第30話 初めての拷問

誰も助けてくれる人はいなかった。




誰一人としてその場の私をかばってくれる人はいないのだ。




私を助けてくれる人はこの世界にはもういないのは知っていた。


だけど、それをもう一度確信させる様に突き付けられるのはとてもつらかった。




そして私は房を後にして、とても嫌な雰囲気漂う部屋に投げ込まれた。


























部屋の中はとても広いけれど、仕切りなんて何一つない。




地面は冷たく、いくつもの流れた血の跡が、固まってこびり付いている。






壁には鎖をかける頑丈な繋や、血まみれの鉄の寝台。


他にも棘のついた車輪みたいなものなど沢山。






「お嬢ちゃんはここが何の部屋だと思う? 」




「わかりません」




「ここはね、悪い兵隊さん達をお仕置きする為に使われた部屋みたいだね」






そういって私を奥まで連れて行き、私の手に掛けられている手錠を天井から伸びる鎖につないだ。






「あっぐっぃぃぎゃぁぁあぁ」




右手に激痛が走る。






「お願い、下ろして。


右手が痛いの」




「そんなことは知らん。


それはお前がしでかしたが罪の痛みだろう。


痛くて当然ではないか?」








違う、私はミゲルが嘘をついたからで、誘ってきたのも、脱出したがっていたのもミゲルなのに。




「ちがうわ、逃げようとしていたのはミゲルで、ミゲルが嘘をついたから、」






「貴様、まだそんなことを言うか。


全く改心していないようだな。


やはり人はその場しのぎでごめんなさいを叫ぶ哀れな生き物よ」




「なぁ、ジヒト君よ」




選別人の後ろから、細長い人が出てきた。


彼はとても変な笑い方で笑った。




「そうでございますな。選別人殿」




革でできたような分厚い手袋に、全身てかてかに光る様な服を着て全身を覆っている。顔にはとても奇妙な仮面なのか、被り物をしてる。


てかてかと光ると言っても、その身なりはとても汚らしく、身に着ける物すべてが汚れまくっている。






「さて、そんなお前には、もっときついお仕置きが必要なようだな」




その言葉に全身が震えあがる。




もう痛い事は本当にやめてほしい。


怖さでおかしくなりそうになる。


ミゲルが、憎い。どうして、私を。






釣られている私の前にジヒトと言う人が台車を押してきた。




私に中を見せるつもりだったのか、中にはたくさんの血が付いた、鉄でできた道具が沢山並べてあった。










選別人はそこから少し長い釘のようなものと鉄鎚のようなものを手にとった。




それで何をするの。


私は上目遣いになる様な形で危ない物を持った選別人を見る。






「我々はまず、これを打ち込んでいるんだ。


神聖な杭でね、これを打ち込まれるとあら不思議、本当に自分を改正したくなるんだ」




そんなのを体に刺されらた。そんなことを考えるだけでぞっとする。




「さて、改正の色も見えない君にこれを打ち付けよう」




「そんな。止めてください。


何でもやります。何でもしますからやめてください」






選別人はわたしの左肩近くにその釘のような鉄を当てる。


それはとても冷たく、尖った先は私の肌を今にも貫通するような、そんな細くとも決して折れなさそうな頑丈な釘。




持っている鉄鎚でその手荷物くぎを思いっきり打ち付けた。




私はあまりの痛みに泣き叫んだ。






「うるさいよ。


どうだ、お前がした罪の痛みは」




「私は、




私が、すべて悪いです。


私が悪かったんです。


もうしません。もう二度としませんから」






「だからなんだ」




「許して下さ」




言い終わる前に選別人は二発目の釘を打ち込んだ。




「あ゛ぁぁ゛ぁぁぁっか」




私の左腕から血が流れていく




更にそれは続く三発目の釘、四発目の釘






私は痛みを消すように声を荒げるしかなかった。




私の左腕に4発の釘が刺さり、血が流れた。






「さて、ティターナ君


正直に自分の口から伝えてくれどうして逃げようと思ったのか」




そんな事言えるわけない


だって私は、あの時別に逃げたいだなんて思っていない。




「もしかして、ここのみんなを君一人で助けようなんて思っていたのかい? 」




そんなこと、したいとは思ったけど、無理であることを十分に確信していた。


それに、それができると思ったならもうすでに、何らかの行動をしている。


それが無理だと思ってたから、情報だけでも集めようと周りを観察していただけなのに。






「んー黙んまりか」






彼は鉄鎚を持ちながら、私を見つめる




