27.「コレ、どういう状況だ?」
……コレ、どういう状況だ――
――あ、俺、雷コトラ、……いや、昼休み、部室でギター弾いてたんだけど、ちょっとトイレ行こうと思って廊下出たら、葵と紅が一緒に廊下を歩いている見かけてさ。
俺が惚れてる紅と、紅が惚れてる葵……、何やってんだろうアイツらって、まぁ、俺としてはめちゃくちゃ気になるワケよ。……で、だせぇなとは思いつつ、こっそり後ろをつけてみたワケよ。アイツら、校舎裏で二人きり、何やら話してて、まぁ、それはいいんだけど――
……あの、木に隠れてコソコソしてる奴、柳だよな? 何やってんだ、アイツ――
首を斜め四十五度に傾けた俺は、紅と葵にバレないように、抜き足差し足忍び足で柳に近寄った。トントンと肩を叩くと、柳の全身が、壊れたバネみたいに跳ねあがって――
「……ふぇぇぇっ!? ご、ゴメンナサイぃぃぃっ!? ……って――、コ、コトラく――」
柳がでかい声出すもんだから、慌てた俺は両掌をばふっと柳の口に被せた。
(……ばっ……、バカッ! でけぇ声出すんじゃねぇよ……)
ヒソヒソと、俺は柳に耳打ちしながら、チラリと奴らの様子を窺う。……よかった、葵も紅もこっちに気づいていないみたいだな……。――ん? なんだ、柳のやつ、めちゃめちゃ顔真っ赤じゃねぇか、夏風邪か? なんか髪の毛逆立ってるし。
そのままの姿勢で、俺はしばらく耳をそばだてていた。……クソッ、こっからじゃ遠すぎて、アイツらが何話しているのかてんでわからねぇな。
諦めたように頭を垂れた俺は、柳の口元から掌を離し――、プハァッと、真っ赤な顔で爆発しそうな柳が大量の息を吐き出した。逆立っていた柳の髪の毛が、フワリと垂れて――、……いや、どういうカラクリだよ。
(……コ、コトラくん……、な、な、な、なんでこんなトコロに――)
ヒソヒソと、声なき声で、柳がパクパクと口を開閉させている。……ったく、こっちの台詞だよ――
『柳アゲハ』――、真面目で大人しくてお勉強ができて――、絵に描いたような『良い子ちゃん』。
こうして近くで見ると顔はバツグンにかわいいし、確かに葵が惚れるのも無理はねぇが……、正直コイツからは『ロック』が一ミリも感じられないな。なんか、他人にしかれたレールの上を、ただひたすら走ってるだけ、って感じがして――
(……いや、葵と紅が校舎裏行くの見かけて、つい気になって追いかけてきたんだよ……)
(……えっ? そ、そうなんですね……、じ、実は、私も――)
(――はっ? 柳も? なんで? なんで柳がアイツらのこと気になってるの?)
(――えっ!? そ、そ、そ、ソレハデスネ、ナントイウカデスネ……、ワタアノスキイエパピコ――)
あわあわと、ロボットみてぇにカタコトに喋りだした柳は、後半何を言ってるのか全く以てわからねぇ。……なんだコイツ、こんなキャラだっけ? 柳の頭上からプスプスと煙が出始めたもんだから、「やっぱいいや」とショート寸前の柳ロボに俺は強制終了をかけた。
――そういやぁ……
疑問がよぎり、そのまま喉を通過する。
(……柳ってさ、なんで俺のライブ来てくれたの?)
(えっ……?)
パチクリと、小動物みてぇに瞬きを繰り返しているのは『柳』で――
(……そ、それは、ま、前も言ったように、夏休みの自由研究の題材にしようと)
(……いやだから、それ絶対ウソだろ、夏休みまであと一か月もあるし)
(うっ……)
――ハァッと、呆れたようにタメ息を吐いたのは『俺』だった。
(……だ、誰にも、言わないでくださいね? じ、実は――)
観念したように地面に目を落とした柳が、ギュっと目を瞑って、振り絞るように声をあげる。
(じ、実は私……、ロックが、大好きなんです……ッ!)
――えっ……?
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