第3話「よろずの町医者 After Story」
森野さんが行方不明になった。
最初は、すぐに見つかるだろう。そんな安易な気持ちでいた。
だけど、森野さんは見つからなかった。
やがて雪は解け、春になる。雪国の春は五月と遅いが、それでも春は春だ。
しかし、森野さんは見つからなかった。
夏がきて、秋が来る。そして、また雪が降り始めた。
それでも、森野さんは見つからなかった。
やがて、森野さんが行方不明になってから、一年が経過した。
なかなか見つからない森野さんは、人々の意識から、確実にその存在が薄れていた。
※
それから、三年と言う年月が流れた。
もう見つからないだろう。見つかったとしても、それは変わり果てた姿なのだろう。
好きな人で、きっと見つかると信じていた私でさえも、諦めかけていた。
中学の頃のからの恋、実らないと思っていたのに、突然揺らぎだして、そして砕け散る。
神様は非情だ。私はただ、彼が好きで、彼のそばにいられれば、それでいいって思ってたのに。彼の支えになれば、それでいいと思っていたのに・・・。
冬。その日は、雪は積もっているけれど、晴れ晴れとした日だった。気温も氷点下ではない。
気温がプラスになるだけで、まるで春が訪れたのかと思えるほど、温かく感じることができる。
しかし、寒いのに変わりはない。
コートのポケットに両手を突っ込んで、意味もなく街を歩く。
田舎町なんて、歩いても人に会うことは多くない。
顔見知りは多いけれど、すれ違ってもお辞儀をして挨拶する程度だ。
この町を貫く国道。片側一車線で、中央にはオレンジ色の線が引かれている。雪が積もるこの町で、唯一除雪が間に合ってる道路だ。
その国道沿いにあるコンビニ。大きな駐車場があるため、毎日トラックなどがいきかっている。
つい二年前まで、ここは酒屋さんだった。よく、森野さんとお酒を買いに来ていた場所だ。
それが、いつのまにか大手コンビニ店に変貌していた。
それからしばらく歩く。
この道、森野さんと一緒によく歩いた道だ。
そして・・・。
「・・・はぁ」
思わずため息が出てしまう。
そして、息を吸い込み、寒さのあまり鼻の奥が痛む。
ここは、例の展望台だ。私が育った、小さな田舎町を一望できる展望台、そして、森野さんと久しぶりに再会した場所。
ここに来ると、悲しく沈んだ気持ちになるのは分かっている。
だけど、自然と足を運んでしまう。
それだけ、私にとってはお気に入りの場所だし、かけがえのない場所でもあるのだ。
「ふはぁー」
自販機で買ったココアを一口飲むと、白い息が目線の下から上に向かって通過する。
特に何も考えることはない。いや、考えたくないだけなのかもしれない。
しかし、何も考えないと言うのは、人間にはできない芸当らしい。
森野さんとの思い出が、脳裏に再生されて、停止しない。
考えるな・・・そう思いながら、ただボーッと街を眺める。
すると、背後から足音が聞こえた。
少し期待した私がいた。
「森野さん?」
思わず振り返る。
だけど、そこには誰もいなかった。
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