土下座は通用しなかった


 私の目の前には、ボスワイバーンがゆっくりと崩れ落ちていく光景が映る。


 「ふふふ!! ハハハ! 見たか!ボスワイバーン!!! お前が私のセリフに鳴き声をかぶせるからだ!!!」


 落ちていくボスワイバーンを見ながら勝ち誇った笑みを浮かべる。勝ったぞ!

ん? いや、まって何か一方的にワイバーンに魔法ぶっぱなしただけなような気がする。

もう一度ボスワイバーンを見ると身体のあちこちに傷ができている。次に自分の身体を確認すると、どこにも傷ができておらず無傷な状態だった。唯一、魔力量はボスワイバーンよりも減っている。

全力で撃ったからだろう。谷の奥の方が大きくかけてる。


ワオ。私があれやったの?

目をこらして周りを見ると他の場所もかけてる。


 「だいぶ.........派手にやったね。」


 自分のやった光景を見ながら考えていると、頭の上からよく聞く声が聞こえた。今の状況を作り出した張本人である私の師匠がそこにいた。私と一緒で飛行魔法を使い空中に浮いている。顔には、笑顔を浮かべている。

イ.........イケメンスマイル!!!!!


 「師匠.......」


 「お疲れ様.........」


くぅ.........疲れた身体にイケメンはしみる。

と、師匠の顔を見ていると段々視界がぼんやりしてきた。

ヤバい。全力でワイバーンに魔法を放ったため飛行魔法に使っていた魔力がなくなってきた。

フラフラと谷底に向かって落ちていく。ここから落ちたら間違いなく死ぬ.........。

思考もどんどんうっすらとしていき、何も考えられなくなる。眠い。しかも、眠気も襲ってきて目蓋が重い。


 「ダメ.......だ。.........眠い.......。」


すると、横から手が伸びてきて私の身体を支える。


 「いいよ。ゆっくりお休み。」


伸びてきた腕の先を見ると師匠が優しい笑みを浮かべ、柔らかい口調で言ってきた。

そして、そのまま私の意識は途切れた。   



※※※



 ふわふわして




 暖かくて




 優しくて




 懐かしい。




 あぁ、前にもこんなことがあった気がする。




 いつだっけ? 




 うまく、思い出せないけど




 覚えがある。




 確か..............



※※※



 目が覚めたら、見馴れた天井が目に飛んできた。

自分の部屋の天井である。

はて? 何で私は、ここにいるんだろう? 

おでこに手をあて、思い出そうとする。

あっ!!


 「ワイバーン! 鬼畜!! ピンチ!! 師匠!!!」


思い出した内容の中で、一番心に残る言葉が口から出た。

そうだった。ワイバーンを狩りにいったのだった。確か、最後ボスワイバーンを倒して.........それで.........。


 「鬼畜って.........僕のことかな?」


 「えっ? はい。師匠のことですよ?」


 「そういえば、谷に落ちる直前そんなこと.......叫んでいたね?」


 「聞こえていたんです.........ん?」


そこで私は気づいた。

あれ? さっきからいったい私は誰と話しているのだろうと.......。


 「リタ。君、僕のことそういう風に思っていたんだね?」


声のした方に顔を向ける。冷や汗が背中を流れる。

ヤバい。ヤバい。この声の主.........。


 「おはよう。リタ。」


 「おはよう........ございます。師匠......。」


 満面の笑みを浮かべた師匠がそこにいた。

予感的中である。師匠の笑顔から黒い何かが見える。後ろには、黒い竜が見える。

私、オワッタ? 

いや!まだだ!何か何かあるはず。

何かないか!?

 その時、私の目の前に乙女ゲームでよくある選択肢が現れた。

オォ、神よ。私に逃げ道をご提示くださるのですね?ありがとうございます。

これで私は、このまずい状態からぬけられ、この先の地獄からも回避できるのですね?

では、選択肢をみせていただいましょう。



一、誤魔化す



二、逃走する



三、土下座



.........これ、結局結末は、同じじゃない、か......な?

どれを選んでも私、詰んでる気がする。

気のせいかな? それか、見間違い? 

そう思いもう一度選択肢をみる。先ほどと同じ選択肢が出ていた。間違いなく........これ、私詰んでるな。だって、選択の先を想像してみてよ!!

一の誤魔化すを選んでも師匠自らその話題に強制的に戻されるし、二の逃走するを選んでも師匠につかまって、質問の答えを肯定したととられる。


 そして、最後の三.........いや、これもう諦めてるよね?

土下座だよ!?土下座!!謝ってるじゃん!!

謝ってる姿勢じゃん。しかも、頭を下げる方じゃなくてそのワンランク上の謝りかたじゃん!?

ダメなんだね!?ダメなんだね!?

諦めろって!? 

じゃあ、最初から選択肢なんてだすなよ!?


 「リタ。僕のこと、鬼畜って思ってたんだっけ?」


嫌な汗がどんどん流れる。

これは........、こういうときは、これしかない!!


 「すみませんでした!!!!」


ベッドから出て、師匠に向かって土下座をとる。


 リタ・クレール。六歳。転生してから初の土下座を決めた。どこから見ても綺麗な土下座。

土下座がもっとも美しい人選手権大会があったら是非とも参加させていただきたい!

そう思うほどのなかなかなできの土下座をしてみせた。だがしかし!! 現実は、甘くはなかった。

その土下座は、無駄に終わった。

結局、地獄は始まったのだった..............。



 「師匠は、鬼畜だーーーーー!!!」




※※※




 ワイバーンの谷に行き帰ってきてから数日。

いつものように、夕食を食べ終えた私と師匠は、テーブルを挟んで椅子に座りながらお茶を飲んでいる。

二人とも、ゆったりとした服を着ていて、すぐ寝れるようになっている。


 「そういえば、師匠。」


 ボスワイバーン戦から、帰ってきてそして、師匠から地獄というなの修行をあたえられた私は、あの日の帰りについて思っていたことを聞いた。


 「なんだい?」


 「師匠........。私が気絶したあと、どうやって私を運びました?」


ボスワイバーンを倒したあと魔力が底をつき、気絶してしまった私は師匠に連れて帰ってもらった。

けれど、連れ帰り方を聞いていなかったのである。

転移で帰ってきたのだろうか? 

それとも、飛行魔法でか?

何故か、ものすごく気になった私は師匠に聞きたくなった。

お茶を一口飲み、師匠の言葉をまつ。


 「あぁ、飛行魔法で帰ったよ。」


師匠もお茶を一口飲む。


 「そっか........。」


 「何か問題でもあった?」


 「んー、何にもないよ。」


笑顔を返しながらお茶を口にふくみ、飲み込む。そして、お茶を入れていたコップを流しに出してドアに向かう。


 「何でもないの。お休み、師匠」


私の寝る部屋は、今いる部屋とは別の所にあるのでこの部屋から出ていかなくては、寝れない。


 「お休み、リタ。」


師匠は、私を見送りながらまた一口お茶を飲む。



 そう言って、その日は終わりを告げた。



 


※※※




 あの時、師匠に飛行魔法で運んでもらっていた時



 何故か懐かしい気がした

 


 私は、気を失っていたはずなのに



 覚えてる。



 何でだろう?




目を閉じ、眠るまでの間リタの頭の中にはそんな疑問で埋め尽くされていた。



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