第19話 「もしかして、初めてなの?」 緊張に喉をゴクリと鳴らした。
※注意
今回の話は少し長めになってます。
――――――――――――――――――
十二月二十四日、金曜日。
午前中。
俺は
昼からと言っていたけど、結局午前中から一日フルに使うことになり、昨日から楽しみにしていた。
麗の家に迎えに行こうかと言ったが、駅で待ち合わせの方がロマンがあるという麗の謎の理論により、ここでの待ち合わせになった。
「
「麗、おはよう」
「おはよ。待たせてごめんね」
「全然待ってないから大丈夫だよ」
少し小走り気味にやってきた麗は、彼女っぽさマックスで一瞬で心臓が跳ね上がった。
ブラウンの丈の長いコートを上に着て、下には薄いベージュ色の暖かそうな服を着ている。
黒い長めのスカートを穿き、黒いベレー帽を合わせており、麗の綺麗な金髪がよく映える。
耳元を見てみると、俺がプレゼントしたイヤリングが付けられており、心臓がはち切れんばかりに嬉しかった。
「どう? 似合うかな?」
「最高にかわいい……」
「ふふっ。ありがとっ」
こんなにかわいい女の子が俺の彼女なんて、こういう姿を見る度に思う。
本当に俺でいいのだろうかなんてことを。
でも、きっとそんなことを言ってしまったら、麗は怒るんだろうな。
なんで本当に俺の彼女なんだろう……。
あ、無限ループしてる……。
「難しい顔してどうかした?」
「難問にぶち当たったんだよ……」
「冬休みの課題の話……?」
「永遠の課題かもしれない……」
「なにそれ?」
話が噛み合わずに麗が混乱してしまっている。
今はこんなことを話している場合ではない。
「ま、気にしないで行こう」
「そ、そう?」
「荷物持つよ」
「これくらい持つわよ。それよりほら」
そう言うと麗は左手を差し出してくる。
さすがに意味がわからないほどバカじゃない。
俺は右手で麗の左手を包み込んだ。
手袋はしていないので、直接麗の手に触れることになるのだが、とても冷たい。
でも、すべすべしていて気持ちがいい。
「手袋した方がよくないか?」
「今度からそうするわね」
苦笑しているところを見るに、してくればよかったとか思ってそうだ。
「康太の手、あったかいね」
「ずっとポケットに手、入れてたからな」
「やっぱり結構待ってたんじゃん」
「誘導尋問か?」
暴く必要ありましたかね?
「ふふふ……」
「そんなことはいいからさ、まずはどこ行く?」
「そうねぇ……。カラオケとか行ってみる?」
「お、おぉ……」
女の子とカラオケが初めてとかそれ以前の問題で、俺はまずカラオケに行ったことがない。
あまり友達と遊んだこと自体がないのだから、外で遊ぶなんてことはなかった。
最後に歌ったのなんて、中学の音楽の授業かもしれない。
「自信ないの?」
「やってやるわい」
そう言われたらやるしかない。
このまま行かないのもなんだしな。
麗にしか聞かれないのなら、自分の実力がどれくらいかここで知るいい機会だ。
麗に笑われるのは我慢しよう……。
手を繋いだまま二人で歩いていく。
ゲームセンターの近くにカラオケはあるので、そこまでの距離ではない。
「雪降らないわね」
「今日の夜降る予報だったぞ」
「見た見た。もし降ったらホワイトクリスマスになるわね」
「だな」
雪が降ったところでデートとか、そういうのはとても憧れる。
だから、昼過ぎに降って欲しいなんてそんなことも思う。
でも、もし……。もし、夕方くらいに降ってきたらその時は……。
「着いたわよ? どうかした?」
「なんでもない」
「考え事が多いわね、何か気になることでもあるの?」
「お前がかわいすぎるから緊張してんだよ察してくれ」
「そ、そう……」
誤魔化すためになんか適当に言おうと思ったが、本当のことを言ってしまった。
考え事をしているというのは事実だが、半分は現実を見ないためでもある。
いや、見たいんだけどさ。
ほら、だって隣でもじもじしてる麗、すごくかわいいんだもの。
直視してたらどうにかなっちまうって。
「でもあれだよな。麗も考え事するとずっと考えてるよな」
「え、そう?」
「そうそう。特にデートとかそういうの妄想してる時」
「も、妄想とか言うな!」
「事実じゃん」
