気づいてしまったから
ねぇ、カミラさん。
いや..............、私のお母さん。
貴方は........
知っていたの?
分かっていたの?
ううん。........違うね。
気づいたんでしょ?
でも、気づいていながら黙っていたんでしょ?
..............貴方は優しいね。
けど、ごめんなさい。
私は..............違うの.......。
※※※
「師匠、今日は何するの?」
リタが前世の記憶を思い出してから一年が過ぎた。あれから、四歳になった私は今日も師匠との修行を行うため修行内容を師匠に聞く。
「リタ。今日は修行を始める前にいく場所があるんだ。」
いつもどおりの口調なのに、どこか寂しさを感じる声音だった。
どこだろう? 師匠がこんな声をだす場所って?
「それは、どこなの?」
「ここよりも、ずっと遠い場所だよ。」
おそらく、転移魔法を使いその場所に行くのだろう。師匠が遠いと言っているためこの近くではない。
ん~、どこだ?
そのあと、身支度を整えて転移魔法で目的の場所に転移した。あっという間につくので転移魔法はすごい。
転移できた場所は、木々がすくすくと育ち地面一面に花が咲く崖だった。白や桃色、青に黄色と様々な色の花が咲いておりとても綺麗な光景である。
だが、それが少しおかしいと感じてしまった。
私が周りの景色を見ていると師匠がゆっくりと歩きだした。私もつられて歩きだす。師匠が目指すその先を見るとひときは綺麗な花が咲き、光があたっている光景があった。
「着いたよ。」
「え?」
師匠が止まったため私も止まる。そして、師匠の目線の先を見るとそこには、白い石でできたシンプルな像がたっていた。像と言っても人の形をしているとかではなくまるで.........
「お墓.........」
白い石の像だと思っていた物はお墓に見えた。
いや、見えたではなくお墓だった。
ポツリとこぼした私の言葉に師匠が答える。
「うん。カミラの.......君の母親のお墓だよ。」
「お母さん.........の?」
頷く師匠から視線を移し、お母さんのお墓だという白い石を見る。石の表面には、お母さんの名前がくっきりと刻まれていた。魔法でその場に白い花の花束を置く師匠。
「お母さん.........は、白い花が、好きだった.........の?」
「いや、カミラは、花ならなんでも好きだったんだ。.........僕がなんとなくもってきているだけ.......。」
悲しそうな声に、少しの懐かしさを混ぜたような声音の師匠に声をかけられなかった。きっと、お母さんのことを思い出しているのだろう。
しばらく長い沈黙が場を支配した。それから、数分この状況が続いたあと師匠が口を開いた。
「ここは、生前カミラが望んだ場所なんだ。『花の咲く場所にお墓を建ててほしい』と僕に言ったんだ。.........まだ、カミラが十六、十七ぐらいの時、ちょうど今のリタぐらいの年に言ってきたんだ。」
「!」
その言葉に、私はビックリした。十代の女性が死んでもいないのに既にお墓の場所を決めるってそんなことあるのか?
十六歳ぐらいの時って確かお母さんが師匠の元で魔法を学んでいた時だよね.........。
「僕は驚いたよ。冗談かと思った、けど、彼女の様子は真剣だった。だから、僕はその約束を守ると彼女に言った。.........そして、数年後彼女は、君を産んでこの世を去った。」
何も言わずただ真っ直ぐと師匠を見る。
そっか、今日はお母さんの命日でそれから私の誕生日だったんだ。産まれてから、自分の誕生日を教えてもらったことはない。いつも、師匠が一年のどこかで「リタももう四歳か~」と軽い口調で突然言われていた。それに、お母さんの死は、病気だったと教えられていた。
「こんなに早くカミラとの約束を果たすとは思わなかったよ。」
力なく笑う師匠を黙って見つめる。
「この場所わね。僕とリタ、そして、カミラの姉弟子二人しか入れない。あとは、その四人が許可した人間しか入れないようになっているんだ。」
周りを見ながら師匠が言った。
「リタ。」
「ん?」
周りをみていた師匠が視線を移し、私を見る。
「ここに来たとき、何か違和感を感じなかった?」
「感じた、よ」
周りを見ながら師匠の問いに答える。
最初にこの場所に来たとき確かに私は、この場所に違和感を感じた。お母さんのお墓をみたときよりいっそその違和感は大きくなっていった。
「その違和感の正体は、わかるかい?」
ゆっくりと歩き私の前にくる師匠を顔を上げて見る。
.........この人がその違和感を作ったのか。
師匠は、いつもの表情を作りながら私に答えさせるようにあえて、違和感の正体を言わない。
「ここは、花や自然がこの場所にあり続けているんだね?」
そうこの違和感の正体は、枯れている花が一つもないことそして、自然がなくならず育ち続けているということ。
普通、自然物である花は枯れる。そして、周りの木の葉も散ったりしていない。明らかにこの状態は、不自然であり、人の力、魔法でこの状態を作っている。しかも、ものすごく強い魔力量の人物。例えば.........師匠とか。
「リタが考えているとおり、これは僕が魔法で作っている。もともと、この場所は、花や自然が豊かな場所だ。それをずっと保っているんだ。それに.......」
「この場所は天気をもずっと同じにしているんですね。師匠が.........。おまけに時間と空間をあの世界から切り離している。」
優しく微笑みながら頷く師匠。
「その通りだよ。さすが、僕の弟子。..................ねぇ、リタ。君はこれをみて僕のことどう思った?」
笑顔を崩さす今の私に対して爆弾発言をポンと出してくる師匠。うん。さすがに、ひいた。物凄くひいた。イケメンでも、ここまでやるのはちょっと.......ね?
