出席番号22番 矢上ショウヤ
「おい、ショウヤ」
「悪い、また明日」
俺は、カズマの呼びかけを振り切って、チャリに乗った。交差点にさしかかったところで、信号が赤になる。スマホを取り出すと、カズマからゆるい犬の怒った顔のスタンプが送られていた。
「ユウマが怒ってるぞ」
「何だこれ、分けわかんねぇ」
何とも言えないそれは、ユウマの怒った顔に似ていた。笑いをこらえながら、最近ダウンロードしたお笑い芸人の謝罪スタンプを送り返すと、隣でOL風の女性が、怪訝な顔をして睨み付けていた。俺は、慌ててスマホをポケットに詰め込んだ。
信号が青になると同時に、横断歩道を渡って一直線に走り出す。
店の前に自転車を止めると、時計は5時ちょうどを指していた。
「セーフ!」
同時に走り込んできたのは、隣のクラスの下川ミズホだった。
「何がセーフだ。早く配達準備しろ」
奥から店長の声がする。「すみません」と頭を下げると、ミズホは小柄な肩を少し上にあげ、俺に目配せして舌を出した。
学校から15分程のところにある小さなピザ屋が、俺とミズホのバイト先だ。通う高校は、申請しないとバイトは許可されない。俺とミズホは、内緒でバイトをしている。先に始めていたのはミズホで、俺が入ってきたのを見つけると、「しゃべったら殺す」と言った。
ロッカーに鞄を入れ、ミズホは急いで更衣室のカーテンを閉める。
「覗かないでよ」
「誰が覗くか、バカ」
すぐに着替え終えたミズホは、ショートカットの黒髪を整えるようにしてキャップを深く被った。
「お先に」
慌てて白シャツに袖を通し、靴を履きかえてミズホの後を追う。
靴箱には、色違いのスニーカーが並んでいる。ミズホは、「真似するな」と言ったが、先に見つけたのは俺の方だ。
厨房の入口に積み重ねられた伝票を手に取り、配達時間を確認する。ミズホは、その横で、俺の分も慣れた手つきでピザを袋に入れていた。
バイクのエンジンをかけると、ミズホが手を上げて合図する。後を追いかけるように、俺もバイクを走らせた。
ミズホは、俺のことをどう思っているのだろう。ミズホの後ろ姿を追いかけながら、いつもそんなことを考えている。外はまだ、風が冷たい。
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