そういうところは超絶乙女なんだよな。
全体的な仕草とかも。
なのに言葉だけが少し強いのはなぜなのか。
今やそれもかわいいから困るけど。
「あの、麗さん手が痛いんですが」
「どうしてなのかは自分の胸に聞くのね」
言葉だけじゃなくて行動も強いかもしれない。
そんなこんなしつつもカラオケのお店に入っていく。
時間は二時間にしてもらい、飲み物を準備してから十三番の部屋に案内された。
「こんななのか……」
「もしかして、初めてなの?」
「おう……」
思ったよりも個室でちょっとびっくりした。
麗は慣れたようにコップを置いたりマイクを置いたりしている。
エアコンのスイッチも入れたようだ。
「よいしょっと……」
コートも脱いでハンガーに掛けていた。
なんだか個室に二人きりということを自覚してしまい、少し緊張してしまう。
ついつい麗に見惚れてしまっていると、麗は少し恥ずかしそうにしながらも隣に座るように勧めてきた。
ハッと我に返り、俺も着ていた上着をハンガーに掛けて隣に腰かける。
「とりあえずこれの操作を覚えましょうか」
そう言われて見せられたのはタブレットのようなものだった。
曲名や歌手名など書かれている。
「これで曲を入れるの」
「なるほど」
「なんとなくわかるかもだけど、最初はあたしが入れるわね」
そう言って目の前で操作してくれる。
なんとなくではわかるかもしれないが、実際に見せてもらえるのはありがたかった。
そうしてリクエストした曲は最近流行りの曲で、俺も聞いたことのある曲だ。
麗の歌はもちろん聴いたことがなかったが、好きな歌い方だった。
透き通っていて、でも芯があって力強い。
聞いていてとても心地がよかった。
「はい、次康太の番ね」
「お、おう……!」
緊張しながらも俺は選曲をする。
こちらも最近流行りの曲で、きっと一度は聞いたことがあるだろう曲を選んだ。
イントロが始まり、どんどん緊張が高まっていく。
上手く歌えるか、心配になっていく。
「上手く歌う必要はないのよ。楽しんで歌いなさい!」
俺の背中に衝撃が走る。
少し痛いが……そうだな。
別にコンクールとかに出ているわけでもないしな。
二人でカラオケデートをして遊んでいるだけなんだ。
どういう風に歌ったかはわからない。
気が付いたら歌が終わっていた。
「…………」
麗が固まってしまっている。
やっぱり下手だったか……。
「康太って歌上手いのね……」
「え」
「ねね、これ一緒に歌わない?」
「お、おう……? おお……!」
そうしてデュエット曲を歌ったり、それぞれ歌っていると二時間なんてあっという間に過ぎた。
カラオケから出ると麗が「う~ん」と伸びをする。
「楽しかった~!」
「俺もすっごく楽しかった……」
麗と一緒だからというのもあるだろうが、カラオケがこんなに気持ちのいいものだとは思わなかった……。
「次、どこ行く?」
「駅移動してもいいか?」
「どこか行きたいの?」
「昼ご飯さ、すっごいうまい弁当屋があってさ。そこの弁当食べよう」
「何それ気になる」
というわけで、踊姫駅に戻り電車に乗る。
向かうのは
※※※
「わ! すっごい! おいしそー!」
「だろ?」
姫奈駅付近にある食べ屋という弁当屋。
前にこの辺りを散策した時、楽器屋と共に見つけたお店だ。
弁当屋だが、店内に食べれるスペースが用意してあり、そこで食べることにした。
「なんでこんなお店知ってるの?」
「前来た時散歩したんだよ。隣には楽器屋があったぞ」
「そうなんだ!」
お店の人からもらった割り箸を麗にも渡す。
俺も弁当の蓋を開けると、麗は待っていてくれた。
二人揃って手を合わせる。
「「いただきます」」
最初からハンバーグにすぐ箸を伸ばす。
前にも食べた弁当だが、やはりめちゃくちゃおいしかった。
「おいし! すっごいねここのお弁当!」
「そうなんだよ。前にも食べたんだけど、すごくおいしかったからさ」
「ありがとね。教えてくれて」
「とんでもない」
そう言って麗は嬉しそうにハンバーグを食べる。
もぐもぐしている姿もかわいらしい。
「この後はどうするの?」
「デパートでも行くか?」
「いいわね」
ウインドウショッピングってやつだ。
