第31話 恐怖と学び

「やぁ、ティターナぐっすり眠れたかい」






昨晩は痛みと激痛で眠る事さえできない夜を迎えた。


ただ、体を動かさなければ、痛みが軽減できたのはわかった。






「さぁ、始めようか。


お仕置きの時間だよ」






「もう、いいでしょう。


十分、痛いわ。 もう、あなた達には、逆らわない、から」






「そこだよ、そこ」




なんだと言うの?




「まず、私らに対して敬語も使えない。


言葉遣いがなっていないし、貴様、何様のつもりで話しているのだ?




お前らはなんだ?」




そんな。話し方なんて。




「人間です」




「ふん。聞いたかね、ジヒト君」




「はい。聞きました」




また変な笑い方をする




「こいつはまだ我々と対等の人だと言う




身の程をわかっていない、いいか?


お前らは家畜だ、動物以下だよ。わかるかな? 」






家畜?どういう意味なのだろう?




「わからんか? 子供のお前にもわかるように説明してやらなあかん。


それすらもわからない劣った生き物という事だ。


つまり、お前にわかりやすく言うなら、君たちはごみだ


それならわかるだろう?」




ゴミ。ですって。


なんて人の事を見下す人のなのだろう。


貴方と私たちは何も変わらない。


同じ人間から生まれた同じ人よ。




「だから、今日もやらねばならない。


もしかしたらお前ならと、私は信じていたが、やはり、そんなすぐには変わらんのが事実だった


わしも心が痛むよ」






大きな機械のような樽を持ってきた


先っぽにはホースのようなものが付いていた






「後はジヒト君頼んだよ」






「ぇぇ、わかりましたよー」




この人はしゃべる前に笑わないと話せない病気でも持っているのかしら






「行きまーす」




中には水が注がれ、そのホースを口にくわえさせられ、外れないように頭の後ろで間で伸びた革で覆われベルトで固定された。


しゃべることもできず




その水が勢いよく流れ込んでくる。




「これは、辛いよね


大丈夫かい?」










「はぁ、はぁ、お願いします。止めてください」






「言いしゃべり方になってきたじゃないか 


そうだ。そうやって敬意をはらえる様になりなさい」






礼儀なら、お父様やお母様に叩きこまれてきたわ。


でも、どうしてあなた達みたいな人に。




私のその反発的な一瞬の目を見逃さなかったのか




「そうだ。まだ釘が残っているね


いや、取り忘れていたみたいだ。




ジヒト君このごみから釘を抜いてやりなさい」




え?


