第六幕 ~校舎裏の変~
25.「淑女のカミサマ、なんているのかわからないですけど」
私は、自分で思っているより悪い子なのかもしれません。
今まで気づかなかったけど、ストーカー癖があるのかもしれません。
七月四日の木曜日、コトラくんのライブに行った次の日の昼休み。
校舎裏、文字通り草場の影に隠れている私は……、とある二人の高校生……、『葵くじら』くんと、『紅ほたる』さんの二人を、こっそり覗き見しています。
……そうです。例によって二人のことを尾行してきたのです。……ああ、そ、そんな目で、見ないでください――
――刻を遡ること五分前、ガヤガヤと喧しい教室、お弁当箱を広げようとした私の耳に、紅さんの声が届きました。彼女はボソボソと、覇気のない声で葵くんに声をかけると、二人はそそくさと教室の外へ消えていってしまいました。
気になる……。
お弁当箱を広げようとした私の手はピタっと止まり、私の対面、銀縁メガネの友人が首を斜め四十五度に傾けます。
「……柳さん、急に止まったりして、どうかしたの?」
「――えっ!? ……あ、い、いや……」
ハッとなった私は、ごもごもと口を動かし、きょろきょろと目を泳がせ――
「――ちょ、ちょっと急に、お腹が痛く……、なってしまって――」
「……まぁっ!? それは大変だわ。柳さんのお弁当は代わりに私が食べておくから、柳さんはすぐに保健室に行って!?」
「……え、えっ? い、いやもうおさまったから大丈夫です、っていうか、お弁当は食べないで――」
「――いいから、いいから、さぁさぁ、早く行ってください!」
――言うなり、どすこいどすこいと見事なツッパリを披露した友人が、あれよあれよと私を教室の外に押し出してしまいました。……はぁ。
路頭に迷った私の口から陰鬱の混じったタメ息が漏れ出て――、恋の触手が、ヒソヒソ声で私に囁くんです。
『紅ホタルは葵クジラに惚れている……、あの女たぶん、クジラに告白の返事を聞こうとしてるんだぜ? 雷コトラが惚れてる女の動向……、知っておいた方がいいんじゃねぇか? こっそり後を付けて、様子を見に行こうぜ』
……そ、それは、そうかもしれないけど。……そんな、デバガメみたいな真似、淑女のやることじゃ……、あ、いえ、淑女になりたいわけじゃ、ないんですけど。
『……それにお前、昨日の葵クジラの意外な一面を見て以来、ソッチの方も気になってるんだろ? 紅ホタルがフラれようが、アイツらがくっつこうが、どっちに転んでもお前にとっちゃオイシイんじゃねぇの?』
……ッッ!!
……そ、そんな、そんなこと……。
……い、一度に二人の異性が気になってしまうなんて……、そんな、フシダラな感情――
――わ、私に……、芽生えるワケ――
ハッとなった私の眼前、廊下の奥で、階段を下に降りていく二人の姿が見えました。……言わずもがな、葵くんと紅さんの背中です。
一瞬だけ、躊躇して、
一瞬だけ、頭が空っぽになった私は――
……淑女のカミサマ……、なんているのかわからないですけど……、
ゴメンナサイッ!
ギュッと目を瞑り、こっそりと二人の後を追い始めました。
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