ポーションの真実


 「今日は、スライムを捕まえにいってもらうよ。」


朝御飯の後で今日の予定を聞かされた私は、またかと思った。


 異世界転生して早十年。前世の記憶を思い出して七年の月日がたった私は、あれから、身長も伸び、髪の毛も肩よりも少し長いぐらいになった。

師匠は、相変わらず見た目も師匠も変わらない。イケメンは、健在である。

六歳の頃のワイバーン狩りは.......うん。無事に終わった。そのあとは、地獄だった。地獄というなの修行だった。


 口にだすだけで恐ろしい.......。二度と........二度と.......師匠を鬼畜と呼ぶのは止めようと思っている.......。が、私の口は信用ならない。私の「二度とは」信用ならない。信用してはならないと思った。

あの出来事から師匠にちょくちょく危ないことさせられている。あぁ、思い出したら今の気分が..............。

やめやめ、思い出すのはよそう。気持ちが下がる。


 「スライムってあの? ぷにぷにしてそうな見た目の?」


嫌な記憶を頭のすみに追いやり、師匠から言われた言葉の確認をする。

スライムといえばあのゲームでよく見る一番最初に現れるモンスター。丸っこい見た目にぷにぷにしてそうな感じの弱いモンスターである。実際には、見たことや触ったこともないのでどんな感じかはわからない。

興味は、あるんだが先にワイバーンを見てしまったために見たいという気持ちが薄れてしまった。だが、師匠のことだ只のスライムじゃないはず何かありそう。


 「そうだよ。」


いつものイケメンしかだせない笑顔を顔に浮かべて、師匠は食後の珈琲を飲む。珈琲は、もともとこの世界にあり、前世の記憶を思い出した状態の私が珈琲の存在を知ったときは嬉しかった。珈琲ゼリーが作れると感じたからだ。実際、すぐ作ったけどね。師匠の朝食の後は、珈琲なのでうちには珈琲豆のストックがたくさんある。私もたまに飲むが苦い。めちゃくちゃ甘いガトーショコラと一緒に飲むと丁度よくなる。

うぅ..............思い出すだけで食べたくなってくる。


 「本当に?」


食後の後片付けをしながら、師匠の方を見る。使ったお皿を洗い、タオルでふき、風魔法で乾かす。その繰り返しをしながら、師匠の次の言葉をまつ。


 「うん? そうだけど?」


怪しすぎる!!

こういうパターンって絶対危ない。

てか、スライムを捕まえるの? 狩るんじゃなくて.........?

んー、聞き間違えかな? もう一回聞いて見よう。


 「捕まえるの?狩るんじゃなくて?」


 「うん。捕まえるんだよ。」


珈琲の入ったコップをテーブルに置く師匠。師匠は、風魔法で私の後ろにある棚から私専用のコップを一つ出す。水色の可愛らしいお気に入りのコップ。

その中に、珈琲ポットの隣にあったお茶の入ったポットの中身をコップに注ぐ。空中でコップとポットが浮かんでいる。めちゃくちゃ、ファンタジーである。前世では、絶対にお目にかかれない光景である。ちょうど、皿洗いが終わった私は師匠の前にあるテーブルを挟む向かい側に椅子に座る。私の前のテーブルに師匠が先ほどお茶を入れたコップを風魔法で浮かせたまま置いてくれる。


 「何のためにスライムが、必要なの? ..............まさか!食べるの!?」


この世界では、スライムは食べるものだったのか!?

異世界転生して十年。初耳である。

マジか.........。


 「..............違うからね。」


溜め息をはかれながら否定された。違うのか.........。

ちょっと食べてみたかったな..............。そんな気持ちが顔にでていたらしく師匠が心配して私に注意する。


 「スライム食べたら.........腹壊して死ぬよ?」


 「.........食べないよ..............。」


なんと!!

死ぬのか..............恐ろしい。スライムは、絶対に食べないようにしよう。お腹を壊すのも死ぬのも勘弁したい。


 「まぁ、それはともかく。.........リタには、スライムを捕まえてきてもらうよ。フルポーションに使うんだ。」


 「へー、ポーションに..............。」


.........ん?今.........何か、スゴいこと言わなかった?

聞き間違えか.........な?

聞き間違えか。もう一回聞いてみよう。


 「ねぇ、今.........スライムをどうするって言った.........?聞き間違えかな? スライムをフルポーションに使うって聞こえたんだけど..............。」


そう、私の耳には、「スライムをフルポーションに使う」と聞こえた。..............聞こえた。


 「そうだよ。スライムは、フルポーションの材料になるんだ。」


..............聞き間違えじゃなかった。私の耳は正常に働いていた。働いていたのか..............。

マジか!? .........このパターン前にもあったな.........。

というか、この世界の人間は、ポーションの中にスライムを突っ込んでいるのか!?

スライムを食べるのとどう違うんだ?

結局は、お腹に入っているじゃないか!!

本当、何が違うんだよ!? 私、ポーションの中身がスライムだったなんて知らなかったよ!修行で何回も飲んだよ。

うぷ..............吐きそう。食べるのは、平気な気がするのに飲むのはちょっと..............。

いや、フルポーションだけなのか?スライムが入っているのは?


 「.........スライムが入ってるのってフルポーションだけ?」


 「ん? いや、ポーションだったら全部に入ってるよ。」


オゥ..............。

これまで飲んだ全てのポーションに入っていたのか.........。

諦めよう。その代わり、光属性の治療魔法もっと腕上げよう。これ以上飲まないように..............。


 「じゃあ、師匠はフルポーションを作るために私に捕まえてきてほしんだね?」


 「そうそう。頼めるかい?」


スライムを捕まえるだけ.........。うーん、それなら前回みたいなことにはならないかな?


