4章 いただきます

森の中の洞穴の中に架設された

小さな小屋 それが女の家だった


女性「さてと、

それじゃあ早速 野兎を捌く・・・

と言いたいところだけど~」

チラリと少年を見る


少年「お姉さんどうしたの?」

女をじっと見つめ 首を傾げる


女性

「これから私は、

ちょっと色々と するけど

少年は見ない方がいいかな~

なんて思うんだけど」

無垢な少年に見せていいものなのかと

苦笑いをする


少年「だいじなこと?」

真面目な顔で尋ねる


女性「うん、大事なこと」

釣られて真面目な顔になる


少年「じゃあ、みる」

少年の目には 強い意志が宿っていた


女性「分かった、でも

いやな気持ちになったら

見るのをやめるんだよ?」

ささやかな 気遣いをする


少年「うん」

強い目をしていた



女性

(まぁ、どのみち

いつかは覚えないといけないことだもんね)


女も覚悟を決める

女性「それじゃあ説明しながらやるね」

少年「うん」

しっかりと女の手を見る


それから兎の締め方

何故血を抜くか

中身を取り出す際

何を 気をつけなければ 等を細かく

説明しながら 捌いていく


途中から

少年の顔色が悪くなっていたが

それでも見るのは辞めなかったので

女も、その意志を組み構わず続けた


女性「ふぅ・・・捌き終わった

顔色悪いけど大丈夫?」

少年を気にかける


少年「うん」

声は小さく弱々しく

顔色も 今にも吐き出さんばかりだった


女性「無理しちゃダメだよって言ったのに・・・

でもちゃんと最期まで見たのは偉い

カッコイイよ」

しっかりと思った通りに

少年を褒める


少年「うん、ゴメンなさい」

最後の褒め言葉はあまり

聞こえていなかったようだった


女性「それじゃあ ご飯作ろっか」

溜め込んでいる水で手を洗い

調理に取り掛かった


その日のご飯は

野兎と野草焼きに干し肉のスープ

というメニューだった


少年「ウサギさん・・・」

顔は暗いままだった


女性は諭す様に叱る


女性

「少年、そんな顔したらダメだよ

ご飯を食べる時は笑顔じゃないと

ウサギに、命に失礼だよ」


少年「しつれい?」

顔を上げ 女とウサギだったものを交互に見る


女性「うん、私たちは生きる為に

ウサギの命を奪った

だからって可哀想なんて思っちゃダメなの

ちゃんと命にありがとうをして

しっかりと

命を、ウサギの明日をいただきます するの」

少年の目をしっかりと見据える


少年「うん、分かった

僕 ちゃんとする」

そう言って

ウサギだったものをしっかり見る


女性

「あなた達の命に感謝して・・・いただきます」

しっかりと手を合わせ

目を瞑り 奪った命へと祈る


少年「ウサギさん、ありがとう

いただきます」

女性の真似をして手を合わせ

目を瞑り 頭の中のウサギへと

ありがとうを伝える


少年

「おいしいね、お姉さん、おいしいね・・・」

少年の目からは綺麗な涙が零れていた


女性「そうだね、美味しいね」

笑顔で答える

そして 女も少年を見て

新たに 命の価値を

しっかりと心に刻み直した


女性「少年、ちょっとおいで」

手招きをする

少年「お姉さん なーに?」

トテトテと女の元へと歩いていく


女性「一緒に埋めにいこうか」

そこにあるのは 解体したウサギの

内蔵や首だった


少年「うん」

ウサギを見た少年の顔からは

もう罪悪感による

顔色の変化は無くなっていた


女性(大丈夫そうだね)

心の中で喜ぶ女


家から 近くの木の根元に

ウサギの物を埋め

再び手を合わせる 二人


女性「ご馳走様でした

あなたのお陰で

私は今日も生きていけました」


少年「ウサギさん、ありがとう

ごちそうさまでした」

もう涙は流していなかった



女性「さてと、

それじゃあ家を帰って

歯を磨いて寝ようか?」


少年「うん!」


2人は その後

塩を歯を磨くのだが

少年は 塩磨きと言う

初めての経験に驚く事になったのだった

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