ふぃゅしゅ数バージョン1

 「ふぃゅしゅ数バージョン1」は、2002年に、『巨大数論』の著者であるふぃっしゅっしゅによって定義されました。巨大な数を作るすることを目的として定義された、日本の巨大数研究の記念碑的な巨大数です。ピクシブ百科事典によると、この「ふぃっしゅ数バージョン1」は、小林銅蟲先生の漫画『寿司虚空編』や、青土社の現代思想12月号『巨大数の世界』といった一般書籍に登場する稀有な巨大数でもあるそうです。


 ■SS変換


 「ふぃゅしゅ数バージョン1」は、自然数の「3」と関数「n+1」を初期設定として、そこから「SS変換」を63回くり返した数であると定義されています。この「SS変換」の中身は「S変換」と「S2変換」です。


 【SS変換】 「S変換」と「S2変換」

 【S変換】 主となる巨大関数。

 【S2変換】 主となる「S変換」を何回行うかを決める関数。


 S変換は「アッカーマン関数」の拡張です。なので、まずは「アッカーマン関数」について知る必要がありそうです。


 ■アッカーマン関数


 【アッカーマン関数】


 01: Ack(0,n) = n+1

 02: Ack(m,0) = Ack(m-1,1)

 03: Ack(m,n) = Ack(m-1,Ack(m,n-1))


 実は、このアッカーマン関数は、巨大数論においては「クヌースのタワー表記」と同じ強さを持つ関数です。以下のような対応が知られています。


 ・Ack(0,n) = n+1

 ・Ack(1,n) = n+2

 ・Ack(2,n) = 2n+3

 ・Ack(3,n) = 2ⁿ⁺³-3

 ・Ack(4,n) = (2↑↑n+3)-3

 ・Ack(5,n) = (2↑↑↑n+3)-3

 ・Ack(6,n) = (2↑↑↑↑n+3)-3

  :

 ・Ack(m,n) = (2↑...m-2本...↑n+3)-3


 「クヌースのタワー表記」では「指数関数が積み重なるとテトレーション」になり「テトレーションが積み重なるとペンテーション」になり、矢印が増るごとに数の増大率がインフレしたことを思い出してください。この「指数関数」や「テトレーション」といった演算の強さの違いを「演算のレベルの違いである」と呼ぶことにします。そして「あるレベルの演算が連続するとレベルが上がる」という構造がそこにはあります。アッカーマン関数もこの構造をもちます。「クヌースのタワー表記」との違いは──


 ・最も低いレベルの演算をどう設定するか?

 ・どう連続させるか?


 ──の違いと言えます。


 アッカーマン関数では、「Ack(0,n) = n+1」の数式で、最も低いレベルの演算を「n+1」と設定しています。アッカーマン関数の「m」の値は「クヌースのタワー表記」の「矢印の本数」に相当します。そして「Ack(m,0) = Ack(m-1,1)」と「Ack(m,n) = Ack(m-1,Ack(m,n-1))」の数式は、「任意のレベルの演算」を「最も低いレベルの演算」に変換するための数式です。このアッカーマン関数と「グラハム数」とを比較すると以下のようになります。


 ・Ack(3,3) =61

 ・Ack(Ack(3,3),Ack(3,3)) > G¹(4)

 ・Ack(Ack(Ack(3,3),Ack(3,3)),Ack(Ack(3,3),Ack(3,3))) > G²(4)

  :


 つまりAck(3,3)を64回合成すると「グラハム数」を超えることになりそうです。このアッカーマン関数を基にして、「ふぃっしゅ数バージョン1」は以下のように定義されています。


 ■ふぃゅしゅ数バージョン1の定義


 【ふぃっしゅ数バージョン1】


 01: B(0,n) = ƒ(x)

 02: B(m,0) = B(m-1,1)

 03: B(m,n) = B(m-1,B(m,n-1))

 04: g(x) = B(x,x)

 05: S:[m, ƒ(x)] → [g(m), g(x)]

 06: S2 = Sᶠ⁽ᵐ⁾:[m, ƒ(x)] → [n, g(x)]

 07: SS:[m, ƒ(x),S] → [n, g(x),S2]

 08: SS⁶³:[3,x+1,S] → [F₁,●,●]


 非常に難しい数式で、著者も頭がくらくらしますが、ひとつづつ読み解いてみましょう。まず、数学記号の基礎を把握しておきます──


 ・ƒ: S → T


 ──という表記は「ƒは S から T への写像である」という意味らしい。「写像」という言葉が難しいです。


 08: SS⁶³:[3,x+1,S] → [F₁,●,●] 


 ──「SS⁶³」は、「3」と「x+1」と「S」からF₁(ふぃっしゅ数バージョン1)への写像であると書かれています。この「SS⁶³」とは「SS変換を63回くり返す」という意味です。指数表記ではありません。


 07: SS:[m, ƒ(x),S] → [n, g(x),S2]


