第1章 巨大数解説

グラハム数

 「グラハム数」は数学者ロナルド=グラハムが、とある数学の研究において提示した解の上限値だそうですが、研究が進むにつれて、ここで解説する大きさよりも、かなり小さく修正されているそうです。しかし“大きな数を世に広めよう”という意図があったかどうかは私には伺い知れませんが、サイエンティフィック・アメリカンという雑誌によって、一般大衆に向けて紹介され、ギネスブックにまで掲載されたそうです。その「グラハム数」を正確に記述するには、「クヌースのタワー表記」という関数を使わなければなりませんが、この「クヌースのタワー表記」の話に進む前に、指数関数について、あらためて触れてみたいと思います。


 ■指数関数


 実は、日常生活で使う十進数も、大きな数を表記することに長けています。例えば、7625597484987個の0をノートに記述するのにどれくらいの時間を必要とするでしょうか? 1年を31536000秒としたとき、1秒に1個の0を書いたとしたら、約241806年もかかることになります。1秒に10個の0を書けたとしても、約24180年もかかることになります。そのような数を、十進数を使えばたったの13文字で表記することが出来てしまいます。その十進数で書くことが少し大変な数に無量大数があります。


「無量大数」


100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000


 指数関数は、無量大数のような十進数の桁数が多くなった数でも数文字で表記することが出来ます。


・無量大数 = 10^68

・直径930億光年の観測可能な宇宙にある原子の数 ≒ 10^80

・直径930億光年の観測可能な宇宙にクォークをびっしり詰め込んだときの数 ≒ 10^134

・直径930億光年の観測可能な宇宙と原子配列が完全に一致する空間があるであろう距離(単位は何でもいい)≒ 10^10^115


 指数関数の凄いところは、指数の桁数が多くなり過ぎても、10^10^115のように、指数に指数を乗せることが出来きるところです。この10^10^115は、十進数での桁数が約10^115桁になる数であり、観測可能な直径930億光年の宇宙にある全ての原子をインクに変えても、十進数では表記することが不可能なほど大きな数です。


 ここで「グラハム数」を理解するうえでポイントのひとつとなる指数関数の特徴を紹介します。


 ・10

 ・10^10

 ・10^10^10

 ・10^10^10^10

  :


 このように、例えば「10に10の指数を重ねる」ことを「10の指数タワー」と呼ぶことがあります。「3に3の指数を重ねる」のであれば「3の指数タワー」ですね。「クヌースのタワー表記」では例えば「10の指数タワー」であれば以下のように表記します。

 

 ・10↑↑1

 ・10↑↑2

 ・10↑↑3

 ・10↑↑4

  :

 

 このとき、指数タワーには以下のような特徴があります。


 ・3↑↑n+1 >  10↑↑n


 当然ながら、3の指数タワーより、10の指数タワーの方が大きくなります。しかし、指数を1回多く積み重ねるだけで、3の指数タワーは10の指数タワーを追い越してしまいます。そして「グラハム数」は、この3の指数を積み重ねることから始まります。


 ■3のテトレーション指数タワー


 ・3↑↑1 = 3

 ・3↑↑2 = 27

 ・3↑↑3 = 7625597484987 

 ・3↑↑4 = 3^7625597484987

 ・3↑↑5 = 3^(3^7625597484987)

  :


 3↑↑4は十進数で約3638334640024桁の数なので、十進数で書くことは物理的にまだ可能です。しかし3↑↑5になると十進数で約10^3638334640024桁の数となって、これは約10^115桁の数である「直径930億光年の観測可能な宇宙と原子配列が完全に一致する空間があるであろう距離」を遥かに超えています。このように、テトレーションは、指数を1段増やすごとに、爆発的に桁数が増えます。


 ・3↑↑1 = 3 【1指数

 ・3↑↑2 = 3^3  【2指数】 

 ・3↑↑3 = 3^3^3 【3指数】 

 ・3↑↑4 = 3^3^3^3  【4指数】 

 ・3↑↑5 = 3^3^3^3^3  【5指数】 

  :