デートするって約束してたのに、スタートのカラオケからそうだったが、行き当たりばったりだな。
でもそれが、俺たちらしいと言えばらしいけど。
「「ごちそうさまでした」」
二人仲良く弁当を食べ終える。
置いてあるゴミ箱に容器を入れ、お店の人にもごちそうさまでしたと言ってから出た。
デパートの方に向かって二人で歩く。
学生の休みが多いからか、家族連れの人だけでなく、同年代くらいの人もそこそこいる。
この辺は色んな店があるし、一日遊ぶには困らない。
近くに住んでいる人も住宅街があるから多いだろうし、比較的大きな駅なので人が集まりやすいのだ。
でも、踊姫駅の方もすごいと思う。
人口の問題なのだろうか。
「服が見たいわね」
「付き合うよ」
「ありがと」
こういう些細なところでも嬉しそうに微笑んでくれるところや、お礼を言ってくれるところ。
こっちまで嬉しくなるし、心臓のドキドキが止まらなくなる。
好きだなぁ……。
「あれかわいいわね」
「似合いそうだな」
「そうかしら」
「正直なんでも似合いそうだけどな」
「贔屓目じゃないかしら……」
「贔屓して何が悪いか!」
贔屓とかじゃなくて、客観的に見ても似合うと思うけどね。
たぶん、街頭アンケートとかしたら百人中百人が似合うって回答すると思う。
「何か着て欲しい服とかある?」
「言ったら着てくれるのか?」
「その服によるわ。えっちなのはまだダメよ」
「まだ……?」
「っ! 今のなし!」
手で真っ赤に染まった顔を隠しながら俺より先を歩いて行ってしまう。
俺はそのかわいさに思わずニヤニヤしながらも、慌てて追いかける。
「先行くなって~」
「もうっ」
「ごめんごめん。春と夏にデートできてないから、春夏のコーデは見たい」
「じゃあ今は無理な相談ね」
「後は水着だな」
「そのくらいなら、その時にね」
「よしっ」
これで夏に海もしくはプールに行く約束が取れたと言っても過言ではない。
麗は少し呆れているが、彼女の水着が見たくない男なんていないさ。
「だいたい、冬はまだこれからなのよ? もっと冬を満喫しなさい」
「イベントはこれからだからな。満喫するつもりだよ」
今日がクリスマスイブで、明日はクリスマス。
年末に年始、バレンタインデーにホワイトデー。
イベントが盛りだくさんで今からワクワクしてくるな。
「ならいいけど。ほら、あっちのお店にも行きましょう」
「だな」
※※※
「ん~! 遊んだなぁ~」
「楽しかったわね~」
夕方までみっちりと遊んだ俺たちは、近くの公園で少し休んでいた。
だんだんと寒くなってきてはいるが、人が増え始めている。
クリスマスイブのイルミネーションが目的なのだろう。
それは、俺も麗にもわかる。
「もうそろそろなのかしら」
「もうこの時間になると暗いもんな」
すっかり日が短くなり、夏なら明るいこの時間でも辺りはすっかり暗い。
しかしまだイルミネーションは付いておらず、人だけが集まりつつある。
俺と麗の間に無言の時間が流れる。
約束通りなら、この時間で解散ということになっている。
二人で駅に向かって電車に乗って、俺は麗を家まで送って。
ふと麗を見てみる。
麗はまっすぐにどこかを見つめていた。
視線の先を追ってみると、何組かのカップル。
たぶんこのほとんどがイルミネーションを見に来たのだろう。
その後はディナーだろうか。
「あ、雪……」
「ほんとだ……」
ぽそりと聞こえた声に、空を見上げてみると、白い粒がひらひらと舞い降りてきている。
それとほぼ同時だった。
「わぁ~」
「お~」
周りの人たちからも声が上がる。
イルミネーションが全部一気に点灯し、真っ暗になっていた街を綺麗に彩る。
「綺麗ね」
「ああ」
麗の後ろに、ぼんやりと色とりどりの光が見える。
綺麗な金の髪に、白い肌。
薄めの化粧にアクセサリー。
どれも麗に似合っていて、とても……。
「綺麗だ」
もともと決めていたこと。
そうしようと思っていたこと。
緊張はするが、やっぱり言うべき、誘うべきだろう。
「なぁ麗?」
「なに?」
「夜まで、一緒にいないか?」
麗がハッとしたようにこっちを見る。
そのまま麗は自分の体を抱きしめるようにし、俺から少し距離を取る。
俺が思っていたのと反応が違う……。あれ?