 ──「SS」は、自然数「m」と関数「x+1」と「S」から、巨大数「n」と巨大関数「g(x)」と「S2」への写像であると書かれています。この「SS」が「SS変換」です。


 06: S2 = Sᶠ⁽ᵐ⁾:[m, ƒ(x)] → [n, g(x)]


 ──「S2」は、自然数「m」と関数「ƒ(x)」から、巨大数「n」と巨大関数「g(x)」への写像である「S」を「ƒ(m)」回くり返したものであると書かれてあります。この「S2」つまり「Sᶠ⁽ᵐ⁾」が「S変換」を行う回数です。例えば、自然数「m」が「3」で、関数「 ƒ(x)」が「x+1」であれば、「Sᶠ⁽ᵐ⁾ = Sˣ⁺¹ = S³⁺¹ = S⁴」となって、4回ですね。少しわかりにくいですが、「1回目のSS変換」における「S⁴」を「T」と置いたとき、「2回目SS変換」では「Sᶠ⁽ᵐ⁾ 」が「Tᶠ⁽ᵐ⁾ 」となります。つまり「Sをn回行う」が「S⁴をn回行う」のように強力になっていく仕様です。


 05: S:[m, ƒ(x)]→[g(m), g(x)]


 ──「S」は、自然数「m」と関数「ƒ(x)」から、巨大数「g(m)」と巨大関数「g(x)」への写像であると書かれています。この「S」が「S変換」です。「S変換」は、「自然数」と「関数」から、「巨大数」と「巨大関数」への変換器というわけです。


 01: B(0,n) = ƒ(x)

 02: B(m,0) = B(m-1,1)

 03: B(m,n) = B(m-1,B(m,n-1))

 04: g(x) = B(x,x)


 この「S変換」はアッカーマン関数の拡張になっています。まず、レベル0の演算の定義が変更されしていますね。そしてƒ(x)の写像であるg(x) がB(x,x)であると記されています。このS変換の構造を明瞭にするため、表記を以下のようにアレンジします(このアレンジは著者によるものです)。


 00: B₀(0,n) = ƒ(x)

 01: Bₐ(0,n) = Bₐ₋₁(n,n)

 02: Bₐ(m,0) = Bₐ(m-1,1)

 03: Bₐ(m,n) = Bₐ(m-1,Bₐ(m,n-1))

 04: g(x) = Bₐ(x,x)


 では、具体的な数を入れてS変換の実体を追ってみましょう。


 ■SS¹ SS変換1回目

 SS¹:[3,x+1,S] → [n, g(x),S2]

 

 ■S2

 S2 = S³⁺¹ = S⁴


 ■S¹ S変換1回目

 3 ⟼B₀ B₀(3,3)

 n+1 B₀ B₀(x,x)


 ■S² S変換2回目

 B₀(3,3) B₁ B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))

 B₀(x,x) B₁ B₁(x,x)


 ■S³ S変換3回目

 B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)) B₂ B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)))

 B₁(x,x) B₂ B₂(x,x)


 ■S⁴ S変換4回目

 B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) B₃ B³(B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) ,B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))))

 B₂(x,x) B₃ B₃(x,x)


 ■SS¹ SS変換1回目完了

 SS¹:[3,x+1,S] → [B³(B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) ,B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)))),B₃(x,x),S⁴]


 SS変換の1回目においては、

 自然数の「3」から巨大数の「B³(B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) ,B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))))」が、

 関数の「x+1」から巨大関数の「B₃(x,x)」が、

 写像の「S」から写像の「S⁴」が生成されました。

 SS変換の2回目においては、この生成物を初期値として使います。


 ■SS² SS変換2回目

 SS²:[B³(B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) ,B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)))),B₃(x,x),S⁴] → [n, g(x),S2]


 ※以下、上付き文字「S⁴」を「S^4」のように表記します。


 ■S2

 S2 = {S^4}^B₃(B³(B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) ,B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)))),B³(B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) ,B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)))))


 SS変換2回目にして、途方もない回数のS変換を行うことになりそうです。しかし、それで終わりではありません。「ふぃゅしゅ数バージョン1」は、自然数の「3」と関数「n+1」を初期設定として、そこから「SS変換」を63回くり返した数であると定義されています。「グラハム数」の大きさを想像しようとしたとき、テトレーションやペンテーションの構造を理解することが大切でした。その経験から、S変換1回目のB₁(x,x)と、S変換2回目のB₂(x,x)の構造について紐解いてみたいと思います。


 ■B₁(x,x)の強さ


 B₀(x,x) はアッカーマン関数と同じですが、S変換1回目で生成されるB₁(x,x)という関数はどのような強さを持つのでしょうか? 出来る範囲で計算をしてみます。


