絵本になってた


  お茶とクッキー.....うまい...........。

師匠とシューくんと喋りながらクッキーやお茶を楽しんでいる私。あれ?...........何か忘れてない?

気のせいかな........。

クッキーがなくなった手を見て、お皿にあるクッキーに手を伸ばす。そして、たまたま目に入った物を見て思い出した。


 「あ! バリカン!!」


 クッキーに伸ばしていた手を戻し、テーブルに両手をのせいきよいよく立ち上がる。ビックリした二人が私の方をみる。

思い出した私の口からこの世界の呼び名ではなく、前世の呼び名がとっさにでてしまった。慌てて、誤魔化す。


 「じゃなくて、エクス刈リバー!!!!...........忘れてた!!」


 エクス刈リバーに視線を移し、どっからどう見てもバリカンであるこの物を手に持って師匠の前にあるテーブルの上に置く。


 「このバリ...........じゃなくて、エクス刈リバーって、どうやって手にいれたの?」


ヤバい。うっかり、バリカンっていうところだった。エクス刈リバー、エクス刈リバー...........。よし、もう間違えないよ!多分...........。


 さっき、私のちょっとした夢は壊れた。だがしかし、これの使い方がバリカンであっても入手方法がかっこよかったらまだ救われる。

 例えば、ゲームみたいにダンジョンで手にいれたとか。レアな魔物から数百年に一度しか作れない物とかファンタジーチックなものであれば、たとえ........たとえ、どこからどう見ても、日本人が十人見て全員確実にバリカンと答える代物であってもエクスカリバーぽいのである。

その最後の希望にかけて師匠に聞いてみる。


 「それは........たしか、三十年前に売り出された物だったかな?...........君のお母さんが面白がって買ってきたんだよ。」


お母さん...........。買ってきたのか...........、きちゃったのか。このバリカン...........買えるのか。

やっぱりね~。何かそんな気がしてた。わかってたよ。そういう感じなんじゃないかって。

お母さんが買ってきたのは、予想外だったけどね?


 「ある町の鍛冶士が自分の息子のために作ったんだって...........。たしか、今では、絵本もでてたと思うけど........。」


 「絵本がでるほどの話なのか!?」


そんなバカな........。

バリカン一つで絵本ができるって........。そんなに感動する話なのか?


 「絵本は、カミラの姉弟子が僕に持ってきたよ?」


 「見たい。」


どういう話なのか非常に気になる。バリカンの絵本って........前世、そういうバリカンの話の絵本は、聞いたことなかったけど........まさか、転生先であるとは........。


 「はい。」


収納袋から取り出したのだろう。三十年たっていても綺麗なまま変わらない。どっかの誰かさんと同じである。

絵本を受け取り、テーブルに置く。シューくんも気になるのか私の隣に移動してきた。可愛い。

表紙はほんわかした色使いのタッチで描かれていて小さい子向けの本に思える。

表紙の少し固めの紙をめくると文字と絵が描かれていた。

と、言うか絵本っていう文化はどうやって生まれたのだろう?


 この世界、結構日本に似ているんだよな~。

気のせいだろうか? でも、独自の進化をしているところもあるし...........。

もしかして、私の他にも転生者がいたとか?それとも、転移者とかおたのかな?

いろんな考えが次から次に浮かんでくる。絵本をめくった手にもちもちとした感触があり、その感触がした方を見るとシューくんが身体を押し付けていた。可愛い。

多分、続きが気になるのだろう。一旦、考えるのを止めて絵本に集中することにした。


 「じゃ、読むよ。」


シューくんに目を向けて、確認のため一言話して、絵本に視線を戻した。





※※※





 ある町に腕のいい鍛冶士がいました。



 毎日せっせと働いて、



 冒険者や騎士団に剣を作ったり、

 


 町の人達に農具や刃物を作ったりとしていました。



 その鍛冶士には、妻と子供がおりました。



 毎日働く夫に妻は、愚痴の一つも溢さず、



 夫の心配を



 して過ごしていました。



 ある日の昼に、いつものように



 働く鍛冶士のところに



 息子が走って来ました。



 それは、息子のお母さん........



 鍛冶士の妻が倒れたという報告をするために



 息子は、父親の働く場所に来たのでした。



 息子から、妻のことを聞いた鍛冶士は、



 無言で仕事に戻り始めました。



 息子は、父親の行動に理解できず父親に



 怒鳴り散らしました。



 けれど、息子に何を言われても鍛冶士は、



 手を止めることなく仕事をし続けます。



 しばらくして、それを見ていた



 鍛冶士の同僚が息子の前に立ち、言いました。



 「君のお父さんは、倒れたお母さんのために仕事をしているんだよ」


 

 優しい口調で息子に言いました。



 「彼はね。君のお母さんの治療費を稼ぐために仕事をしているのさ」



 息子は、その言葉に鍛冶士の方を見ました。



 仲間の話を



 聞きながら黙々と作業をしている鍛冶士。



 「治療費はただじゃない。だから、仕事をしてお母さんいい薬を用意するために君のお父さんは働いているんだよ」



 その言葉を息子は、理解した。自分達の父親は、



 母親のために仕事をしていることを。



 息子は、父親に怒鳴ったことを誤り、



 父親の仕事を手伝い



 と言った。鍛冶士は、一瞬驚いた表情をした後



 いつもと変わらない表情に戻り、自分の息子に



 自分の仕事の手伝いをさせました。



 それから、何日もたち妻の体調はよくなりました。



 鍛冶士の息子は、父親はの仕事を母親が治っても



 やり続けました。いつしか、息子の夢は、鍛冶士



 になることになりました。



 息子が二十歳の時、父親に見たことのない形をした



 刃物を持って来ました。



 鍛冶士は、息子にこの刃物の使い方を聞きました。



 息子は、これは髪を切る物だと答え、



 これで自分の髪を切ってほしいと頼みました。



 髪を切って自分の鍛冶士



 になるという夢への決意でした。その決意に負け、



 鍛冶士は、息子の髪を切りました。



 鍛冶士と息子は、それからずっと鍛冶士として



 生きていきました。




 終わり





※※※





 「バリカンの話って言うか、鍛冶士の話だよね!?てか、最後鍛冶士死んだ風になってるけど、生きてないの!?」


本を閉じた瞬間思ったことが口から出た。

エクス刈リバーじゃなくて、バリカンって言っちゃったけど気にしない。


 「いや、その鍛冶士は今でも生きてるよ。息子も結婚して子供いるし、鍛冶士は、おじいちゃんになったよ。」


 「うん、やっぱり、生きてるよね? 死んだ風でいいのか!?鍛冶士、それに息子!!」


 「どうやら、その絵本描いたの鍛冶士の妻で息子のお母さんらしいよ。」


作者は、身内。

しかも、妻。...........いいのか、鍛冶士よ。いいのか?

あっ、それとも。妻の尻にしかれているのか?

なら、仕方ないな。仕方ない。


 「ところで、師匠は何でそんなに絵本について知ってるの?」


さっきから、絵本にでてきた登場人物についてやけに詳しい。なぜだ? あったことあるのか?

バリカンには、あんまり興味持ってないように感じたけど...........本当は、もってたとか?

まさかな。


 「僕の弟子が情報通でね? 聞いたんだって。

あぁ、リタのお母さんじゃないからね。」


 「私の姉弟子...........すごいな........。」


まだ、あったことのない姉弟子への会ってみたいがまた一段と上がったのだった。

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