恋模様(2年1組)

利由冴和花

出席番号5番 鹿野山コウタ


「また、隣ね」

 そう声をかけてくれたのは、七島さんだ。七島さんとは、2年連続で同じクラスになった。僕にとって、1か月だけ七島さんの隣に座ることができる時間は、特別なもの。

 

 彼女と初めて出会ったのは、入学式に向かうバスの中だ。眼鏡をかけて、窓から差し込む日差しで微かに茶色に見える長い髪は、しっかりと一つに束ねられていた。彼女は、少し緊張しているように見えた。

 同じバス停で降りて高校に向かう。バス停からは、長い坂道が続く。皆が家族と肩を並べて歩く中、僕と彼女だけが一人で登った。

 

 しばらく経つと、七島さんのことをいつの間にかみんなが、”ハルカ”と呼ぶようになった。それから、七島さんは眼鏡を外してコンタクトになった。肩まで切った髪は、日差しにあたらなくても微かに茶色だった。


 今の彼女は、クラスの真ん中にいる。僕は、入学式からずっと変わらず”七島さん” のままだった。


 チャイムが鳴った。

 僕は、端っこの席から黒板に一直線に進んだ。教室では、また、ユウマと七島さんの笑声がしている。手に取った黒板消しは、真っ白で、煙で僕の眼鏡が少しだけ汚れてしまった。

 

 僕は、右上から数学の方程式を消していく。ちょうど真ん中まできた時に、七島さんの声がした。


「ありがとう」

 横には、もう一つの黒板消しを持った七島さんが笑っていた。


 君は、覚えているだろうか。あの日も、僕にそうやって笑いかけてくれたことを。

 窓の外から見える桜は、今年はもう散り始めている。あの日から、僕は君に恋をしている。きっと、これからもずっと。

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