出席番号15番 瀬戸リュウキ

 周りはなんだか騒がしい。カズマとマイカは最近ぎこちないし、ジンは最近、彼女にフラれたらしい。俺は、多分、心の中で、彼らをバカにしている。俺は、人を好きになる感覚がいまいちわからない。そんなことより、いちごミルクを飲んで、ノートの端っこに落書きしている方がマシだ。


「それで?」

「あ、いや。最初は今時、手紙って。で、まぁ、開けたら字もキレイだし。いいかなぁと思ったりもして。でも、なんていうか、それを狙ってきてるんじゃねぇかって思っちゃったら、一気に冷めちゃって、それで」

「瀬戸君は、考えすぎよ」

 メガネの奥の二重瞼を細めて、穏やかな表情で、みうちゃんが笑う。みうちゃんの薬指には、指輪がある。みうちゃんは、先月結婚した。

「これ飲んだら、授業に戻らないと」

「頭痛薬は?」

「熱、なかったでしょ」

 授業をさぼった俺に、なんだかんだでみうちゃんは優しい。みうちゃんは、頭痛薬の代わりに温かいお茶を出してくれた。保健室にくると、ここだけ時間がゆっくりと流れていく。


 放課後になると、周りは部活に恋に忙しい。体育館を覗くと、ジンがバスケに夢中だ。俺には夢中になれるものはない。時々、そんな自分が無性に嫌になることがある。

「お前は、モテるから俺の気持ちはわからない」

 慰めた俺の言葉は、ジンを少しだけ怒らせたようだ。


 目の前を、カエデとミツキが歩いていく。ミツキは、大事な宝物を壊さないように、頭一つ分小さいカエデの話を、うん、うんと、聞いている。良くもまぁ、飽きもせず5年も付き合えるものだ。

「あ、リュウキ君。またフッたんだって。泣いてたよ」

 やっぱりあの子も、他と一緒で口が軽かったようだ。

「お前らはいいよなぁ」

「え?」

「……いや」

 どっちが俺の本心なのか、自分でもよくわからない。


 教室に鞄を取りに戻ると、佐々木さんがいた。アオイに押し付けられた日直の仕事を1人でやっている。毎月のことだ。

「なんで、断らないの?」

「アオイちゃん、塾とか忙しそうだから」

 佐々木さんは、作り笑いをしている。

「嫌われたくないんだ?」

 佐々木さんが、ムッとした顔をして、誤魔化すように笑ったのを、俺は見逃さない。

「佐々木さんも、そんな表情するんだね」

 佐々木さんは、どこかみうちゃんに似ている。その表情は、あの日見たみうちゃんと同じだ。悔しさを隠すような笑顔は、見ていてつらい。

「そんなに辛いなら、別れればいいのに」

 その言葉を聞いて、みうちゃんは、佐々木さんと同じ表情をして、笑顔を作り直した。あんな男と結婚して、みうちゃんは幸せなのだろうか。


 次の日もその次の日も、なぜか佐々木さんは、俺を避けている。目が合っても逸らされ、バッタリ出くわすとあからさまに俯いて。なんだか面倒だ。とても。

 でも、俺はあの日から、佐々木さんばかり見ている。掃除時間でもないのに、落ちているごみを拾って、板書が間に合わない子にはノートを貸して。多分、佐々木さんは、いい子なのだと思う。


 次の日、佐々木さんは文化祭の実行委員を任命された。断ればいいのに。そんなつらそうな笑顔で笑うくらいなら。

「もう一人は?」

 皆、下を向く。佐々木さんは、まだ作り笑いをしたままだ。

「誰かいない?」

 スッと手を上げると、クラスが少しざわついた。でも、一番驚いているのは自分かもしれない。俺は、きっと佐々木さんのことを、もう少し知りたいようだ。

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