 ・3↑↑7625597484987 = 3^3^3^3^3^... 【7625597484987指数


 そうして「3の指数タワー」ならば「7625597484987段」まで「3」を積み重ねたとき、「クヌースのタワー表記」の矢印を増やすことが出来ます。


 ・3↑↑↑3

 

 ■3のペンテーションテトレーションタワー


 ・3↑↑↑1 = 3

 ・3↑↑↑2 = 3↑↑3

 ・3↑↑↑3 = 3↑↑(3↑↑3)

 ・3↑↑↑4 = 3↑↑(3↑↑(3↑↑3))

 ・3↑↑↑5 = 3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑3)))

  :


 ここからの爆発力は今までとは次元が異なります。テトレーションの演算では、「3↑↑n」の「n」の値を1増やすごとに、十進数の桁数が爆発的に増大しましたが、ペンテーションの演算では、「3↑↑↑n」の「n」の値を1増やすごとに、指数タワーの段数が爆発的に増大します。


 ここで「3↑↑↑4」の大きさについて考えみます。

 

 ・無量大数^無量大数^無量大数^無量大数^... 【無量大数指数


 ・3^3^3^3... 【3↑↑↑3指数


 この二つはどちらが大きいでしょうか。無量大数は「3^3^3^3」よりも圧倒的に小さいですから‥


 ・(3^3^3^3)^(3^3^3^3)^(3^3^3^3)^... 【3^3^3^3指数


 このような数の方が「無量大数の無量大数段の指数タワー」より大きいことがわかります。これが「3↑↑↑4」になると、指数タワーの段数の次元が違います。


 ・(3^3^3^3)^(3^3^3^3)^(3^3^3^3)^... 【(3↑↑↑3)÷4指数


 3↑↑↑4の「3↑↑↑3段」の指数タワーの段数を高々「4」で割っても「約3↑↑↑3段」とびくともしません。ちなみに「3^3^3^3」を「(3^3)^(3^3)」のように変形すると小さくなるという性質もありますが、その性質がないとしても、圧倒的に「無量大数の無量大数段の指数タワー」より「3↑↑↑4」の方が大きくなります。


 ・不可説不可説転^不可説不可説転^不可説不可説転^... 【不可説不可説転指数


 ・3^3^3^3... 【3↑↑↑3段指数】


 この二つではどちらが大きいでしょうか。不可説不可説転は「3^3^3^3」よりも大きいですが、しかし「3^3^3^3^3」と比べると極めて小さいです‥


 ・不可説不可説転 ≒ 10^(3.7×10^37)

 ・3^3^3^3^3 ≒10^(10^3638334640024)


 つまり‥


 ・(3^3^3^3^3)^(3^3^3^3^3)^(3^3^3^3^3)^... 【3^3^3^3^3指数


 このような数の方が「不可説不可説転の不可説不可説転段の指数タワー」より大きいことがわかります。ということは‥


 ・(3^3^3^3^3)^(3^3^3^3^3)^(3^3^3^3^3)^... 【(3↑↑↑3)÷5指数

 

 となって、3↑↑↑4の「3↑↑↑3段」の指数タワーの段数にとっては、高々「4」か「5」で割るか程度の違いでしか無さそうです。


 ・3↑↑↑1 = 3  【1指数

 ・3↑↑↑2 = 3^3^3  【3指数

 ・3↑↑↑3 = 3^3^3^3^3^... 【7625597484987指数

 ・3↑↑↑4 = 3^3^3^3^3^... 【3↑↑↑3指数

 ・3↑↑↑5 = 3^3^3^3^3^... 【3↑↑↑4指数

  :

 ・3↑↑↑(3↑↑↑3) = 3^3^3^3^3^... 【 3↑↑↑((3↑↑↑3)-1)指数


 ・3↑↑↑1 = 3  【1テトレーション

 ・3↑↑↑2 = 3↑↑3 【2テトレーション

 ・3↑↑↑3 = 3↑↑(3↑↑3) 【3テトレーション

 ・3↑↑↑4 = 3↑↑(3↑↑(3↑↑3)) 【4テトレーション

 ・3↑↑↑5 = 3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑3))) 【5テトレーション

  :

 ・3↑↑↑(3↑↑↑3) = 3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑... 【3↑↑↑3テトレーション


