第17話 「ごちそうさまでした……」 とんでもないスピードだ。
それからしばらく、昼間は学校、放課後はバイトということを繰り返し、土日もほとんどバイトに捧げて月曜日になった。
今日も
電車の中には
「あんたはそわそわしなくていいでしょ」
「そりゃそうだけどなんか緊張してる人見ると緊張するじゃん?」
今日は期末テストの上位者のリストが掲載される日なのだ。
テスト結果は先週、続々と返ってきて結果はわかった。
俺は前よりも断然良い成績を取ることができた。
これも麗と琴羽のおかげだ。
ただ、順位まではまだわからないのだ。
「ららちゃんは今回も載ってそうだよね! 点数すごかったし!」
「麗って頭よかったんだなって実感するよ」
「バカにしてんの?」
「滅相もございません」
とても尊敬しております。
「というか、そういうことちゃんだって今回いつもよりよかったんでしょ?」
「そうだけど、載るほどじゃないと思うなぁ……」
琴羽も勉強会の成果なのか、成績がよくなっていた。
もともと俺よりもよかったのに、さらに離されてしまった。
なんだか悲しい。
「教える方も勉強になるって本当なんだな」
「ららちゃんが教えてくれたからだよ」
「俺が数学教えたことも忘れないでくれよ!?」
「大丈夫よ。それはあたしも感謝してる」
三人の中で俺が一番数学の点数がよかったものの、麗とは三点差。琴羽とは五点差の九十八点でもともとの頭のレベル差を感じた。
なんだかなぁ……。
「とりあえず、
「二人とも、次回もよろしくお願いします」
「任されたわ」「任された~」
外はすっかり寒くなりながらも、雪はまだ降っていない。
クリスマスの頃には降るという話なので、今年はきっとホワイトクリスマスになるだろう。
「昼に貼り出されるんだよね~」
「それまでずっと緊張してるなんて大変よね」
「特に一位の人とかね!」
「プレッシャーがすごそうよね……」
一位をキープとか考えただけでも震えてくる。
俺にはそんなことできない……。
「でも麗、自分で言ってたよな? 妹に示しがつかないから成績はキープするって」
「そうよ。でも順位はあんまり気にしてないのよ。いい成績ならそれで進学とかには問題ないし」
「たしかになぁ」
点数が前回と変わらなくても、周りは当然変わる。
それによって順位が上がったり下がったりも当然するわけだ。
だったら成績維持というだけで、順位維持まではしなくていい。
「でも、順位キープしようとすれば自然と成績上がりそうだけどな」
「わからないわよ? 難しい問題ならいい点取らなくても周りが点数下がるし」
「それで悪い点数でも思ったより順位がよかったりとかあるもんね~」
「そっかぁ」
それならやっぱり成績維持って考えてた方がいいんだな。
「じゃ、昼はみんなで行くか」
「そうね。
「なら
「どうせみんな見に行くだろうしな」
千垣には昨日連絡したら、学校にはいたそうだ。
別に風邪でもなんでもないから心配しなくていいとのこと。
なんか用があったのだろう。
下駄箱で靴を履き替え、教室に向かう。
すでにほとんどの生徒が集まっており、やはり中には緊張をしているだろう生徒がいた。
その雰囲気にあてられている人もきっといる。
「すごい緊張感だね~」
「ま、そういうやつらもいるってことだな」
俺たちはそれぞれ席に着き、教科書を机にいれたりする。
そうしているうちにチャイムがなり、ホームルームが始まった。
明後日はもう終業式。
そこからは、あまり長くはない冬休みが待っている。
クリスマスに正月。イベントが盛りだくさんな休みだ。
俺はそちらの方にも緊張しながら、先生の話を聞いた。
※※※
昼休みになると、みんなそわそわし始めた。
ご飯が喉を通らない人も中にはいるようで、ご飯を食べずに時間が来るのを待っている人もいた。