「……えっち」
「ちっげぇよ!」
夜までって言ってるじゃんか!
朝までじゃねぇ!
「イルミネーション見てこうってこと! なんなら指一本も触れませんから!」
「ホントに?」
「誓います誓います。指一本触れませんとも」
俺は両手を挙げてアピールする。
一緒にイルミネーションが見たい。
ただそれだけなんだ。
ま、イルミネーションを見てる麗も見たいんだけど。
「誓うの?」
「誓います」
「……手、繋がないの?」
「…………」
頬を赤く染めながら、もじもじして上目遣いなんて、そんなのずるい……。
「……繋ぎます」
「ふふっ」
敵わないなぁ……。
二人で立ち上がって、手を繋ぐ。
お互いに手は冷たかった。
でも、暖かい。
俺が先に一歩踏み出すと、麗も少し遅れて一歩踏み出す。
時々当たる肩や腕が、愛おしい。
麗を見れば、麗もこちらを見て微笑む。
どちらからともなく指を絡めるように手を繋ぎ直し、色とりどりに飾られた街を二人並んで歩いた。
周りがだんだんと明るくなっていく。
イルミネーションの中心にいるような気分だ。
「なぁ麗」「ねぇ康太」
ハッと顔を合わせる。
たぶんやろうとしてることが同じで、俺も麗も思わず笑ってしまう。
「お先にどうぞっ」
「じゃあ……」
鞄から包んでもらった箱を取り出す。
「はい。メリークリスマス」
「ありがと。開けても?」
「どうぞどうぞ」
麗は丁寧に包装を剥いでいく。
中からはネックレスが入っている箱が出てくる。
それを開き、中のネックレスを見ると、麗はパッと笑顔を咲かせた。
「綺麗……」
「似合うかなと思って……」
「ね、あたしにつけてよ」
「えぇ!?」
目の前に自分の選んだネックレスが差し出される。
じーっと見つめられていると、とても断れない。
「わかった……」
ネックレスを受け取って、麗の首に手を回す。
グッと麗との距離が近づいてドキドキする。
今にもキスができてしまいそうな距離だ。
すごくいい香りがする……。
「……はい、できた」
「ありがと」
少し照れたように微笑む麗が綺麗でかわいい。
「似合ってる」
「嬉しい……」
胸元に垂れたネックレスを持ち上げながら嬉しそうに微笑む。
喜んでもらえたようでよかった。
「じゃあこれはあたしから。メリークリスマス」
「ありがとう」
かわいらしい紙袋を渡される。
一体何が入っているのだろうか。
「開けてもいいか?」
「もちろんよ」
ガサゴソとしながら袋を開け、中身を取り出してみる。
「マフラー?」
「そっ」
「でもこれって……」
なんとなくだけど、既成品じゃないような気がする。
見た目とか肌触りとか……。
「あ、わかった……? それ、手編みなの……」
「やっぱり……」
麗は少しもじもじと照れながら恥ずかしそうに言う。
一体いつの間に作ったというのだろうか。
こんなの、時間を掛けないと難しいんじゃ……。
「ありがとう……! めちゃくちゃ嬉しいよ!」
「ほんと……?」
「いやもう最高っす……」
心のこもった最高の贈り物だった。
これがあれば冬も暖かい……。
しっかしさすが麗。
ほつれなどもなく、完璧な作りだ。
「作るのうますぎだろ……」
「ふふっありがとっ。貸して?」
そう言うと、麗は俺の首元にマフラーを優しく巻いてくれる。
「あったかいな……」
「よかった」
そうして麗は優しく微笑んでくれる。
俺は、せっかくしてもらったが、マフラーを半分自分の首元から外した。
麗は何をしたいのかわからないという表情をしている。
そんな麗の首元に、俺はマフラーの半分を優しく巻いてあげた。
「わっ……」
「さ、行こう」
「なんかずるいわ……」
「はっはっは! なんとでも言うがいいさ!」
「ちっ」
「ねぇ? 舌打ちはなしじゃないですか? ねぇねぇ」
不機嫌そうな振りをしつつ微笑む麗と一緒に、イルミネーションが彩る街を歩いていく。
そんなやり取りをしながらも、手はしっかり繋がれている。
今度は最初から指を絡めるように。
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