 そうして「3のテトレーションタワー」ならば「3↑↑↑3段」まで「3」を積み重ねたとき、「クヌースのタワー表記」の矢印を増やすことが出来ます。


 ・3↑↑↑↑3


 ■3のヘキセーションペンテーションタワー


 ・3↑↑↑↑1 = 3

 ・3↑↑↑↑2 = 3↑↑↑3

 ・3↑↑↑↑3 = 3↑↑↑(3↑↑↑3)

 ・3↑↑↑↑4 = 3↑↑↑(3↑↑↑(3↑↑↑3))

 ・3↑↑↑↑5 = 3↑↑↑(3↑↑↑(3↑↑↑(3↑↑↑3)))

  :


 ・3↑↑↑↑1 = 3

 ・3↑↑↑↑2 = 3↑↑(3↑↑3)

 ・3↑↑↑↑3 = 3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑... 【3↑↑↑3テトレーション

 ・3↑↑↑↑4 = 3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑... 【3↑↑↑↑3テトレーション

 ・3↑↑↑↑5 = 3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑(3↑↑... 【3↑↑↑↑4テトレーション

  :


 ・3↑↑↑↑1 = 3  【1指数

 ・3↑↑↑↑2 = 3^3^3^3^3^... 【7625597484987指数

 ・3↑↑↑↑3 = 3^3^3^3^3^... 【約3↑↑↑↑3 指数

 ・3↑↑↑↑4 = 3^3^3^3^3^... 【約3↑↑↑↑4 指数

 ・3↑↑↑↑5 = 3^3^3^3^3^... 【約3↑↑↑↑5 指数

  :


 この「3↑↑↑↑3」は指数タワーでは「3↑↑↑((3↑↑↑3)-1)段」つまり「約3↑↑↑↑3段」となり、すでに指数タワーでその大きさを考えることは形骸化しています。同様に、矢印をさらに1本増やした「3↑↑↑↑↑3」では、テトレーションタワーでその大きさを考えることも形骸化し、同様の連鎖は永久に続きます。


 ■グラハム数


 グラハム数は「G (n) = 3↑...n本...↑3」としたとき「G⁶⁴ (4)」とされています。しかし「G²(4)」の段階で「クヌースのタワー表記」では物理的に記述が出来なくなってしまいます。ここからはからです。


 ・G¹(4) = 3↑↑↑↑3

 ・G²(4) = 3↑...G¹(4)本...↑3

 ・G³(4) = 3↑...G²(4)本...↑3

  :

 ・G⁶⁴(4) = 3↑...G⁶³(4)本...↑3 = グラハム数


 そこで「クヌースのタワー表記」の拡張表記である「コンウェイのチェーン表記」を使います。3変数に限定したコンウェイのチェーン表記ならばグラハム数を正確に記述できます。


 ・G¹(4) = 3→3→4

 ・G²(4) = 3→3→(3→3→4)

 ・G³(4) = 3→3→(3→3→(3→3→4))

  :

 ・G⁶⁴(4) =

   3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→

  (3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→

  (3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→

  (3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→

  (3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→

  (3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→(3→3→

  (3→3→(3→3→(3→3→(3→3→4)...) = グラハム数


 ■グラハム数を超えて


 このグラハム数よりも大きな数を考えようとしたとき、どのような方法が思いつくでしょうか。まず思いつくのは、以下のような拡張ではないでしょうか?


 ・H(1) = G⁶⁴(4)

 ・H(2) = Gᴴ⁽¹⁾(4)

 ・H(3) = Gᴴ⁽²⁾(4)

  :

 ・H(n) = Gᴴ⁽ⁿ⁻¹⁾(4)


 この拡張は急増加関数で以下のように評価できると思います。順序数の基本列はワイナー階層を使います。


 ・クヌースのタワー表記 3↑...n...↑3 = f ω (n)

 ・グラハム関数 Gⁿ(4) = f ω+1 (n)

 ・グラハム関数の拡張 Gᴴ⁽ⁿ⁾(4) = f ω+2 (n)


 このような拡張をしても「クヌースのタワー表記」と比較して、順序数にして「+2」ほどの強さしかありません。

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