昼休みになってから約三十分後に順位上位の者が貼り出される。
それまではまだ緊張の時間は続くというわけだ。
「う~ん! やっぱりおいし~!」
「ことちゃんのハンバーグなんでこんなにおいしいの……?」
しかしながら俺たちはいつもの……いや、いつもとは少し違う昼休みを過ごしていた。
相変わらずおかず交換会が繰り広げられているが、今回は少し違う点がある。
「紗夜ちゃんもことちゃんのハンバーグ食べてみたら?」
「いただきます……」
「どうぞどうぞ~!」
「奏、卵焼き食べる?」
「え、麗ちゃんいいの?」
そう。
今日は
いや、それだけでもない。
「いいなぁ康太。俺たちもやるか?」
「やめろよ気持ち悪い」
「ひでぇな」
苦笑しながら
そう、祐介も一緒なのだ。
学校でこんなに大勢で昼食を食べるなんて初めてかもしれない。
家とは違う賑やかさで、やはりこれも楽しい。
「ねぇねぇ祐介、すごいよ麗ちゃんの卵焼き……!」
「お、そんなにうまいのか?」
祐介がチラリと麗の弁当箱を見る。
しかし、すぐさま俺が割って入った。
「俺の方のをやるよ。こっちも麗お手製弁当だからな」
「お、おう……」
麗のところから祐介のところにいくのは嫌だったので俺の方から取ってもらう。
麗は呆れたような顔をしながらも少し嬉しそうにしていた。
そして、自分のところの卵焼きをこっそり俺の弁当の中に入れた。
驚いて麗を見ると、麗はウインクをしてきた。
か、かわいい……。
「卵焼きじゃないところに砂糖使いすぎじゃないかな……」
「紗夜ちゃん、どうかした?」
「なんでもない……」
千垣と琴羽が何か話しているが気にしない気にしない。
「そういえば祐介の弁当は姫川さんお手製なのか?」
「そうなんだよ。これがうまくてなぁ……」
「みんなありがとうね。最近は自分でなんとかできるようになってきたんだ」
「たしかにこんなの教えてないものね……」
麗がそう言うので少し覗かせてもらうと、たしかに教えてないものが入っている。
どれもおいしそうにできていて、なんだか感動で涙が出そうだ。
しかし、チラッと見えた姫川さんの指には絆創膏が貼ってあった。
頑張ってるんだなぁ……。
「ごちそうさまでした……」
「はやっ!」
そうこうしている間に、千垣は重箱のようなでかい弁当を平らげたらしい。
わかってはいたが、こうして身近で見てみるととんでもないスピードだな。
「ホント早いよねぇ……見ててびっくりしちゃった……」
「いや、食べ進めろよ」
琴羽は全然食べ進められていないようだ。
そろそろ順位が掲載されるってのに……。
「あ、放送が……」
『ただいま、生徒玄関の掲示板に上位者の順位を掲載しました。確認したい方は生徒玄関までお願いします。また、今回は――』
まだ千垣以外食べ終わっていないが、もう掲載されてしまったようだ。
今回は前回よりも早いな。
「早く食べて行きましょう」
「そうだな」
「え、ま、待ってぇ~!」
琴羽が食べ終わるまで待ってから俺たちは生徒玄関に向かった。
※※※
「なぁ麗、見えるか?」
「こんなんで見えるわけないでしょ」
「だよなぁ」
すごい人数だった。
遠すぎて見えないとかではなく、人が多すぎて邪魔で見えない。
「これは落ち着くまで待つしかねぇなぁ」
「そうだね」
祐介と姫川さんのカップルは早々に諦めたようで、下駄箱の側面に当たる部分に寄りかかった。
千垣も黙って離れていく。
「ま、これなら仕方ないか……」
「あたしたちもどっかで待つ?」
「そうするか」
俺と麗と琴羽も少し移動をする。
琴羽は千垣のところに行ってしまったが……。
それにしても、ここには上位者の順位しか載らないのだが、なんでこんなに人が集まっているのだろうか。
さっぱりわからない。
「自分の順位って後で聞くのよね?」