もういい止めて、傷口に触らないでほしい






「いいです。大丈夫ですから、止めてください」




「そんなえんりょうしなくてもいいよ


抜いてあげるから」




いらない、そんなのいいから近寄らないで




笑いながら、そんな鉄のニッパーみたいなものを持って近寄られても怖いだけだわ






「嫌、お願いです。止めてください」






言ってもジヒトは止めなかった。


私の腕を思いっきり握りしめて、ニッパーのようなもので私の傷口をえぐった。


どうやら食い込んでいてる為はさみで挟みにくいらしい。






それが途轍もなく痛い。




まるで焼いた火鉢を手につき尽きて擦り付けられているような感覚になる。






「あぁぁ、


やっと一本抜けた」




抜かれた時の痛みはそれとはまた違った強烈な痛みと、穴の開いた腕に入る風が冷たかった。






「あ゛ぁ゛ぁ゛っぁ゛、 」






「まだ、一本あるよ~」




そういって、ジヒトは同じように、時間を変えて私の腕から釘をすべて抜いた。




終わった、




「足のも抜いてやりなさい」




「は~い」




こうして私の体からすべての釘が撤去された。






「よし、どうだね。気分良くなっただろう


ジヒト君が君を釘の錆から、君の体を守ってくれたんだよ


お礼を言わないとね」






もう、しゃべる力がない




「まだ、そんな態度か




やりなさい、ジヒト君」






私はしばらく電気を流され続けた




彼らが去っていったのはわかったが、何を話しているのかわからない。


そして私は目を閉じた。








目覚めると場所は変わっていなかった。


相変わらず腕はつられているが、左腕には包帯が捲いてある。








あれはとても苦しかった。


否応なしに水がお腹の中に流れてくる。止めることもできずどんどんと。




息もできず、嗚咽が何度も走る。


何より息ができないほど苦しい事は無い。




そして、終わった後はお腹にぱんぱんに入った水が込み上げて体から出行くから、またしばらく終わるまで呼吸ができない。




もう、止めてほしい。






ジヒトは日を空けると、私に何どもそれを行った。




今日は選別人もいた。




「相変わらず憎みを向ける目だ




しかし、これでお前もだいぶんわかったんじゃないか? 」






わかった。痛いほどわかった。


もう許してほしい。




「そうやって我々を怖がるのも、心の奥底で恨んでいるのもわかるぞ。


だけどな、恨みの矛先を向ける相手が間違っているのでは無いか?」




意識が朦朧と仕掛けている私の顎を持ち上げる






「その憎たらしい目を向ける相手は我々ではない。


お前を陥れてこんな風にしたのは、ミゲルだ。


我々ではなくミゲルこそお前の恨む対象ではないのかな」




…………。




「……はい。」






とても大きな笑い声が響く


「いい子だ。よろしいもう。終わりにしよう。


私の靴を舐めろ」




「……はい。」






気持ちも何もなくなったのか。抵抗感は一度もなく、ただ、これ以上痛い事はされたくなくて、私は従っていた。




自分でも不思議こんな事死んでもできないと思っていたのに。


普通の事の様にすんなりしている。




「ぬはははははは、


もうよい、靴が汚れる。


止めろ


いい子になったなティターナ」




やっと手を下ろしてもらえた。


天井の鎖からてが外れる。


もう、痛みを通り越しているからか、感覚がマヒしだしているからなのか、そんなに手の痛みの感覚が前ほど痛くない。






「とりあえずそいつをお風呂に入れて綺麗にしてやらんとな


メイドを呼んで来い。 」






変な笑い声と共にジヒトが返事をして去っていった。


あの人いつも楽しそうね。




「さて、いい子になった君にご褒美を上げよう」




「ご褒美、?」




そんなものはいらない。なにもいらない。




「お前のその治らない右手を私が治してやろう」




何訳のわからない事を言っているの。


この人。もう、動かすことすらできなくなっているのに。


治りっこないじゃない。






……、あぁ、そっか。腐って死なない様にこの右手を切り落とすって事ね。




また、痛い事されるんだ。最悪だわ。










「おい、入って来い」




奥から、ごつごつした筋肉質の男が入ってきた。


そいつは私の腕を持ち上げた。




「いっ、痛いっ。 」




「おうおう、こいつはけっこう思いっきりやられたな。


本来ならもう切り落とすしかないだろうが」




やっぱりそうなるのね




「ひっひぃ、だがな、そいつは、まるで魔法使いだ。


人の異常な体の状態もたちまち治してくれるやつだ。


お前のその肩の負傷ぐらいなら、また動くようにしてくれる」






ふー、治るようになるとは思えな、




痛っいぃぃっぃぃぃぃ、




男は思いっきり私の右腕を引っ張って、


生々しい骨の動く大きな音が響くとともに、骨が動く気持ち悪い感覚があった。




私は激痛にもがき苦しんだ。




こいつら、


私を玩具の様に痛めつけて、楽しんでやがる。


許さない。


もうしないって言って、またこうして、右手の傷を抉ってくる。


痛い事ばかり。




こうやって私たちが痛がるのを見て楽しんでいるのね。


悔しい。




「おうおう、可哀想に。おめぇら、どんだけこいつをほったらかしにしておいたんだ。


もうちょっと遅かったら、もしかしたら本当にくっついてないぞ」




「なに? わしらはお前に教えてもらった通り、ちゃんと吊ってもいたんだぞ」




「まぁな、そのおかげで変なところで固まらずに済んだがな」




くっ、痛いわ、痛すぎる。右腕が以前の痛みを取り戻した。




「嬢ちゃん、痛いだろうが、右手、動かしてみな」




何言って、……って、




確かに、右腕の指が動いてる。


う、腕も肘も曲がるわ。






「痛いっ! 」




動かすと痛いけど、確かに動いたわ。






「おいおい、そんなに驚いた顔しなくてもいいだろう。


とにかく、しばらく、何か月かは右腕は使うな


いいな。


じゃねぇと、また右手が以前みたいになっちまうぞ」






私は安心した。


もう治らないと言われ、諦めた右腕が、今動いた。


お父さんとお母さんからもらった大事な体を元に戻せた。




いや、この人達が戻してくれた。


助けてくれた。






安心したら、一気に緊張が解けて、大泣きした。




「おいおい、ったく」




「ありがどう゛ぅ、 あ゛りがどう゛」




「さぁ、こっちに来なさいティターナ。その右手を守るギブスをはめよう。


治るまで固定しておかなければ。


こっちだ」






「うん」




私は涙をぬぐいながら、選別人のおじさんについて行った。

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