第11話 優しい御姫様

え?アーネちゃんのお母様?


どうしてこんなところに……

あ、そっか。もしかしてここアーネちゃんのお部屋!?



「こんな夜遅くに何かあったの?

すごく急いできたみたいだけど」


「はぁはぁ、 あ、...あの、はぁ、はあ、そのぉ....ですね、」

ダメだ、全速力で走ったのと、あまりの怖さで目から涙が出そう。


また怒られちゃうよぉぉ、


なんか言わなきゃ。




「とりあえず、こっちにいらっしゃい」


とりあえず、言われるままついて行く


「今お茶を入れるから、少しここでゆくっりしていて」


とにかく恐怖で頭が回らないわ。

とりあえず何も考えられない。


少しここで落ち着かないと。



「はい。どうぞ

これ飲んで」


と私の前に置かれたのはアールグレイというお茶だ。

とても温かい

とりあえず、何も考えずに言う通りにする。


「大丈夫? 」



ふう、少し肩の力が抜けたみたい。


「で、そんなに急いで、ここへ何しに来たのかしら? 」


「えっと、実は兵隊さんに追われて、それで」


「それで?」


「とても、怖い感じで追いかけてくるから、つい逃げてしまって。 」


「ふー。 それで、ここに駆け込んできたってわけね。 」


アーネちゃんのお母様が席を立った。

扉を開けて廊下を見回してから、扉を閉めて私の方に歩いてくる。


「悪い兵隊さんね。アーネちゃんを追いかけ回すなんて。

ごめんなさい。後でその兵隊さんにはきつく言っておくわ。

大事なご友人になんて無礼をするのってね。 」


いや、そこまではしなくても別に、



「でも、ターニャちゃんもこんな時間に寝ないで一人で行動するのはダメよ。

そこはちゃんと反省しないとね」


「はい、ごめんなさい」


「どうせまた、お母様には言ってないのでしょう? 」


はい。バレバレです。仰せの通りです。


「さぁ、もう少しアーネちゃんが落ち着いたら、お部屋まで送っていくメイドを呼んでおくから

そのメイドとちゃんと帰るのよ。 」



「ごめんなさい。 ありがとうございます。 」


「いい子ね

じゃあ、もう少しお話でもしましょうか。

ちょっと待っていて」



一時はどうなるかと思ったけど

正直怒鳴られなくてよかったぁ。


お母様にはどうかわから無いけど……

もう考えるの止めよう。



「お待たせ。さて、何を話そうかしら。 」


「そうですね。もうアーネちゃんは寝たんですか」


「うふふ。当り前よ。もうとっくに寝ちゃってるわ。

相当楽しかったようね。はしゃいでいた分、いつもよりも断然早く床に就いたわ。」


そうですわよね。だってもう12時を、回ろうとしているんだもの。


「パーティの時はあの子飛んで泣いてきた時は何事かと本当に驚いたわ。

もう手は大丈夫?」



アーネちゃんのお母様が心配そうに腕を見ている

「はい。おかげ様で。この通り。包帯もだいぶ小さくなりましたわ」


「あら、それは皮肉かしら」


私たちは冗談をいってからかいあった。


あの後、お風呂に入って上がってくると、メイドさんが待っていて驚いたわ。

私何かしたのかしらと思ったら、包帯を巻きなおしますって。


アーネちゃんのお母様がきっと派遣して下さったのだと分かった。

本当に大したことないのに。

メイドさんは巻きなれたように、傷口に消毒して綺麗に包帯を巻いてくれた。

きっとアーネちゃんのお母さんは自分の包帯の巻き方があまり気に入って無くって、心配してたんじゃないかなと思った。


だから、もっとちゃんと撒ける人を寄こして巻き直させたんだと思う。

てか絶対あってると思うけど。

だって、あれじゃあ、ほんと包帯巻きすぎで、大けがもいいところなぐらい重症に見えたもの。


ただの擦り傷なのに、腕一本大やけど見たいな。

でも、それだけ愛情深く、私の事を心配してくれている大きさはその包帯の量で伝わったわ。


ふふ、本当思い出しただけで笑えて来る想い出よ。


それで思い出した。


「そういえば、薔薇のお話。まだすべて聞いていなかったですわ」


「あぁ、あの青い薔薇のお話。そうね、丁度いい時間になりそうだし、

その薔薇の話をしたら、今日はお開きね。 」


「わかったわ。」



「どこまで話したかしら、確か薔薇が持っていかれたところからよね


その後、薔薇は教会の地下に埋められたそうなの。

人目のつかないところでひっそりと孤独に咲いていた。 」



「どうして地下に? 」


「人の目につく所に置いておくと、自分の流した噂で燃やされるか、

奪われてしまうのを恐れた為らしいわ」


「つまり、自分だけのものにしたかった」


「そうね。

それから、神父は量産しようと考えたの。

増やす為に色んなことをされて、そして教会の地下はその黒い薔薇が沢山咲いた。



でも、いつしか日の当たらない場所での薔薇たちはどんどんと元気を無くしていってしまった。


神父はいくら栄養をやっても元気にならない姿を見かねて彼らを捨てた。 」


「売ろうとしたってことよね。最低な人ね。 」



「そう。でもすぐ萎れてしまって売り物にもならなかった。

捨てられた薔薇の何本かは、生きる為街に咲いた。

太陽を浴びた薔薇はすくすくと育っていったの。

でも増え過ぎた為に、いつしか人の目に触れてしまう。

それを見つけた街の人たちは、また疫病が流行るのを恐れて、その薔薇たちをすべて燃やしてしまうの。

街の薔薇はすべて一掃された。 」



「じゃあ、黒い薔薇はこの世界から無くなっちゃうんじゃ?