「そうそう。聞いても聞かなくてもいいって感じ」
「そうよね」
自分の順位は後で聞くことができる。
が、聞かなければ知れないことなので、もしかしたら自分の順位を知らないという人も中にはいるのかもしれない。
まぁつまり、上位三十位以内の人以外は自主的に聞きに行かなければ自分の順位を知ることはできないというわけだ。
「あ、あそこから行けそうじゃない?」
「だな。みんなあそこ行けるぞ」
みんなで揃って移動してみる。
端の方なので、うまく見えないかもしれない。
「どうだ千垣、見えるか?」
「なんで私に聞くの……」
「なんか目良さそうだから」
「別に普通だよ……。だいたい、身長的に見えない……」
「なんか、ごめんな」
「気にしてないことだけど、そういうこと言われるとなんかイラっとするね……」
身長とかいろいろ気にする人多いと思ってたんだけど違うのか。
……胸とかも。
「ららちゃん見える?」
「角度的に見えないわね……」
琴羽と麗も見えていないらしい。
「祐介たちは?」
「見えないな」
「見えないね」
もちろん俺も見えない。
だいたい、ほぼ真横からで見えるわけなんてない。
「ていうかホント、なんでこんなに人いるのよ」
「それなぁ」
理由がまったく思い当たらない。
今回はここで順位を聞くとかそういうことなのか?
「あ、動いたよっ!」
「琴羽、先に進んでくれ」
「了解!」
琴羽に続いてみんなで移動していく。
ようやく見えるようになった。
「あ、先生がいるな」
「紙を渡してるわね」
「順位聞いてんだな」
「ホントだねぇ」
女子の中では背の高い麗と琴羽にも見えたようだ。
姫川さんは一生懸命背伸びをして見ようとしていてなんかかわいい。
千垣に関してはもう諦めてむすっとしている。
「わ! 十八位になってる……!」
「うそっ! 私も二十八番で載ってる……!」
上位者の掲示が見えるようになると、麗と琴羽が口々に言った。
俺も見てみると、たしかに麗が十八位。琴羽が二十八位で載っている。
「わたしはちょっと下がっちゃったなぁ……」
「俺はまだ載れないかぁ……」
そう言う姫川さんだが、二十五位で載っているのだ。
前回はもう少しよかったんだな……。
祐介は残念ながら載っていない。
姫川さんと付き合い始めてから猛勉強しているようなのだが、まだここに載るまでには至らないようだ。
「千垣は前載ってたのか?」
「いいや……。私は三十番代をうろうろしてるから載りはしないと思っていたよ……」
俺の言い方で察したのだろう。
千垣の名前は掲示に載っていなかった。
自分でもそう思っていたらしい。
だんだんと人がいなくなってきて、先生の下に辿り着けるようになったので、順位が書いてある紙をもらう。
聞けば、放送で自分の順位もここで確認できると言っていたらしい。
まったく聞いてなかった。
それはともかく、俺はもらった紙を恐る恐る開いていく。
前回九十番代だった順位が、なんと五十六位にまで上がっている。
今回のテストが中間なしで難しめだったことも影響しているのだろうか。
俺は思わずガッツポーズをしていた。
「順位上がったのね」
「ああ。麗と琴羽のおかげだよ。ありがとう」
「私からもありがとうだよっ! 康ちゃんとららちゃんのおかげで順位上がったし!」
「それを言うならあたしもだけどね」
俺たちは微笑み合った。
みんな嬉しい気持ちが滲み出ている。
「じゃあやっぱり打ち上げだな」
「いいわよ。もっと豪勢にいきましょう」
「そうだね!」
より一層クリスマスパーティーが楽しみになった。
新年もいい気分で迎えることができる。
「じゃ、張り切って行きますか!」
「「おー!」」
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