出席番号25番 渡辺マイカ

「ごめん」

 スマホに送られた返事は、たった3文字だった。私は今、矢上ショウヤにフラれた。フラれたのは、これで2回目。


 ショウヤとは、中学2年の時に2か月だけ付き合っていた。あの頃のショウヤは、今よりも身長が15センチも低く、あまり目立つ方でもなかった。

 同じ塾に通って、方向が同じというだけで時々一緒に帰っていた。ショウヤとはよく、好きな音楽の話をした。無名の歌い手を見つけては、シェアする。ショウヤの好きな音楽は、私の趣味にあった。


「ね、私たち付き合わない?」

 ちょうどその頃、彼氏と上手くいっていなかった私は、気を遣わずに一緒にいられるショウヤも悪くないと思っていた。橋の上での突然の告白。その時のショウヤは、一瞬、黙って、「いいよ」といった。それから、私が彼氏とよりを戻すまでの間、なんとなく一緒にいた。

 ショウヤは、多分、私をずっと見ていてくれていた。その安心感は私を満足させた。でも、今は違う。あの頃と違って、ショウヤはもう、私を見なくなった。


 インスタを除くと、アオイは出来たばかりの大学生の彼氏と浮かれている。ハルカは、ユウマといい感じだ。ショウヤにフラれたことは、二人には絶対に言えない。相談相手は、決まってカズマだった。


「マジかー。ダメだったか」

 手ごたえがなかったわけじゃない。去年の夏は、二人で花火を見た。ダイキが気を利かせたのか、皆と行くはずだった花火大会は、ショウヤと二人きりだった。

 告白をした橋から見る花火。打ち上げられる花火の音を聞きながら、ショウヤを見つめた。見上げないと、もう視線が合わない。広い肩幅に、喉仏、あの頃よりも大人になったショウヤに、私はどんどん夢中になった。

「ね、私たち付き合わない?」

 花火大会の帰り道、私は勢いで告白した。ショウヤは、一瞬、黙って「ごめん」と言った。


 同じクラスになって、周りの女子達のショウヤを見つめる視線に、また、私の気持ちは止まらなくなった。私は、音楽の話でショウヤに近づいた。

 

 勢いで送ったメッセージ。ショウヤはすぐ、「ごめん」と送り返してきた。


「ショウヤ、好きな子でもいるのかな」

「さぁ、どうだかな」

 それから、カズマは2時間も私の話を黙って聞いてくれた。

 ショウヤは、今でもあの頃と同じ音楽を聞いているのだろうか。私のプレイリストは、あの頃のまま。ずっと消せずにいる。

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