出席番号7番 紀野 カエデ
私はずっと、言えないでいる。
腕についた傷は、ミズキのせいではないということ。
あの日、私はミズキの背中を追いかけた。ミズキは、うんざりした顔で私に「すぐ戻るから」と言った。それから、いくら待っても、ミズキは帰ってこなかった。私はその時、悟った。自分は、ミズキのお荷物だということを。
私は駆け出した。ミズキがもう、二度と戻ってこないような気がして。でも、見つからなかった。
川辺に立ち尽くしていると、水面に映る虹が見えた。手を伸ばせば触れることができるほど、それは近くに見え、私は、ミズキのことなど忘れて、ゆっくりと手を伸ばした。虹はとても綺麗だった。幼い頃、コップに反射して出来た光にも似たその輝きは、私の心を奪っていった。
虹を掴みそうになった瞬間、私は何かに躓き、大きく尻餅をついた。その時、腕に激痛が走った。落ちていた割れた瓶の欠片で腕を切り、私はその場で動けずに泣き続けた。
しばらくすると、大人たちが集まり、救急車がよばれ、私は病院に運ばれた。
忙しくしている両親も、この日だけは二人そろって病院に駆けつけた。
沢山の質問。頭の中は、真っ白だった。咄嗟についた嘘。「発作が出て、転んでしまった」と。
ミズキは、青白い顔をして私を見つめている。何度も泣きながら謝るミズキに、私は本当のことが言えなくなっていった。
それから、ミズキはずっと私の隣にいる。私の横で、うん、うん、と優しい笑顔で。
ずっとミズキといたい。その願いは、あの日から現実になった。
でも、虹を見ると、時々苦しくなる。あの時についた嘘が、ミズキを縛り付けているのかもしれない。私はあの日から、何も知らない顔をして、笑い返すことしか出来ないでいた。
一人にはなりたくない。
ミズキは、孤独だった私への神様からのプレゼントなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます