第16話 私の大切なパパとママ



「こっちだティターナ!

こっち側の部屋はまだ火の手が弱い

ここの部屋に隠れよう」



確かに、南側の火の手はとても強かったが、西、東の方はまだ火の手が南と比べて弱かった。

南側ばかりに火をつけまわっていたのかしら?



部屋に入るなり、私たちは隠れる場所を探した。

入ってすぐのところには隠れても身をさらすような物ばかり、もう少し進んでみないと、


「ティターナちゃん? 」


そう言って奥の箪笥のような戸が開く


えっ?


出てきたのはリリアお姉さまだった。


「リリアお姉さま! ここに隠れてたんですね!」


私はお姉さまに会えた事に心が高揚するとい思ったがそれは一瞬の出来事でしかなかった。


ドカンと大きな物音。

扉が蹴り飛ばされて開く。


「いいか、隅々まで探し回れ。

他の部屋も見てくる

第三小隊はこの部屋を潰せ」


「はっ。

よしお前ら、すべての扉を開いて回れ。

誰一人逃がすな」




「ティターナこっちに来なさい。」


そう言って私はお父様に、箪笥のような前に呼ばれた。


「ここに入るんだ。

いいね。物音ひとつ立ててはダメだ。


「リリアさんこの子をお願いします」


大人一人、ぎゅうぎゅうに詰めても二人入れるかどうかというこの箪笥に、お父様たちまで入るのは無理だ。



「お父様たちは? どこに隠れられるつもりなの? 」


「私たちはそこのクローゼットに隠れるよ。

絶対、何があっても声を出してはいけないよ。

そして、隙を見てここから逃げるんだ。

いいね」




そう言って私を、お姉さまと一緒にクローゼットの中に押し込んだ。


「そうだ」


「ティターナ。

 

 はい。これ」


そう言ってお母様は私に紅いペンダントをくれた。


「大事に持っているんだぞ。

そして私からはこれをお前に渡す。

この指輪は大切なものだ

絶対に無くすな。


そしてこの前にも言ったように、お前が世界の事をわかるまで決して身に着けてはいけない。

ただし、無くしちゃ駄目だ。

暫くは肌身離さず持っていること。

いいね」


そう言ってお父様は自分の手から外した指輪をくれた。




「ティターナ」

「ティターナ」


二人の声は一つも外れることなく揃って優しい声で私の名前を呼ぶ。


「お誕生日おめでとう」



箪笥の扉戸のわずかな隙間


扉の戸を左右に二人で持ちながら、丁度二人の姿だけが収まる隙間。

ゆっくりと扉が閉まっていく中で、顔を覗かせる2人の喜色満面の笑みを最後に扉は閉められた。


私は嬉しさが自分の体を突き抜けてしまって、涙か勝手に瞼の下から押しあがって垂れ零してしまった。

そっか、今日私の誕生日なんだ。



そっか、  ……そっか。



私は忘れていたのに、お母様たちはこんな事があっても、覚えていてくれていたんだ。



「ターニャちゃん。

私からも、お誕生日おめでとう。

絶対ここをでてお祝いしようね」




お姉さまも、私を包むように抱えながら、囁いてくれた。

とてもやさしい言葉の数々。



こんな事を思っていたら目が熱くなって痛い。


止めて、止めてよ。こんな時に皆して。

私そういうのにダメなんだから。本当に泣いてしまうわ。

今は泣いちゃダメなんだから。

でも、とても嬉しかった。ありがとう。




「お~い

誰もいないのか、助けてやるから出てこい。

誰かいないか~? 」



乱雑に開けられていく、棚という棚。


強引に突き進む鎧に当たって倒れる円机。



私は光漏れるわずかな隙間から外の光景を覗いていた。

お父様達が言った逃げるチャンスを伺う為。


そうよ。私たちはこんなところで死なない。

生きて、またみんなで誕生日会をするんだから。


諦めないわ。きっとお父様にも何か策があるはずなんだから。

きっと……

そうよね?

私の体は火で燃えた部屋だというのに極寒の中に放り出されたように震えていた。



「私たちならここだ」


「なんだ、やっぱりいるじゃねぇか」



お父様!お母様!


何をしている?

