第5話
時は遡って。
友人が真っ赤になって飛び出していったドアプレートを見つめながら、鮮やかな桃色のツインテールを揺らして、天才少女は嘆息を吐いていた。
理由はいわずもがな。目の前に直立不動で佇む合成人間のリーダーである、無骨ながらも精悍な顔立ちが凛々しい戦士ガリアード。
彼の、あまりにもデリカシーのない発言に呆れ果てているがゆえだった。
ゆったりと腰を下ろせる浮遊チェアに腰を下ろし、額に手を当てて、セバスちゃんは低い声を絞り出すしかなかった。
「……アンタの記憶メモリにはなかったのかもしれないけれど。女の子に真顔でパンツ、なんて言うのはセクハラっていう嫌がらせなのよ。覚えておくといいわ」
セクハラ、記憶した、と真顔で返答され、少女はさらに頭を抱えた。
だめだ、なにもわかっていない。クロノス博士は天才だったのかもしれないけれど、人間の情緒は理解できていなかったのかもしれない。
とはいえ、今後もこういったトラブルがあっては困るのだ。自身もまた天才少女であるセバスちゃんとしては、予想できる困難は常に排除しておかねばならない。
「というか、夫婦間の下着云々の会話は、他人に漏らしていい話題ではないわ。求められても検索したり他言したりしてはならない。これを守ってくれる?」
「妙なことを言う。下着の話をした覚えは一度もないが」
「いま、したでしょ。エイミに。見たでしょ、あの反応を」
「人間が衣服として身につけるものを、ひと括りに下着、と呼ぶのは初耳だ」
だからいまパンツの話を、と言いかけて、天才少女ははっと動きを止めた。
これだけ会話が噛み合わないのはおかしい。認識に齟齬がある、と彼女は即座に状況を分析した。
そして、ある可能性を口にしたのだ。
「……もしかして、だけど。こういう、下肢を覆う着衣の名称を、ズボンじゃなくてパンツって記憶してる?」
自身が身につけるショートパンツを指し示しながら、少女は恐る恐る問いかけた。
無骨な合成人間はしばし押し黙った後で、ゆっくりと頷き、ズボン、パンツを言い換えるものとしてヒットした、と簡潔に応えたのだ。
それを受けて、天才少女は瞑目し、ああ、と呻いた。
「なんでそんなところだけ、小洒落て単語登録したのよ。きれいな奥さんの前で、見栄でも張ってたわけ? なぞ過ぎるわ、おっさん」
おわり
親の心、子の心 ミオヤ @miomio08
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