番外編 休日の過ごし方(加賀見の場合)

〜♪

どこからか春の日差しのような声で歌が聞こえてくる。

歌の出どころを知っているが、私はあえてその場所へ足を運んだ。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「……秀哉様、お料理をしている時に歌を口ずさんでは衛生面がよくありませんよ。」

私は厨房の人影にそう声をかけた。

「……あぁ、なんだ加賀見か。別にいいだろう?歌くらい。」

人影が振り返ると美しく整った顔がこちらを向く。

「おやおやおや。」

「まぁ、あなたが良いと言うならわたくしは構いませんが……。」

そう彼はわたしの勤める藤財閥の御曹司で次期当主だ。

この藤家には3人の子供がいる。1人は今歌を歌いながら料理と思われる事をしている藤秀哉、彼はよく完璧だとか何とか言われているが私はそうは思わない。

2人目は藤さよ子、彼女は秀哉の妹で私達使用人にも優しく接してくれるし、何より料理が上手だ。彼女はいつも、天使のような笑顔を見せてくれる。

そして3人目、名前は駿河杏李。藤家の直系ではないが養子としてこの藤家に入っている。彼は申し訳ないと言って、出ていってしまったが本当は彼の母にも藤家の血が流れているから、何も負い目を感じる必要は無いはずだ。そして私は、彼のことが大好きだ。弟どころか息子のように思っていた時期もある……、早く帰ってきてくれると嬉しいのですけどね。

──────────

「……加賀見!」

と唐突に厨房の秀哉に声をかけられ咄嗟に返事をする。

「如何なさいましたか、秀哉様。」

ちらっと目をやると慌てふためく主人の姿が見えた、見えてしまった……。

「はぁ……」

ため息をつき、秀哉の横に向かった。

「大変なんだ!卵焼きを作っていたら爆発してしまった……。」

調理器具が壊れているのではないか、卵がおかしいなどと言い訳をする主人に声をかけながら私は現状の確認に入った。

「秀哉様、他の侍従はどうしたのでしょうか……。」

「……殻が沢山入ってるとか、そこに小麦粉はいらないとかどんどん口を出すから出て言ってもらった。」

私は他の侍従を不憫に思いながらも、最高の笑顔を作り主人にこう告げた

「……秀哉様、ここは危ないので退出していただいて……。」

秀哉は少しムッとして

「やだ。」

とだけ言った。やはり顔がいいだけに迫力がある。だがそれで引き下がるほど私は彼との日が浅くない。

「秀哉様、今日は杏李様がいらっしゃるのでしょう?そのようなすすまみれの服では、杏李様に心配させてしまうのでは無いですか。」

そういうと秀哉はハッとしたように、割烹着を脱ぎ捨てて

「そうだった、ありがとう加賀見。俺はもう戻るよ。」

といい厨房をようやく後にした。

──────

これでようやく主人じゃまものを追い出すことに成功したわけだか、杏李様がいらっしゃるのは嘘じゃないし、咎められることは無いだろう。

……卵焼きを作っていたと言う割には謎の物質が多すぎる……。

飛び散ったものの始末をしなければ、と思いチリンチリン

と私は携帯しているベルを鳴らした。


少ししてから他の召使いが厨房に集まった。

「お呼びですか、執事長。」

彼らはそう言って私にお辞儀すると、こちらの指示を煽った。

「……また、秀哉様がお料理をなされました。」

普通に考えて、身分の高い秀哉などが使用人と同じ立場になって料理をしてくれるのはとても好ましいことなのだか、藤家では違う。

秀哉様だけは厨房に入れるなという噂が立つくらいだ。

ただ料理が下手で不味いものを作ってしまうだけなら構わない、構わないのだが……。

秀哉は違う。毎回毎回、何度調理器具を壊し食材をダメにし、厨房を破壊しようとするのか。

しまいには見張りに入った侍従まで追い出されるとは……

ここまで来ると笑ってしまう。

「ここの掃除を任せました。」

そう告げられた召使い達はまたか……という顔をして掃除用具を手にとった。

だが不思議と秀哉は誰からも嫌われていない。それは彼の人柄がなしていることなのか、美貌が役に立っているのかは分からないが良い傾向だ。


さぁ、ここは他の人に任せて私は部屋に戻るとしよう。

​────​────

この家は住み込みで働く人がとても多い。かくいう私もそのひとりだ。

よって部屋も用意されているのだ。私は執事長という役職についているので、他の人よりもワンランク上の部屋を用意してもらっている。


広い部屋に入るとまずはベットにダイブした。使用人の部屋とはいえとても豪華だ。

旦那様いわく、たとえ使用人といえども藤家にいる以上大切にするのだと。とても良いと思う……、ぜひ続けていただきたい。


一息ついてから私はベットの下にある箱を取りだした。

箱の中身は写真だ。カメラを秀哉に貰ったときから少しずつ、撮り溜めているのだ。

藤家の庭園や空、鳥などの写真。そして杏李様の写真だ……!

私は杏李様を盗撮していることを誰にも言うつもりは無い。いいや、バレてしまう訳には行かないのだから……。





この時、加賀見は気づいていなかった。とても目の良い人が外から覗いていたことに……




「……へぇ、加賀見にそんな趣味があったんだ。」




彼はそう呟くと、自分の部屋へと帰って行った。




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カンナ―怪奇譚― meteorua'* @9321mizu

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