出席番号6番 河合ヨシト

「はい、集合!」

 部員はたったの7名。僕は、卓球部のキャプテンだ。

「なに張り切ってんだよ」

 ノブが、小声でからかってきた。久しぶりの新入部員だ。力が入って何が悪い。

「じゃ、今日の練習は…」

 その時、僕は手を滑らせてボールの入った箱を落としてしまった。彼女は、微笑み、転がったボールを拾い上げると、僕に手渡しする。

「どうぞ」

 その笑顔は、天使だった。見とれていると、ノブがお腹にパンチをしてきた。

 つい最近、入部してきた1年生の高岡さん。高岡さんは、1か月前、友達に連れられて見学しにきた。それから少しした後、「マネージャー希望で」と、恥ずかしそうに体育館を一人で訪れた。「友達は?」と聞くと、バスケ部のマネージャーになったという。

 高岡さんは、唯一の女性部員だ。しかも、可愛い。色白で、大人しく、失敗をするとすぐに頬が赤くなる。僕らをバカにする化粧で誤魔化している女子たちとは違う。


「お前、あぁいうの好きだよな」

 二階を見上げると、同じクラスの瀬戸君がいた。瀬戸君は、ふらふらと時々こうやって茶化しにくる。

「お前はいいなぁ、一生懸命で」

 瀬戸君が手招きする。二階に上がると、瀬戸君がチュッパチャップスを手渡してくれた。瀬戸君とは全然タイプが違うけれど、何だか馬が合うような気がしている。

「お、ナイスシュート!」

 シュートを決めたのは、飯野川君だ。飯野川君は、カッコいい。僕なんかより背が高いし、何より華がある。僕も生まれ変わるなら、ああいう体型に生まれたかった。

 体育館は3つに区切られていて、バレー部とバスケ部、そして残りを新体操部と卓球部が使用している。いつしか3分の2は新体操部に占領され、僕たちの卓球部の練習場所は、日に日に端に追いやられている。キャプテンだから、一言文句でも言ってやればいいのだが、部員も僕も争い事は嫌いだ。なんだか、この体育館の構図がこれから生きていく世界を表しているような気がして、時々うんざりすることもあるが、今はあまり気にしないようにしている。


「河合先輩!」

「ほら、お前の天使が呼んでるぞ」

 茶化す瀬戸君を睨み付け、僕は下に降りていく。

 瀬戸君が言う。

「あぁいう子には気を付けろ」

 その意味が、僕にはまだよくわからない。卓球部にマネージャーが入ったのは何年ぶりのことだろう。

「ね、どうして卓球部のマネージャーになったの?」

「私は、先輩がキャプテンだからこの部に入ろうと思ったんです」

 うれしいことを言うじゃないか。

「ヨシト先輩、ほら、時間」

 高岡さんは二人きりの時だけ、ヨシト先輩と呼ぶ。もしかしたら、高岡さんは僕のこと……。「勘違いするな、後で痛い目みるぞ」と、瀬戸君に、そう茶化されるだろうか。それでも、頬を赤くしている彼女を見ると、それでもいいと思っている。

「よし、練習始めようか」

 高岡さんは、天使の笑顔で頷いた。

 僕は、今が一番幸せかもしれない。 

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