第3話 「今度こそ勝つ」
勝負をしはじめて、三十日目のことだ。
私も相当な負けず嫌いだけど、それに付き合ってくれる成亮もかなり優しい。
私はその日戦いの中で、前日に閃いたある「行動」に出ることにした。
それは一種の賭けだ。
まずは「祈り」をした。それを自分にではなく、相手にしたのだ。
次に、私の今のアバターの「奥義」は『サプライズ』というもので、戦いに役立つアイテムを一つ与えることができる。この「奥義」も相手に使った。
普通はこれらの行動の仕方をする人はたぶんいない。
大概の人が、自分のアバターを強くしようと必死だからだ。
判定は一度止まり、そこから私にどかっとポイントが入ってきた。
普段は起こらないことにゲーム自体も戸惑ったのだろう。でも、私の狙い通りいい方向に傾いた。
そしてその後は、攻撃をしなかった。
これも作戦の一つで、勝つために戦う必要はないという逆転の発想だ。
なにせ、アクションという名のゲームなのだから、戦うことがメインではないはずだ。
私は様々な行動を時間の限りした。
判定は、成亮28000ポイント、私30000ポイント。
「やったー。勝った!」
私は笑顔で小さくガッツポーズをとった。
「はは、そんな『行動』をするなんて、普通考えないでしょ。さすが、琴葉むちゃくちゃだ」
これには成亮もさすがに驚いていた。
でもそんな言葉より、まず聞きたい言葉が私にはある。
だから成亮の前に立ち、私はこう問い詰めた。
「成亮さ、私が勝てないとか言ってなかった?あの言葉、訂正してくれない?」
「訂正するよ。勝てないなんて決めつけて、本当に悪かったよ」
「よろしい」
「あと、その、少し浮かれてたのもごめん」
「うんうん、素直だね」
私は成亮の頭をぐりぐりとさすった。
「私からも、一言いい?」
「うん、琴葉の好きなこと話していいよ」
今私は明らかに優位に立っている。
勝負し始めた時からは考えられないことだ。
実は、この流れを作るのが、私の一番の目的だったのだ。
勝つことが、私の一番のしたいことではなかった。
「これで成亮と勝負して、私が勝つのは100回目になります」
「えっ、うん」
成亮はいきなりの丁寧な口調と話も変わったことに、ついてこれていない様子だった。
「勝負をしはじめた時から、もし100回勝ったらしようと決めていたことがあります」
「はい」
成亮もつられて丁寧な言葉になっている。
「まずはこんなに何回も私との勝負に付き合ってくれてありがとう。負ける辛さも今回私は分かったよ。それでも、成亮は何度負けても私の勝負を断ることは一度もなかったよね。それは本当にすごいなあと思ってる。あの、よかったら、これから先もずっと勝負してくれない?」
「えっ、それはその、」
「うん、そういうことだよ」
私は顔を赤くして下を向いた。
告白。
それが私の一番の目的だった。
本当は成亮のことが好きで好きで仕方なかった。
でも、ずっと一緒にいるしなんだか言い出すタイミングを完全に逃してしまっていた。
だから、ある時勝負しようと閃いたのだ。
それなら、自然と距離を縮められるかなと思った。
「うん、こんな僕でよければ喜んでずっと勝負に付き合うよ」
こうして、私は人生で一番の勝負にも勝つことができたのだった。
戦う前から、勝敗を決められました 桃口 優/愛を疑わない者 @momoguti
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