 「わかった.........行ってくる。」


 「あぁ、頼むよ。」


そう言って立ち上がり私の頭を撫でる。優しい手付きでゆっくり撫でられる。


 「行ってらっしゃい。」


ずるい。照れてしまうじゃないか。さっきまで疑っていた気持ちがなくなる。

このパターンこの間もやったパートツーである。





※※※




 今回もやって来ました。あの後、動きやすい服に着替え師匠に連れてこられた。毎回、思うが師匠が転移を使うということは、この場所はレレ村からどのぐらい離れているのだろうか?

まぁ、いつかは知るだろうけど。


 今回転移したのは、森だった。スライムが生息していると言われている森らしい。スライムは、巣を造らない。常に移動しながら暮らしているらしい。意外にどこでも現れると聞く。あったら、ビックリするんだろうな.........。


 レレ村の周りにある森とさほど変わらない。自然豊かな場所代だった。空気も美味しいし、とても住みやすい場所である。


 「んー、スライムいるのかなぁ~?」


見たところいる様子が感じられない。

ほんとにいるんだろうか?

とりあえず、歩いてみよう。私は、明るい方に向かって歩き出す。後ろから気配を感じて後ろを向く。

そこには、緑の外套を羽織った師匠がいた。


 「えっ、師匠。何でいるの?」


驚いた私は師匠に何でいるのかを聞く。

いや、マジで何でいるんだ?

前回はいなかったくせに。しかも、私をワイバーンの巣のある谷に突き落としたし。


 その後は、谷の上から私のことみてたし。気づいていたことは、師匠に直接言ってないから知らないと思うけど。


 「いやね、弟子の姿でも見ようとね?」


 ニコニコしながら当たり前のようについてくる。いっつも、みてるくせに..............。なんと白々しい.........。


 「手伝いはしてくれるんですか?」


 「しないしない。」


顔の前で手をふり、否定する。ですよね~。

やっぱり、手伝いとかしないよね。

最初から分かってたけど、ね?


 ガサガサ。


 「!」


 「きたね。」


歩いていた方向にある茂みから音が聞こえた。左右に揺れ、葉と葉がかすれて音を出す。

カサカサ、カサカサと一度目の音がなった後、次々に周りの茂みが揺れる。


ちょこ。


というような効果音がつきそうな感じで茂みから丸っこい水色のゼリーのような物体が出てきた。


 「あ! あれ、スライム.........?」


 「うん。スライムだね。」


その物体は、予想通り私達の目的であるスライムだった。

最初の一匹から始まり、周りの茂みからスライムが出てきた。赤、黄色、緑、紫そして、最初に出てきたスライムと一緒の色をした水色のスライムとカラフルなスライムがどんどんと現れた。


 「スライムの中にわね。核と言われる宝石があるんだ。核には、魔力がふくまれており色々と使い道があるんだ。」


 「へー。」


地面にいるスライムを眺めながら適応に返事をする。師匠が言っているスライムの中にある核を見つけようとしてみる。

お!あれかな?

スライムの中央辺りに何か濃い色の丸っとした物体があった。あれだ。魔力があの丸い物体に集まっている。


 「あれ..............、レアなスライム核だった場合.........お金になるんだよね.........。」


ぼそりと呟く師匠の声は、バッチリ聞こえていた。私に。

へぇーー、スライムの核ってお金になるんだ~。

顎に手をあてふてきな笑みを浮かべる私。はたから見たら確実に悪人ずらの顔だろう。


 「..............ちなみに、そのレアなスライムの核っておいくら何ですか?」


 「金貨千枚」


 「うっお!?」


なんと!師匠が言った価格は相当なもの。



と、ここでこの世界のお金事情について教えよう。

この世界では、金貨、銀貨、銅貨の順でお金の価値が低くなる。


銅貨一枚は日本円で表すと百円になる。

銀貨一枚だと千円ほど、金貨になると一万円。


今聞いたスライムの核は、金貨千枚.........一千万円.........。

大金.........大金である。前世は、庶民の私からしたら一千万円なんてものすごい大金である。


ほしい..............。

そんな大金が手に入ったら老後を遊んで暮らせる。

ぜひ、手にいれたい!!


 「手にいれたい!!!!」


 「何に使うんだい?」


私の顔を覗きこむように顔を近付けてくる師匠。ニコニコしながら楽しそうに聞く。

師匠よ。顔に面白そうと書いてあるぞ。気になるのか、私の返答が。貴方が思うような答えはもってないと思うけど.........。


 「老後のためにです!!!!」


手を握り、拳を作り力説する私。


 「そうなんだ..............。」


残念そうな子を見るような目で私をみてくる。若干ひかれたような気がした。どんな面白いことを期待してたのやら。

師匠から、ニコニコ顔がなくなり、「ちぇぇ」と聞こえるような顔をする。おい、イケメン。その顔は、失礼じゃない?

寛大な心を持つ私でも怒る時は、怒るぞ!

ん? 何々? ワイバーンの時キレてたよねって?

..............ナンノコトデスカ? ソンナコト、アリマシタッケ? ワタシ、オボエテナイナー(棒読み)

ま、そんなことは置いといて!

さっそく、スライムを捕まえよう。

普通のと、レアのを!!


 「よし! スライム覚悟!!君たちを捕まえるぞ!!」




  

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