「ひきました。」
正直者の転生者の口は、黙れないらしい。思った通りのことを口に出してしまった。
「もんのすごく、ひきました。師匠のことものすごくヤバいやつだと脳が只今反応中です。」
オゥ.........黙れないのかこの口は.........。
「リタは、正直だね。」
「ソウダネ。」
片言になったのは、許してほしい。師匠の笑顔が怖くてみれないのだ。視線をそらす。
「.........君も、死んだら、こんな感じになるよ?」
「嫌です!!」
師匠の発言に思わず反射的に答えてしまった。顔を見るとさっきの笑みは消え、悲しそうな顔をしている。
「だよね? ..................だから、リタ。約束してほしいんだ。」
悲しそうな、今にも泣きそうな顔で、声で、師匠は私に言う。
「君は.........カミラよりも.........長く生きて.........ほしいんだ。」
そっか、師匠はこれが言いたかったのか。お母さんと一緒な感じにされたくないなら早く死ぬなと、そんなこと言われなくとも私はそう簡単にしなない。
今世は、長生きするのだから。それに、やりたいこともたくさんあるのだ。
「大丈夫。師匠!私は、死なないよ。お母さんの分まで精一杯生きるよ!! 約束!!」
満面の笑みを浮かべながら師匠を安心させるために、今の私の精一杯の笑顔と想いを言葉する。
「うん。約束だよ。」
「はい!!!」
さっきの泣きそうな顔から一変いつもの師匠の顔に戻った。
あっ!!そういえば、姉弟子が二人って言ってなかったけ?
「師匠! お母さんには、姉弟子がいたの?」
せっかくだ、この場で聞いてしまおう。そう思い、お母さんにとっての姉弟子について聞いていることにした。お母さんの姉弟子なんだからつまりは、私にとっての姉弟子でもあるんだし。
「うん。いるよ。言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ。初耳です。」
「そうだっけ? ごめんごめん。.........彼女たちは、どっちも元気で暮らしているよ。いずれ会えると思うよ。」
「いずれ?」
「うん。.........いずれ。」
今、じゃないのか? なんでだろう?
まぁ、いずれ会えるのか、ならとりあえずいっか。
おっ.........そうだ! あと一つ、是非とも聞かなければならないことがあったんだった。
「師匠! あと一つ聞いてもいい?」
「ん? いいけど.......何?」
質問の検討がつかないのだろう。「わからない」と顔に出ている。姉弟子の話は、予想してたのかな? 師匠、私のことわかってるなぁー。でも、多分これはわからないだろうな。
そう考えながら口を開いた。
私が一番聞きたかったこと。
師匠が多分一番聞いてほしくないこと。
私に、そして......、誰にも気づかれないと思っていたこと。
気づいてしまったから.........
私は、聞くよ?
きっと.........お母さんも気づいていたと思うんだ?
ねぇ、師匠──────
「師匠は.........お母さんのこと、誰に重ねていたの?」
※※※
その時、私は、気づいていなかった。
師匠が私に『死なないでほしい』と言った時........、
約束した時.........、
「僕より早く死なないでほしい」
とは、言わなかったことに。
...........彼は、
「カミラより長く生きてほしい」
と、言っただけだったことに。
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