第26話 人間
「喜べ。
お前の飼い主が決まったぞ」
ミゲルは一瞬にして凍り付いた。
その言葉は周囲の空気をも凍らせた。
高揚する気持ちを、抑えて貯めて、貯めて、貯めて、一気にそれを味わう。
空腹の状態で御飯には手を出さず、あえて何も食べない。やがて空腹は極限状態までになるが、耐えて耐えて、自分の本当に好物が出た時にそれにありついた時の絶世の幸福感とこの世界で味わったことのないほどの美味に包まれる。そしてその気持ちの良い瞬間。
こいつは今それを味わっているような表情をしてミゲルに語る。
そしてミゲルは、
母親に会えるという期待感を、自分が一番恐れていた、売り飛ばされるというものに瞬時にして替えられ、幸福が絶望にかわったのだろう、目の色が消えた。
「嫌だ。
俺は絶対に行かない」
「おいおい、それは無理だ。今更いかないなんてないんだよ。
おい、さっさと連れ出せ。」
兵隊が、無理矢理ミゲルを連れ出そうとする。
ミゲルは必死で抵抗した。
房の檻を握って離さない。
「嫌だ、いやだ、どうして?
どうして俺が」
そう言いながら、泣き叫んで離さない。
しまいに、ミゲルは殴られ力の力量の前にとうとう連れ出されてしまった。
ミゲルはそれでも逃れようと必死にあがいていた。
もう見て居られない
「まって!」
私は叫んでいた
「もうやめて、」
「おやおや、どうしたもでしょうか」
「どうしてそんな酷い事をするの?」
「酷いこと?
私はあなた達に、ここから出れるように尽くしているんですよ」
「何を言っているの?
貴方たちは勝手にこの人たちを攫ってきて自分の為に売り飛ばしているんじゃない
これのどこが、この人たちの為なの! 」
「はぁ? 何を言っているのかよくわからんな
理解していないのは君たちの方だ。
君たちには希望があるんだ 」
希望ですって?
勝手に人を攫って閉じ込めておいて
「お前らみたいなものに、もう一度住む家ができたり、そして今よりも金のある場所へ、権力者のそばで生活できるんだ
お前らのやりたかった事が色々できる様になるんだぞ」
「そんなのは誰も求めてはいないわ
皆の事を思うのなら、みんなをここから出して、返して!
それが一番よ」
選別人は髭を伸ばすように触った
「ふむ、ではお前さんは、ここから出してやったとして帰る場所はあるのかね? 」
「そ、それは、」
「家族や、両親。待っている人がいるのならいいが、ほとんどのものがそれを失ったのではないか? 」
否定はできない。確かに私の両親は死んだ。
私の目の前で、残酷に。
家に帰ることもできない。
「だけど、そうじゃない人もいるわ」
「それはない」
急に選別人が言葉を返した。
「今、外は戦争中だ。どこの場所でも攻め合っている。国と国が殺し合いをしてるんだ。
そんな中でお前たちが平和に暮らせる場所などが理想郷だ
「なぁ、聞いてくれ」
ミゲルが話し出した。
「俺は、ここを逃げ出そうとしている奴を知っている。
そいつは、この城の事を良く知っていて、頭がすごく切れるんだ
そしてここを今にも抜け出すそうとしている奴を」
「ほう、それは興味深い話だな」
え?何を言っているの。
ミゲル?
「だから、俺を母さんの下に返してくれ。
そうしてくれるなら俺はそいつを教える。
だから連れて行くのを止めてくれ」
それはミゲルの交渉だった。
何を考えているのミゲル?
何か策でもあるのかしら
「で、そいつは誰なんだ?
教えてくれたら、お前を連れて行くのは止めて、お前の母親の元へ返してやろう
それでいいか?」
「本当か?絶対嘘じゃないんだな?本当になんだな」
「あぁ、男に二言は無い。
わしは言った事は守る。
それに、そいつの方が興味深い。
そいつを痛めつけて殺してやろう」
「わ、わかった」
「良し。成立だ。
よく聞け、そんな愚かな事を考えちゃいかん。
これでわかっただろう。
ここから逃げ出そうなんて浅はかな考えは止めねばならんと。
逃げ出すことなど不可能なのだから。
そして覚悟して置け。今からそいつには、酷く苦痛を味合わせてやろう。
そいつの脳裏に刻見込んで理解させてやらねばならない。」
誰もが息を呑んだ。いったい誰の事を言っているのだと。
だけどそんな話をしていたのは私とミゲルだけ。
この話の登場人物で思い当たる節は私だけ。
だからこそ私の心臓は張り裂けそうになっていた。
え、嘘よね。私を指すつもり、じゃないわよね?
止めて。お願い神様。
どれだけ恐ろしい事をされるのだろう。
想像しただけで怖い。
ここにいた時から、罰として、傷だらけにされる人、足を切り落とされた人、痛めつけられ、泣いている人を沢山見せられてきたた。
だからこそ、捕まった後の恐怖が連想する。
あいつの言い方はまさにそうして、殺すまで言っている。
言いなりにしかなれない私たちには、見せられてきた恐怖が焼き付いて離れない。
そんなの誰だってされたくない。
みんなが房の中で震えあがっている、そんな空気がこの場所には漂っている
「さぁ、そいつを教えろ。誰だ
指をさせ」
兵隊の方に担がれたままミゲルはゆっくりと顔を上げて指をさした。
その目はすでに死んでいた。
「あいつだ」
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