私の師匠は鬼畜である


 ワイバーン。


 この世界に存在するドラゴンとは、また違う魔物。群れで暮らし、谷の崖に巣を作り子供を育てる。そのため、子供の繁殖期間には、周辺の村を襲う場合や他の魔物を襲う。


 毎年、王国の騎士団が派遣されワイバーンを討伐しに行く。だが、その騎士団が生還する確率は、五十パーセントほどで、瀕死の状態の騎士や腕に脚がない状態がほとんどである。


 その中でも、五体満足での帰還はその内の二十パーセントにも満たない。魔法士がワイバーン討伐する場合も騎士団の生還率の少し上回る程度である。




※※※




 魔法が存在する世界に、生まれた私、リタ・クレールは今ものすごいピンチにおちいっている。


 「リタ。君、私の大切に大切に、ものすご~く大切にしていたアイスクリームを食べたね?」


 ギクッ。

私の育ての親にして魔法の先生であるレスター・ハッカーに睨まれながら、今私は正座をさせられている。


ヤバい。しびれてきた。

だが、元日本人の意地を見せてやる!

根性だせーーー!!!


 「すみません。私が食べました。」


限界だった。し‥‥‥痺れた。

私の元日本人の意地は、呆気なく崩れ落ちた。

脆いぞ!私の心!そして、今世の私の足!

ひ弱すぎる。くっ‥‥‥‥もっと、鍛えておけばよかった!


 「‥‥‥‥全く、アイスクリームは君が作っているんだから、リタが自分で作ればよかっただろう?」


 「だって、冷蔵庫にあったから‥‥‥‥‥。アイスクリームみてたら、食べてくください!!って言っているように見えて‥‥‥‥‥つい。」


 痺れた足をさすりながら、師匠に言い訳をする。はぁとため息を吐かれた。


 「魔法練習‥‥‥‥‥追加ね?」


 「うっ‥‥‥‥‥」


 マジか‥‥‥‥。これ、決定だわ。確実に‥‥‥‥。


 前世の記憶を思い出してから、かれこれ三年の月日がたった。私は、今六歳。身長も髪の毛も伸びた。髪は、肩につくぐらいのショートになった。


 私は、三年前よりも成長したの対し、師匠は三年前と全く変わってない。かろうじて、髪が伸びたぐらいである。あのイケメンは、健在である。


 「あっ! そう言えば、今日はリタに宿題を出そうと思うんだ。」


 まるで、今思い出したような口調で私に言う。絶対、忘れてないよ、この人!!あぁ~、嫌な予感。


 「何、するんです?」


 恐る恐る口を開く私。聞きたくないが、聞かないとここで聞かないと後悔しそうである。師匠がさっきからニコニコしているので恐ろしい。

三年一緒に暮らしているが昔よりも師匠の性格もわかり、嫌な予感の的中率も上がった。


 「ワイバーンを狩ってきてもらうよ。」


 わい、ばーん‥‥‥‥?‥‥‥‥わいばーん?ん?聞き間違えかな?もう一回聞いてみよう。うん。そうしよう。


 「‥‥‥‥‥師匠、もう一回言ってほしいな? もしかしたら私、聞き間違ったかもしれないから。」


 聞き間違えの可能性にかけ、再度師匠に聞き返す。ドキドキしながら、師匠の言葉をまつ。


 「ワイバーンだよ。リタには、ワイバーンを狩ってきてもらいたいんだ。」


 さっきよりも、にこりと微笑み私を見る。イケメンだなぁ~。チクショウ!!!


 「師匠‥‥‥‥今、ワイバーンって聞こえたんだけど?」


 「そうだよ。」


 「無理でしょ!!!」


 思わず声に出してしまった私。聞き間違えじゃないのか!!

いやいやいやいやいやいやいや、無理でしょ!!

この人、何言ってるの? 

冗談は、寝てから言えやーーーーーー!!!!!


 「何、言ってんの!? 無理です!!無理!!六歳児に、何狩らせようとしてるんだ!!」


 「大丈夫だよ。リタなら。」


 必死に訴える私の言葉を笑顔でスルーするイケメン。こいつ、何が何でもいかせるきだ。

くっそう‥‥‥‥断固、阻止する!!


 「嫌です!! 死にますよ!? 私!!!」


 絶対に死ぬ。私よりも何倍も大きいワイバーンを倒せるわけない。

即、パックンだよ。グシャリだよ。


 「うぅぅぅ‥‥‥‥‥‥。」


 これ、多分行かないと強制的に行かされる。何も準備しないで転移させられる。

それは、嫌!!!!

