出席番号18番 槻田ミツキ

 青色、ミルクティー、コマドリにシロツメクサ…、カエデが好きなもの。僕は、カエデのことは何でも知っているつもりだ。最近、肩まで髪を切ってかけたパーマが気に食わなくて、いつも鏡を見つめている。似合っているよ、と声をかけても、カエデはあまりうれしそうに笑わない。


 ほら、今日も周りの空気に飲まれそうになって目が泳いでしまっている。カエデは、集団があまり得意じゃない。小さい頃から体が弱く、発作が起きて入退院を繰り返していたせいか、"クラス"というものに馴染めないでいる。


 手招きすると、安心したように微笑んで、僕の横にちょこんと座る。カエデの特等席はいつも僕の隣だ。いつしか、周りも二人でいることに違和感を覚えなくなった。

 

 佐々木さんと牧野さん、この二人はカエデによくしてくれる。最近、マイカに遊びに誘われたと聞いたけれど、僕は佐々木さんたちといるカエデの方が好きだ。


 カエデといることで、僕は女子と会話をすることが多くなった。優しいね、とか、怒らないよね、とか言われている。多分、少女漫画に出てくる相手役のような、そんなキャラに思われているのだろう。


 リュウキに、お前たちはいいよな、と言われた。カエデは、照れて笑っていたけど、僕は少し複雑な気持ちだった。


 カエデは真っ白だ。人を疑わないし、キラキラした瞳でまっすぐに物を見る。手を繋いでおかないと、時々危なっかしい。カエデは、いつまでたっても純粋さを忘れていない。


 カエデの右腕には傷がある。僕がつけた傷だ。僕は、小さい時から大人たちに、カエデのことをよろしく頼むね、と言われてきた。

正直、僕は、それがあまり好きではなかった。皆と同じように、外で走り回りたい。だから、僕は嘘をついた。後ろをついて回るカエデに、すぐ戻るからと置き去りにした。


 その日、カエデは発作を起こして病院に運ばれた。転倒した時に、腕に傷を負って。病院に駆けつけた時、大人たちも、そしてカエデも、誰も僕を責めなかった。

 傷痕が残るかもしれないと聞いたあの日から、僕は、カエデを守ると決めた。


 でも、最近、カエデを見ていると、苦しくなることがある。あの頃に近い感情が現れる。カエデの見ている世界は、きっと今でも真っ白だ。無性に、そんなカエデの世界を壊してしまいたい衝動にかられる。真っ白な世界を壊したら、カエデはどんな顔をするのだろうか。


 今日もまた、カエデは隣で笑っている。微笑み返す僕は、まだ上手く笑えているだろうか。

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