ヘタレ野郎とバスケットボール 高校編 第一部

束子みのり

高校一年生

入学

 真新しい制服に身を包み、真新しい鞄を持って登校している。昨日は入学式と教科書などの販売だけだったので、実質今日が初日みたいな感じだ。

 学校までは自転車で十五分くらいで歩いてでも通える距離だ。中学生の時よりも朝はゆっくりと登校する事が出来る。ただ高校が山の上にあるので朝の登校時は半分くらい自転車を押していかないといけない。まだ登校に慣れていないのですでに疲れた顔で教室に入る。


「おはよう、宮瀬。久しぶりだなぁ」

「あっ、おはよう、同じクラスだったのか」


 朝の挨拶をしてきたのが同じ中学校で二年生の時に同じクラスで仲が良かった奴だ。

 三年生の時も部活の引退後は時々一緒に帰る事もあって、知った顔があって少し安心した。


「早いなぁ来るのが」

「ちょっと早く来すぎたかな」

「遅刻するよりはいいんじゃないか」


 二人で冗談めかしに笑って話していると背後から妙なプレッシャーを感じる。振り向くとムスッとした顔の大仏の姿がある。


「邪魔よ……」

「相変わらず朝は機嫌悪いなぁ、何でここにいるんだ、誰かに用事なのか?」


 俺は大仏が用事があってここの教室に来たのかと思っていたが、大仏の顔を見ているとどうやら違ったようだ。


「何でって、私もこのクラスだから……」

「はぁ――! このクラスだと……」


 大仏は呆れた顔で俺を見ている。昨日は、クラス名簿が張り出されていたが人数が多いので『み』の周辺しか確認していなかった。名簿の上の方はあまり見ていなかくて、入学式の時も気が付かなかった。


「 酷いね……こんなに優しい幼馴染に気が付かなかいとはね」


 大仏が周りに聞こえるような声でわざとらしく喋るので、まだよく知らないクラスメイトが誤解すると思い俺は慌てて周りを見る。


「頼むから誤解を招くような言い方をするな、大体、幼馴染って言うのは……」


 しかし冷静になって考えてみると確かに嘘ではない、これまで七年も同じクラスになっているのだから……そして今年も……そんな事を考えたら言い返すのがどうでもよくなってきた。


「もういい……俺が悪かった……」


 俺は納得していなかったが、もうこれ以上揉めていたら痴話喧嘩のようにみえるのであっさりと謝った。意表を突かれた大仏だったが、直ぐにいつもの表情に戻る。


「まぁ、いいわ、一年間よろしく」


 そう言って何もなかったかのような顔で大仏は席に着いた。俺もため息をつき疲れた顔をして自分の席に向かった。

 俺の席は窓側で外の景色がよく見える。学校が山の上なので眺めはとてもいいので少しだけ心が癒された。


「あの……宮瀬くん……」


 窓からの景色を眺めていると隣の席の女子が恐る恐る俺の名前を呼んできた。


「バスケ部だった、宮瀬くんだよね……」


 振り向いた俺の顔を見て、その隣の席の子はやっぱりそうだって顔をしている。俺もその子の顔を見て何処かで会ったかなぁと記憶を辿るが分からない。

 でもバスケ部って知っているという事は……色々考えてみたが分からなかった。

 俺が考え込んでいるとその子が小さく笑っている。


「私は山内美影、F中出身で志保の友達……」

「志保……ってあの石川か」


 頭の中に石川の顔を思い浮かべて、そこからバスケの大会の記憶を辿ると薄っすらと記憶を蘇らせる。


「あ――分かった、何度か石川が試合会場で話しかけてきた時に一緒にいた子だ……」

「ピンポン、当たり……やっと思い出してくれた」


 覚えていてくれたと分かり、山内がホッとした表情で嬉しそうな顔になる。確かにあの時は、直接話していなかったし印象もあまりなかったけど、大人しそうな可愛い子だなって微かな記憶があった。髪もあの当時より伸びたようでセミロングくらの長さになっている。


「ごめんな、なかなか思い出せなくて、それで石川はこの学校にいるの?」

「うん、いるよ。えっと……確か一組だったかな、ちょっとクラスが離れたけどね。でもすごく凄く張り切ってるよ、宮瀬くんと同じ学校だって……」


 微笑みながら楽しそうに話す姿はやはり落ち着いた感じで優しそうだ。石川とは性格的に反対のような気がする。


「そ、そうか……それじゃ、頼んだよ、石川の暴走を止めてくれよ」


 俺が半分笑いながら、半分本気で話すと、山内も悪戯ぽく笑っている。


「できるだけ、頑張るけど……宮瀬くんも覚悟してね」


 多分山内は石川の性格をよく分かっているようで、それだけ仲が良いのかもしれない。とりあえずは、俺達は七組なので石川が頻繁に来る事はないだろうと一安心した。


「まっ、一年間よろしくな、山内」


 俺が笑顔で話すと山内はうんと嬉しそうに頷いてくれたので、俺もこの一年が楽しくなりそうな気がした。


 放課後になり大半の一年生は帰宅する。隣の山内も真っ直ぐ帰るようだ。


「あれ、宮瀬くんは帰らないの?」


 不思議そうな顔で俺を見る。他のクラスもほぼ同時に終わり殆どの生徒が一斉に出て行くので廊下は騒ついている。


「あぁ、これから部活に行くんだよ」

「えっ、もう……」


 山内は素直に驚いた表情をしている。


「春休みから少しづつ行ってたんだよ、先輩に誘われてて、部員が少ないからって、人数合わせみたいかな……」

「へぇ、そうなの」

「やっと感覚が戻って来て何とか練習についていけてるかな、半年以上ブランクがあったからね」

「すごいねぇ……また志保が喜びそう」


 微笑んでいる山内の表情は素直なので楽な感じで話しが出来る。今日初めて会話をしたのが嘘みたいに思える。


「まだ、黙ってて石川には、いずれ部活を見に来るとは思うけど……」

「いいけど……きっと直ぐに……」


 遠慮気味に笑いながら最後まで言わなかったけど、山内が言いたいことは理解した。


「ありがとう、ボチボチ行くよ、また明日」


 俺は鞄とバッシュが入った袋を持ち、片手を振ると山内もうんっと頷いて手を振ってくれた。何故か少しだけ懐かしい感じがして、中学時代の部活をしている頃を思い出した。

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