どうして!


お父様たちは手を抑えられて、燃え滾る部屋の中床に押さえつけられた。


私は悲鳴を上げそうになって必死に口を押えた。

最初は飛び出そうとした。


でも、お姉さまが止めてくれた。私を思いっきり抱きしめて止めた。



「今行ったらあなたのご両親のした事が意味がなくなってしまうわ。


ターニャちゃん、堪えて」



私の大切なお父様とお母様は顔やお腹を沢山蹴られていた。



「王様がまだここにいるらしいんだが、お前ら見たりしてねぇか? 」



「いいえ、知りません。

ここには我々しかいませんでしたから」


「ほんとうかぁ?

嘘ついてたらぶっ殺すぞ。コラッ! 」


そう言ってお父様の顔面を何度も何度も殴った。



もう止めて。



「本当です。

本当にここには王様はいませ、」


ぐおぉぉ、


お父様は顔上げて話した最中に足蹴りされた。

床に倒れた左手に剣を突き刺す兵隊


きゃあぁぁあぁぁぁぁ。


「うるせぇぞ女! 」


お母様!


お母様の髪を引っ張って他の兵士がお母様を殴る。



止めて、止めて、もういいでしょ。

本当に王様なんてここにはいないわ。

本当の事を言ってるのに。

どうしてこんな酷いことを

2人は乱暴にされている。

こんなの見ていられない。


私はさっきとは違う涙がたらたらと流れていた。



「あれれ、さっきの奴らじゃないの?

ここにいたの」


さっき襲ってきたスキン頭の男


「結局逃げれないだろう」


男は嘲笑いながら、持っていたモノを落とした。


「これお前と逃げた兵隊だろ?

こいつもほれ、この通りよ 」


「レ、レフ、ィン…」


「他にもあるぞ。ほれほれ」


私たちと一緒にた兵隊さんにロハンさん。


お父様が泣いた。私の見たことない顔だった。

あのお父様が顔をゆがめて泣いている。顔の形が崩れ、筋肉がうまく動いていないように見えた。


「お前ら、こいつは俺らの兵を何人か殺してやがるから

その分やっといてくれ」


「部隊長は?よろしいのですか? 」


「あぁ? 俺はもういいよ。 見たいものも、やりたいこともこいつの目の前でやってやったから

俺は王を探しに行く。」


「わかりやした。

こいつの制裁は私共にお任せください」


「好きにしろ」



あいつはそういってしれっと去っていった。

お父様はその後も一方的に殴られ続け

順番に指を切断されていった。

ただ断末魔だけが響く。


もう、ダメ。

私見ていられない。

今すぐにでもここを飛び出してあいつらを殴り倒してやる。

私の大切なお母様、お父様によくも。



「駄目、ターニャちゃん! 」


私の首を一滴の涙が流れていく。


「駄目なの。

2人の行為を、ご両親の想いを無駄にしないで」


訳の分からない引き留めに私は怒りのようなものが爆発しそうになった。

今すぐにでも叫びたい。反論したいわ。

だって私の両親が殺されようとしているのに、こんなの黙ってみてられない。


「誰の為にお母様たちが出たのか、考えて!

あなたよ、あなたを守るために、あなたの両親は今こうしているのよ! 」



私の中の、私を動かす何かが止まった。

背中の服が湿って冷たい。


これは私の涙じゃない。


後ろにいるお姉さまの涙。

大声で泣きそうなのを、体をひくつかしながら、必死に音を立てまいと、私を出すまいと堪えて流す、お姉さまの涙達。



「あなたをただ守りたい一心でこうされているのよ」


「でも、私のお母様が…

お父様が…


死ん、じゃう」



駄目、言葉が…

言葉が、 声にならない…


「ぐすっ。

いい。ターニャちゃん、今あなたがお父様とお母様の前に出ていって殺されたら、お父様たちはどれほど悲しむと思う?

