俺が勝てない人間 (ボスワイバーン視点)


  俺は、この谷にあるワイバーンの巣のボス。

ボスワイバーンである。

硬い鱗に大きな身体、他のワイバーン達よりも高い魔力量。

この群れの中で一番強いワイバーン。それが俺。

妻も子供達もいて、毎日のように近くに生息する動物や魔物を狩り、生活している。たまに、人間達が襲ってくるがその攻撃は弱々しく俺が手を下すまでもなく、他のワイバーン達がどうにかする。

そんな生活を長年続けている俺たちワイバーン。

そのボスである俺に勝てない相手はいないんじゃないかと思っていた。


 だが、現実はそんなに甘くない。


 ある日俺は、産まれたばかりの娘と息子のために餌になる動物や魔物を狩りに行った。そして、帰って来てゆっくりしていると谷の上の方から俺の魔力量を軽々とこえるモノ達の気配がした。目を凝らし、見るとそこには、谷を覗く人間がいた。


ヒッ!!


俺は、悟った。あれは、俺より格上だと。

ワイバーンである俺よりもあの人間達の方がはるかに強いと......俺の脳が身体が言っている。

あの人間達の強さに、魔力に思わず悲鳴をあげてしまう。

ちょうど、周りには、仲間のワイバーンはおらず俺のボスとしての威厳は保たれた。

しばらく、あの人間達を観察していると人間の女が上から落ちてきた。


 「ギャアーーーーーーーーーー!!!!!」


俺達の鳴き声とそっくりな声に仲間のワイバーン達が何事かと集まってくる。


 あの人間の女、俺達の親戚にでもあたる種族なのか?

落ちてくる人間の女をよく見るとまだ幼い人間の娘だった。


 俺は、あれに怯えていたのか?

魔力量を見るともう一人の人間よりも魔力が大きく強い。

俺よりもはるかに。谷の上にいる人間は、この人間の娘よりも魔力量は少ないが今のこの娘よりも明らかに数倍強い。

どちらの人間にも俺は、勝てない。確実に負ける。

逃げるべきか? いや、仲間を見捨てられない。

それに俺には、妻と子がいる。ワイバーンのボスであるプライドもある。


 「ギャアアアアアアアア!!!!!」


先ほど、人間の娘が落ちてきた辺りから仲間の鳴き声が聞こえた。しかも、まだ幼い子供のワイバーンの声。

その声に集まるように他のワイバーン達も集まってきた。ワイバーン達は、次々に人間の娘を攻撃し始めた。

これなら勝てるんじゃないか?

そんな考えが頭に浮かぶが、その考えは次の瞬間粉々に砕け散った。


 人間の娘は、仲間のワイバーン達に目もくれず片手で攻撃を放ち倒していく。攻撃を受けたワイバーンが悲痛な叫びをあげ谷底に落ちていく。それを見て激怒した他のワイバーンが人間の娘に向かって行き、同じように倒される。そのたびに、悲痛な叫びをあげる仲間達の声に他の仲間達が集まり、人間の娘に攻撃していく。相変わらず、人間の娘は仲間達に目もくれず攻撃を放つ。

せめて、俺達を見てくれよ!

この光景を見ながら俺は、思った。あの人間の娘.....俺達に気づいていないんじゃないか?

しばらくこの光景を見て思った。


 「しっ......つっ......こい!!!!!」


それまで静かに攻撃してきた娘がいきなり大きな声をだし攻撃を放った。

あの人間の娘、気づいていなかったのか。

無意識に攻撃をして仲間達をかたずけていたらしい。


..............怖い!!!!

あれは、本当に人間か!?

無意識に攻撃を放つ、しかもあの攻撃全然本気じゃない!

向かって行った仲間達は、全力だったというのに......。

恐ろしい!!

これは、降参しかない!!

俺があの人間に白旗を掲げにいかなくてはならない。

でないと、俺、殺される!!


 ゆっくりとしたスピードで恐る恐る人間の娘に近づく。

怖すぎる。「ギャアアアアアアアア!!!」と叫び俺が後ろにいることをアピールする。

これから、一歩間違えたら俺は、死ぬ。

なぜって? それは、この人間の目的は俺だからだ。谷に落ちてくる前に俺を狙うと話していたからな。

間違いなく俺は、この人間に狩られるだろう。

........妻と子供達には、お別れはすましてきた。

俺は、たすからなくても仲間達は、妻と子供は守らなくてはそれがボスとしての最後の務め...........!!!


 人間の娘が後ろにいる俺を見る。

そのとてつもなく強大な魔力に怯む。だが、踏ん張らなくては、妻と子供が........。


ダメだ。やっぱり、俺は、死にたくない!!

どうにかして、生きる!!生きてやる!!!

ボスとしてのプライドは、遠い彼方へ投げ捨てる。俺の男としてのプライドは、さっき捨ててきた。


 今、俺は、ただのワイバーン。

生きのこる!!


 「いた! ボスワイバ「ギャアアアアアアアアア」!!!!」


 『すみません!! 勘弁してください!!!』


 「貴方に恨みは「ギャアアアアアアア!!!!」」


 『ほんとに、ご勘弁を!!!!!』


 「私のために倒させて...........「ギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!」」


 『俺には、妻と子供がいるんです!!!!ここで死ぬわけには!!!!!』


 「覚悟しな「ギャアァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!!」」


つ、伝わったか!? 俺の気持ち!?

いや、この人間の娘まだ喋る気だ。伝わってないのか!

じゃあ、もう一度!!


 「ボスワイバ........「ギャアアアアアアアアア!!!!!!!」」


 『どうか、命だけは取らないでください!!!!!!』



プチン。



何の音だ? 何か切れたのか? 何が切れたんだ!!

俺の必死の思いを娘に伝えているなか、突然何かが切れる音がした。


 「おっ...前!!! わざとだろ!!!」


はい!? 何のことだ!?

なぜ、いきなり俺はキレられてる!?

人間の娘は、俺に激しい怒りをぶつけてくる。その感情により、魔力が漏れだしている。


 「私の声にわざとかぶせただろ!!!こんのやろう!!!...........灰すら残さーーーーーーーーーー!!!覚悟しろ!!!!!!」


かぶせた!! 何のことだ!?

ていうか! これ、俺死ぬパターンか!?

俺の思いは伝わらなかったのか!!



※※※



 そして、そのあと俺は倒された。

人間の娘に........。俺達の谷は、ところどころかけている。娘よ魔法によって...........。

結局、俺は倒されたけれど死ななかった。

命拾いしたのだった。



 俺は、もう二度と人間に特にあの人間の娘には関わりたくないと強く思った。



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