でも、その質問に答えられる言葉など持ち合わせていない。






「んーなら仕方がない 」




そういって一発目の釘を鉄鎚で打ち付けた。




釘は全部が刺さった訳ではない。まだ半分以上も私の体には入っていない。




彼はそれを押し入れる様に上からたたく。




刺さる痛みと、力強く打ち付けられた振動の痛みが連なる。




「もう、やめ゛でぇ゛」




「だったら、自分の口からで言いなさい 」




「だから、私はそんな事思っていないし、ミゲルが、」




「まだ、言うのだな貴様」




そういって何度も一発目の釘を殴り、頭まで綺麗に私の左腕に刺さった。




「怒りのあまりすべて刺さってしまったわ」






「うっう゛ぅ゛ぅ」




「はぁー、ティターナよ。わしは本当はこんなことはしたくはない。


だから、教えてくれ、お前の口から、真実を聞きたいんだ。


どうして、彼らを連れて、ここから逃げ出そうと思ったのだ。


お前の父と母はもういないのだろう。




何故抗おうとするのだ」






「……」




「まだ、黙んまりか。仕方がない」




そうして日本目の釘を何度も何度も打ち付けられた。




質問されるたびに、一回、また一回と。




だけど、その質問に答えられない。




だって私は別に逃げようとしていないのだから。


だけど、真実を話そうとすると、怒られる。


だから何も、答えられないだけなのに。






だったら。


選別人は聞いて来る


「なぜだ? 」




「ミゲルを、ミゲルを、お母さんとお父さんに合わせてあげたかったから。


ミゲルを、お母さんの元に返してあげたかったら」






「それが本当の理由か? お前はただ、人の為に動こうとしたというのか。


こうなるとわかっていて。本当にそれだけか? 」






私はうなずいた。


もうしゃべる元気もない






「この大嘘付がぁ」






そういって私の右足に一本の釘を叩きつけられた


もう、私は何って言って叫んだのかわからない。




そして顔を叩かれた。








「お前は逃げ出して、そこで住もうとしていたのだろう。




ミゲルの優しさに付け込んで利用しようとしていた。




そうだろう。




占めたと思ったお前は逃げ出して、自分の住む場所まで作り、そこで自分が素敵な暮らしができると思っていたんだ。


美味しいご飯を食べ、暖かいベットで眠り、そして、母親代わりのミゲルの母親に甘える。それがお前の作戦だろう」






そういって一発一発出ている釘を打ち付けていく。






「お前らみたいなものにそんな世界はないんだ。


理解したか」






痛みだけが心に打ち付けられていく。


私はだた早く終わってほしくてただうなずいた。






「よろしい。お前の立場が分かったなら少し休憩だ」




私の腕の釘はすべてが食い込んで終わった。




左手からは血がながれ、右手の痛みはもう限界だった。








ほどなくしてまた二人はやって来た。




下ろしてほしい……。




早く下ろして。腕が痛い






「どうだ、調子は?






「お、おね、がい、早く、これを、おろ、し、て、」






私は力の限り声を出した。




「とりあえず、今回の件は誰が悪い」




「私です。わ、た、しが、わう、いで、す」




「そうだ、全部お前が悪い。


それはわかったんだな」






「は、い、」




「よろしい。ジヒト君、外してやりなさい」




「はい」




相変わらず変な笑い方をする人






「刺さってる釘をな」




え?






私はまた悲鳴をあげさせらてた。




それと同時にわたしの腕から一本目の釘が抜けた。




「あ゛ぁ゛っ、あ゛あぁ゛あ゛」






「や、や、め、てく、だ、さ、い゛ぃ゛ぃ゛い゛、 」






容赦なく釘が抜かれ、二本目の釘が抜かれて落とされる




「もうそれぐらいにしろ、そいつが死んでしまう




今日はこれで終わりだ。」






終わり?終わったの。






「後はまた明日だ


じゃあな、ティターナ。ゆっくりお休み




お前が素直でいい子なら、悪い事は無くなる」






そういって扉が絞められた。




「まってぇぇぇぇ!  ま゛って゛ぇぇぇ゛ぇぇ゛ぇ」




どうして、どうして、行っちゃうの。




待ってよ、これを、腕を外してよ。




せめて、これだけでも、外して。お願いよ




「腕を、下ろさせて。これだけ外してぇぇ」






私はどうしても思いを届けたくて、必死に叫んだが、彼らが戻ってきてくれる事は無かった。


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