きっと死を選ばれるわ。あの人達を悲しませるような事は止めて。

それにあなたが人質に取られたら、それこそお父様たちは彼らの言いなりになるしかなくなるの。


だから今出て行ってはダメ。

どうかわかって。今は兵隊がいなくなるのを耐えて待って」


お父様…

お母様…


ごめんなさい。

私の顔は涙で溢れた。最初の喜びのものとも、怒りのものとも違う涙。


何もできない無力な私。ただ、ここで大切な人がいたぶられている姿をただただ見ている事しかできない私。

我慢して二人の形が崩れてい行くのを見ている事しかできない。


お母様、お父様は私にいっぱい色んなことをしてくれた。色んなものをくれた。

自分を犠牲にしてまで私を守ってくれた。

なのに私は何も返してあげられない。


間に入って止めることも、私があなた達の様に、守ってあげる事すら叶わない。



「もういいだろう。そのぐらいにしておけ。

鎧が傷つくぞ。


もう、そいつら反応ねぇよ」



「あぁ、そうだな。わりぃ、わりぃ」


「だいたいこんな夫婦の部屋には王様なんていねぇよ」


「まぁ、俺だってわかってたけどな。口実だよ、口実。

そんなんあったほうがなんか雰囲気出んだろうが」


2人は人形の様に横たわった。


お父様…

お母様…


ごめんなさい…。


本当にごめんなさい。


何もできない子でごめんなさい。あなた達は必死で動いてくれるのに、私はそれにこたえることもできていない。

必死で涙を堪えているのに、涙が私の顔の穴という穴からたくさん出てくる。止めようとしているのに言う事を聞かない。

喉も、鼻もとても痛い。

息苦しい。


どうして、こんなにもあふれ出てくる感情を堪えているのだろう。

こんなに理不尽な事にどうして我慢が必要なのだろうか。



「お前ら、もういいからそいつらそこに捨ててさっさと奥探せ」


「へいへい」


こっちに来る!?


彼らは出ていくのではなくこちらに来た。


見つかったら私はどうしたいいのだろうか?

早くお母様たちを助けたいのに、私が見つかったら誰が助けるの?


でも、ここにいたら見つかるんじゃないかしら。

彼らはこちらに近づいてきている。


「この辺で最後だな」



私の肩を叩く


「お姉さま? 」


「後はよろしくね。 ターニャちゃん。わかっているわね。

あなたがここでやらないといけない事は、生きる事よ

貴女ができる恩返しは、貴女のご両親が守ろうとした、その命を守る事。生き抜くことなんだからね」



そういって、お姉さまが箪笥の飛びらから飛び出していった。



待って、一人にしないで。


私を、

私を一人にしないで!



「あぁん?

なんでい、まだ一匹いやがった」


「やっぱりまだ隠れてやがったのか」


「すみません。あまりの恐怖に隠れていました」


「女だぜ」


「そうか、そうか、姉ちゃん可愛いね。

まだ若いんじゃねーの? 」



「なんだ、お前ここのメイドか 」


「似合ってるね。

怖くて出てきちゃったのかな~ 」


「キャッ」


お姉さまの綺麗な髪を掴んで引っ張て行く。


「たっぷり可愛がってやるよ」


「若い子はたまんねぇ。

この華奢な体をいじめるのは本当に最高だよな

どこまで耐えられるんだろうな」




お姉さまは奴らを睨んでいた




大多数の人数でお姉さまに寄って集る兵隊たち。


お姉さまは痛みのあまり悲鳴を上げた。


弱い物を痛ぶって楽しむ様はまさに、彼らにとって至高のストレス発散方法なのだろう。

という風に私には映った。


またお母様と同じようにいたぶられるお姉さま。

私の大切な人が、目の前で何度も苦痛に合わされる姿を見せられる。


気がおかしくなりそうになった。

でも、私が助けなければならい。

機会を見逃してはならい。

私は吐きそうな感覚を我慢しながら、ただ、悔しさで涙を流して隙間からその希望を待った。


「よし、ここの確認は終わりだな。」



来た。彼らが部屋を出るその時、私が急いで皆を助けないと。




「そいつらに火をつけろ」



それはあまりにも期待を裏切る一言だった




ウソ。止めて。




「はいよー」


瞬く間に燃えた。人に肉が焼ける匂いはとても臭い。

私は頭が真っ白になった。

さっきまであった2人の笑顔。

「お誕生日おめでとう」


その言葉がよみがえる。



嫌ぁ、 いやぁ、 いやぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ



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