第17話 絶望 何もかも無くした私
熱い。
目が覚める。
朝なの?
夢を見ていた?だとしたら本当、最低な夢を見たわ。
早くみんなに会いたい。
ゆっくり目を覚ます。
と辺りはまだ燃えていた。
私はどうやら箪笥から飛び出していたみたい。
体がとても重い。
何かが乗っている。
私は自分の上に乗っかっていたモノを何とか降ろして立ち上がった。
だけど、それを見て私は、立ち尽くした。
私の上に乗っていたのは変わり果てた姿のリリアお姉さまだったから。
着ていた服の残りと、金色に輝く髪の毛の残骸からそれがそうなのだと認識した。
お姉さま……。
火が燃え移らない様、私を守るようにお姉さまが覆いかぶさってくれていたみたい。
もうほとんど焼けてしまっていて、あの美しい面影はどこにもない。
お姉さまが必死で炎の中を包んでくれていた姿を想像すると自分が憎くてしかたがなくなった。
私はどれだけここで気を失っていたのだろう。私が眠る前よりは火の勢いはなくなっているけれど。
私はまた、守ってもらうばかりで、そんな人達に私は何もしてあげられなかった。
何もできない私が守られて、その代わりに、大切な人たちがいなくなっていく……。
はっ!
お父様、お母様!
駆け寄った先では、すでに白骨化に近い状態のお父様とお母様が、あの時の形のまま倒れていた。
私はすぐさま耳元で話かけた。
信じられ無かったから。
「ねぇ、お父様だよね?
そこにいるのはお母様よね?
…私だよ? わかるかな。
ごめんね、来るのが遅くなっちゃって。
……………………………………………。
返事は無い。
「ねぇ、 もしかして怒ってるの? ……………………………………………」
お父様と、お母様は何も答えてはくれなかった。
「…ねぇ、 …… 何か答えてよ、…
まだ、いっぱいお話…、 …したい、よ」
急に涙が込みあげてきて、私は泣いた。
これが両親だと判断するのに数秒もいらなかった。すぐさまわかったわ。私のお父様とお母様。
お父様の頭蓋骨はお母様と違って形がだいぶん変形していた。
私はその二つをぐっと抱き寄せた。
いつも優しく出迎えてくれたお母様、私の困り事にいつも付き合ってくれるお父様。
いつもありがとう。
毎日のように食卓を囲んで、お父様にはいつもダメ出しされて、それをお母様が優しく慰めてくれる。
そこから笑い話が始まるのよ。覚えてるかしら。
私がへこんでいる日には大好きなアイリッシュシチューを出してくれて、2人とも何とか私を元気づけようとあれやこれや、やってくれて。もう家の中てんやわんやになる日もあったわよね。
それがうざくて余計私は怒ったり。話しかけないで欲しくて、ひどい事言っていたわ。
だけど、それでも、色々やり続けてくれて、いつしか笑っている私がいて、いつの間にか沈んだ気持ちが無くなっているのよ。 まるで魔法にかかったみたいに。
あの時はそれが普通の事の様に過ぎ去っていたけれど、
今思い返してみたらどんだけ気を使ってくれていたの?
いつも忙しそうに家を飛び出すお父様の朝は早く、帰ってくるのは夜遅い日が多かった。
お母様はいつも家の用事に追われていた。特に私の面倒も見ながら、私たちのごはんに、衣類の補修に洗い物、おうちの掃除も毎日して綺麗にしてくれていた。
よく一息つくお母様を見て、疲れているだろうなとは思っていたいの。
なのに私が何かやらかすから、お母様が中断して飛んできてくれていた。
でも、そんな両親が2人そろって一緒に居れる日があった。
忙しい二人がやっと体を休められる。
『お休みの日』と両親は言っていたわね。
そんな何もない、『休みの日』には、必ず私をどこかへ連れて行ってくれて、いろんなものに触れさせてくれていた。
必ず、今日は何処何所で、こんなのがあるから行こうかって調べてくれているみたいで。きっと自分たちの睡眠時間も削ってるよね?
私よりも寝てないよね?
