たり前の様な表情をしている石川の隣では山内が苦笑いをしている。まぁ当たり前と言えば当たり前だ。それよりも気になる事があった。


「いいや、そんな事は無いけど……山内は良かったのか? バスケ部のマネージャーで……」


 石川がここにいるのはある程度想定内だったが山内もいたのは意外だった。確かに元バスケ部だったけど……


「志保に無理矢理連れて行かれて……というは冗談で、特に入りたい部活もなかったし、お世話をするのも嫌いでもないからかな」

「そうならいいけど……」


 すると山内が悪戯っぽい表情で石川に聞こえないような声で俺に囁いてきた。


「あと志保を見張る事かな、宮瀬くんの為にね」

「えっ、なに、なんなの、で美影はどうして宮瀬くんと仲良いの?」


 すぐに石川は拗ねた感じで俺と山内の間に入ってきて、微笑んでいる山内をジッと疑いの目で見ている。そこはさすがの山内で、全く気にする様子は無く、扱いにも慣れている様子だ。


「同じクラスだからね。さて、志保、私達もそろそろ帰ろうか」


 石川に言ってマイペースな山内は帰るように促してくれる。石川もそのペースにのまれるように追及を諦めて帰るようだ。


「それじゃ、宮瀬くん。また明日、部活でね」


 一転して楽しいそうな表情の石川だ。そして山内と一緒に手を振りながら帰って行った。明日から新しい仲間が増える期待よりも違う不安が出来たことで、大きなため息を一つついて教室を後にした。

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