‥‥‥‥‥覚悟、決めなきゃか‥‥‥‥。


 「‥‥‥‥‥‥‥わかりました。‥‥‥‥‥行けばいいんですね?行けば‥‥‥‥‥。絶対、死んじゃう‥‥‥‥」


 ワイバーンを倒しに行くことを渋々決めた私。


 「心配しなくても、リタならワイバーンぐらいちょちょいのちょいで狩れるよ。」


私を安心させるように頭を優しく撫でてくる師匠。暖かい。ズルいな、師匠。安心してしまう。

ちょっと、許しかけた私。チョロすぎる。




※※※




 「ここが‥‥‥‥ワイバーンの巣。」


 あの後、さっきまで着ていたワンピースを脱いで動きやすいズボンに履き替えた。上は、白の服で下は、黒の七分丈のズボン。前世と比べて強度や機能性はおちるが師匠が魔法で強化しているので前世以上の性能である。師匠の服も格好いいザ・魔法使い!って感じである。イケメンは、なに着ても似合うと学んだ。


着替えたあと、すぐ師匠に連れら、ワイバーンの巣の上に転移して来た私達。


 私は、転移を既に使えるが‥‥‥‥使えるのだが、転移は一度行ったことのある場所しかいけない。そのため、まだ行ったことないワイバーンの巣の場所には、師匠に連れて来てもらうしかない。


まぁ、今日来たので次からは、私でも転移できるようになる。


「さ、行ってきな。僕は、ここにいるから。」


私の背中を押して、ワイバーンの方にうながす。

谷にあるワイバーンの巣をゆっくりと覗きこむ。


 全身鋼色の鱗で覆われているワイバーン。大小様々なワイバーンが羽を使い飛んでいる。谷の巣にある卵に寄り添い暖めている。


 「ギャアァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!」


 「ギャアァァァアアアアアアア!!!!!!!!」


 谷底から、高いワイバーンの鳴き声が聞こえる。一体のワイバーンが鳴くと共鳴するように次々とワイバーンが鳴く。巣にいたワイバーンが羽を広げ羽ばたく。


 「どの‥‥‥‥ワイバーンを狩るの?」


鳴き声がうるさく、手で耳を塞ぎながら後ろにいる師匠に聞く。


 「誰を狩ったら、おとなしくなると思う?」


質問を質問で返してきた。誰を狩ったらって、そんなのワイバーンの中でのボス。

‥‥‥‥‥‥‥群れの一番強いやつでしょ?‥‥‥‥‥ん?ん?‥‥‥‥‥‥まさか。

サァァと血の気が引いていくのがわかる。今、私の顔は、真っ青だろう。確実に。


 「まさか‥‥‥‥‥‥。」


師匠は、ニコッと微笑みグッと親指を立てる。良い笑顔だな!!チクショウ!!さすが、イケメン!!


 「‥‥‥‥冗談?」


 「まっさかぁ」


笑顔を崩さず、私の「冗談?」発言を否定する。

マジか、この人。私に、ワイバーンのボス倒せって言ってきている。


 「マジ‥‥‥?」


 「マジだよ。」


 後ろにいる師匠から谷にいるワイバーンに視線を移す。その中でひときわ、大きく魔力量の多いワイバーンが目に入った。


 ‥‥‥‥見つけちゃった‥‥‥。アイツだ。

ゆっくりと後ろを向く。師匠と目があった。ヤバい!


 「見つけたんだね?」


バレた。

私がワイバーンのボスを見つけてしまったことがバレてしまった。

‥‥‥‥‥ダメだ。確実にあいつを狩ることになる。


 「何の‥‥‥‥こと、ですか?」


 若干、目が泳いだけど‥‥‥‥。誤魔化せたか!?

‥‥‥‥‥無理だな。‥‥‥‥‥だが、しかし!!! 

ここは、あがく!!


 「見つけたんだね。」


有無を言わせないオーラが師匠から出ている。

‥‥‥‥諦めよう。これ、ダメなパターンだ。



 ん? 諦めが早いって? 

いや、師匠が怖いんですよ!!あのイケメンの顔を被った鬼畜! 恐ろしいんです!!この三年で学習しました! 


 「.....はい......。」


 渋々頷くと、師匠も頷き、ワイバーンの巣の方を指差す。


 「行って来て?」


 「う‥‥‥‥はい。」


 ゆっくり谷の方に歩きだす。崖ギリギリの場所で止まる。

さっきよりも、ワイバーンが飛んでる数多くない?谷を覗きこむとちょうど谷の下から空に向かって強い風がふいた。


 「へ?」


 その瞬間、私の足は、地面から離れていた。空中で振り返ると師匠が微笑んでいた。

こんのやろーーー!!! 私を押したな!?


 「鬼畜!!!」


師匠に向かって叫びながら、私の身体は谷の下に落ちていく。


 「ギャアーーーーーー!!!」


 女の子としては、この叫び声は終わっていると思ったが仕方がないと思う。

なんか、ワイバーンの鳴き声に似てない?と思ったがその考えは捨てる。捨てないとこの先やっていけない感じがした。

落ちていく私とワイバーンとの距離が徐々に近付いていく。

こうなったら、やってやるーーー!!


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