寝る時間も削って働くお父様の、数少ないお休みの日に。
お父様よりも早く起きて、私達の支度をしてくれるお母様の、羽目を外せる時間に。
私の事ばっかり考えて。
私の為に時間を割いて楽しませてくれていたんだ。
私は、あまりかまってくれないとか、レビンおじさんの方が遊んでくれると比較していたけど、あれ?
おかしいよ? …………
思い返しても、お父様とお母様と居た日の方が、お出かけにいった時の方が、遊んでもらっていた事の方が遥かに多くて楽しい想い出ばかり。
そればかりがよみがえる。
一番かまってくれていたのは――
私の事を見てくれていたのは――
本当はお父様とお母様だった!
そう再確認するともう泣きじゃくる声が止まらない。
どう我慢しようと抑えても、今まであった思い出のほうが込み上げてきて、抑えきれない。
私は床にへばりついて、大きな声でただ泣いた。
だって、全然返事を返してくれないんだもの。
こんなに……。
こんなに、話しかけているのに
もうこの優しさに触れることも、お父様とお母様の温もりも、私を包んでくれる居場所も。
もう二度と訪れないんだ。
声を聞くことも、話すことも、どこかへ私を連れて行ってくれることも。
もうこの先ずっと。
―――――無いんだ。―――――
「それでも私は憎くないよっ。
私、ぐすんっ、 憎まないから。 お父さんと、お母゛さんが言っでた、善き人になるから。
っす、ぐすんっ、
だげどぉ、なんでだろ゛うぅ?
ずごく、 うっ、はっ、 すごくぅ、腹が立づよぉ―。
うっ、……っぐ、 ぜっだい、な゛ずからぁ
な゛ずからぁ、
だから、帰っで来でよぉ― 」
ぐすっ、うっ、ん、
暫く泣くと私は正気を取り戻したように、当たりを冷静に見た。
意識はあるのだけれどなんだか目が虚ろみたいに、頭がぼーっとする。
何故かなにも感じなくなった。
泣いていても何も変わらない。そう思って辺りを見渡す。
回りはまだ燃えている。
足元には燃え切りかけた骨の死体
異臭の漂う部屋。
あれ?私、 これからどうしたらいいんだろう?
ここで何をするの?もう断末魔の騒がしささえ聞こえてこない。
この世界で私は一人。
ここに私は必要?
私がいても意味は無いんじゃないかしら?
立ち上がった時に丁度割れた鏡に私の姿が映った。
鏡は片面のほとんどが割れて無かったけど、私の体はほとんど残っている部分で映っていた。
変な形。なんだか顔だけ左に傾いている。
まぁ、どうでもいいわ。
することが無くて、燃える部屋の中で私は四隅の角に身を寄せて座った。
三角座りをして色々小言をいう事しか思いつかなくなってただそうした
どうして、あの時、どうして、どうして、私は。
なんで眠ってしまったのだろう。最低だ。私が守ると誓ったのに。
だから最後まで隠れていたのに。
私がすべて台無しにしたのかな? 私のせいなのかな? 私のせいだよね。
何もできないから、
私はなにも、
そうやって小言をつぶやいていると、私の必要性はこの世界には無いことが分かってきた。
何も救えない、ただ見ているだけの力なき人間、大切な人が消えていく、
私がいると、みんなが不幸になる。私のせいで、私のせいで、みんなが苦しむ。
私がもっとこうできていれば。私がもっとみんなを守れる存在であったら。もっと機転を利かせられたら。
私のせいだ。私が悪いんだ。私が……
ふと顔を上げると、まるで私を呼んでいるように、割れて落ちたナイフのような鏡の破片が目に留まった。
なんて素敵なものなのかしら。
私はふわっと立ち上がるとその鏡を手にしていた。
これで、あいつらを、これで、これで、これで、
あっ、そうだ、死のう
私は鏡の破片を持ちながら、また四隅へ向かう。
私は何のためらいもなくそれを自分の首に持っていって引くことを考えた。
何故そうする事にしたのかはわからない。
でも、勝手にそうしようと思った。
そうすることしか頭になかったから。
バタンっ。
そして私は床に倒れた。
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