 B₁(0,1)=

 B₀(1,1)= 3


 B₁(0,2)=

 B₀(2,2)= 7


 B₁(0,3)=

 B₀(3,3)= 61


 B₁(0,n)はAck(n,n)に相当するようです。


 B₁(1,1)=

 B₁(0,B₁(1,0))=

 B₁(0,B₁(0,1))=

 B₁(0,B₀(1,1))=

 B₁(0,3)=

 B₀(3,3)= 61


 B₁(1,2)=

 B₁(0,B₁(1,1))=

 B₁(0,B₁(0,B₁(1,0)))=

 B₁(0,B₁(0,B₁(0,1)))=

 B₁(0,B₁(0,B₀(1,1)))=

 B₁(0,B₁(0,3))=

 B₁(0,B₀(3,3))=

 B₁(0,61)=

 B₀(61,61)


 B₁(1,3)=

 B₁(0,B₁(1,2))=

 B₁(0,B₀(61,61))=

 B₀(B₀(61,61),B₀(61,61))


 B₁(1,4)=

 B₁(0,B₁(1,3))=

 B₁(0,B₀(B₀(61,61),B₀(61,61)))=

 B₀(B₀(B₀(61,61),B₀(61,61)),B₀(B₀(61,61),B₀(61,61)))


 どうもこの様子だと‥


 ・B₁(1,1) =61

 ・B₁(1,2)> G¹(4)

 ・B₁(1,3)> G²(4)

 :

 ・B₁(1,65)> G⁶⁴(4)


 となってB₁(1,65)でグラハム数を超えそうです。B₁(1,n)はグラハム関数Gⁿ(4)に相当するようです。


 B₁(2,1)=

 B₁(1,B₁(2,0))=

 B₁(1,B₁(1,1))=

 B₁(1,61)


 B₁(2,2)=

 B₁(1,B₁(2,1))=

 B₁(1,B₁(1,61))


 B₁(2,3)=

 B₁(1,B₁(2,2))=

 B₁(1,B₁(1,B₁(1,61)))


 B₁(2,n)はグラハム関数のGⁿ(4)の「n」にGⁿ(4)をn重に合成するような関数のようです。


 B₁(3,1)=

 B₁(2,B₁(3,0))=

 B₁(2,B₁(2,1))=

 B₁(2,B₁(1,61))


 B₁(3,2)=

 B₁(2,B₁(3,1))=

 B₁(2,B₁(2,B₁(1,61)))


 B₁(3,3)=

 B₁(2,B₁(3,2))=

 B₁(2,B₁(2,B₁(2,B₁(1,61))))


 B₁(3,n)は「グラハム関数のGⁿ(4)の「n」にGⁿ(4)をn重に合成するような関数」であるB₁(2,n)の「n」にB₁(2,n)をn重に合成する関数です。この様子からB₁(m,n)の「m」を増やしていくとどうなるかを想像できそうです。では、S変換2回目で生成されるB₂(x,x)という関数はどのような強さを持つのでしょうか? 出来る範囲で計算をしてみます。


 ■B₂(x,x)の強さ


 B₂(0,1) =

 B₁(1,1) = 61


 B₂(0,2) =

 B₁(2,2)


 B₂(0,3) =

 B₁(3,3)


 B₂(0,n)はB₁(n,n)に相当しますね。


 B₂(1,1) =

 B₂(0,B₂(1,0)) =

 B₂(0,B₂(0,1)) =

 B₂(0,61)=

 B₁(61,61)


 B₂(1,2) =

 B₂(0,B₂(1,1)) =

 B₂(0,B₁(61,61))

 B₁(B₁(61,61),B₁(61,61))


 B₂(1,3) =

 B₂(0,B₂(1,2)) =

 B₂(0,B₁(B₁(61,61),B₁(61,61))) =

 B₁(B₁(B₁(61,61),B₁(61,61)),B₁(B₁(61,61),B₁(61,61))) =


 B₂(1,n)はB₁(n,n)の「n」にB₁(n,n)をn重に合成する関数です。


 B₂(2,1) =

 B₂(1,B₂(2,0)) =

 B₂(1,B₂(1,1)) =

 B₂(1,B₁(61,61)) =


 B₂(2,2) =

 B₂(1,B₂(2,1)) =

 B₂(1,B₂(1,B₁(61,61)))


 B₂(2,3) =

 B₂(1,B₂(2,2)) =

 B₂(1,B₂(1,B₂(1,B₁(61,61))))


 B₂(1,n)の「n」がインフレしましたね。S変換、たった2回でこれですから、SS変換2回目は、この関数の強さのインフレが──


 4×B₃(B³(B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) ,B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)))),B³(B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3))) ,B₂(B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)),B₁(B₀(3,3),B₀(3,3)))))回


 ──も起きて、それでまだSS変換は2回目‥ 「ふぃゅしゅ数バージョン1」は、自然数の「3」と関数「n+1」を初期設定として、そこから「SS変換」を63回くり返した数であると定義されています。

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