可哀想すぎるわ。

でも、じゃあどうして青い薔薇があそこに咲いているの?」



「神父は沢山の薔薇を捨てたわ。

だけどね、そんなにたくさんの薔薇を捨てているところが人にばれたら、咎められて捕まってしまう。

疫病を流行らせた張本人だ! ってね

その危険を恐れた神父は、残りをすべて人里離れた山に捨てに行ったの。


これで教会の地下には一本も残すことなく捨てきることができた。 



何年かたって、村の子供が胸に黒い薔薇をつけて帰ってきた。

街の人たちはそれはどこに咲いていたのかと尋ねると婿の山だと指さした


案内された先には沢山の立派な黒紫の薔薇が咲いていたわ。

それはとても綺麗に咲いていたそうよ。



人々は燃やした。完全に消し去る為に。

大きな山火事の様に辺りを燃やしていった。

周りはとても悲惨だったそうよ。



庭師はこっそりとその子供から胸に刺した黒い薔薇をもらって育てたの。

でも、育つことは無かった。

庭師はとても悲しんだそうよ。やっぱりだめなのかと自分を責めるほど。

きっと救いたかったのだと思う。責任を感じてたんだと私は思うわ。


ただ、一本だけ焼け残った薔薇があった。

たぶん大火傷で損傷していたはずだけど、自然に守られたのか、運命なのか、それはいつしか青い花を咲かすの。 」



「どうして急に青なの? 」




「そうね。不思議よね。

学者の見解では赤に咲く能力が完全に火傷で失われて、青の色素だけが残ったのでは無いかと言われているわ。

王国はその話を聞いて、その山に咲く薔薇を保護したの。この頃には疫病の正体も晴れていて、黒い薔薇のせいでは無いことも分かっていたわ。

二度とその薔薇が傷つけられないように。



つまり時を重ねて、形は変わってしまったけど、庭師の手の下にその薔薇は帰ってきた。

それからは大切に育てられたそうよ。

生殖能力もとても弱ってしまった薔薇だから、そんなに沢山は咲かせられない薔薇。

それでも彼らは生き残る為必死で咲いている。たとえどんな酷いことされたとしても、強くあり続けた。それがあの青い薔薇なのよ。 」



「すごいわ。そんあ過去あったなんて。ただ青かった訳ではない。

それに、そこまで酷い事をされても生き残るなんて。

私あの薔薇がとても好きになったわ。

なんて逞しくて、凛々しい薔薇なの。」





「その子はきっと賢明に咲いた。たとえ、どんな苦難にさらされ続けても決してあきらめずに立ち上がった。

だから最後は青い薔薇として子孫を守った。


この話は私たちをとても勇気づけてきた。

この薔薇はね、どんなことがあっても決してあきらめてはいけないと教えてくれる薔薇なの。

立ち上がれば、止めなければどんな困難でも変えられるってことを教えてくれたの」



「私もあの薔薇の様に美しくなりたい」


「ふふっ。そうね。とても美しい薔薇だわ。どの花にも負けないぐらいに。

きっとターニャちゃんならなれるわ。


でもあの薔薇はそれはそれは苦労を積んできた薔薇よ。

その大変さはきっと死よりも苦しいほど困難なもの。

あの苦労を耐えてこられるならきっと、その人はとても美しい人になるのだと思うわ。 」



そんな重い話があったなんて知らなかった。

人はなんて冷酷な事をするのかしら。そんな人にはなりたくない。


皆を守れるような、そんな人になりたい。

もし私の周りにそんな薔薇が咲いていたとしても守ってあげられるようそんな人に。



「さぁ、帰りましょう。

日をまたいでいるわ。 報告してるとは言え、ターニャちゃんのお母様が心配されるわ」



ほんとだもうこんな時間、なんだか気が抜けたらとても眠くなってきたわ。


「さぁ、彼女と帰って。 」



「遅い時間にごめんなさい。この子をお願いね。」


「いえ、かしこまりました。しかっり送り届けてまいりますのでどうか、もうお体をお安め下さい。 」


「ありがとう。貴女も送り届けたら、そのまま戻って休んで」


「かしこまりました。 」


「じゃあね。 ターニャちゃん。

おやすみなさい」


私たちはお部屋を後にした。


隣にメイドさんがいるだけでこんなに頼りになるとわ。

一人で歩いていた時とは安心感が全然違った。


「着きました」


普通に扉を開けると、心配しているお母様が起きていて、とてもとても怒られた。


「あなた何時だと思っているの! 」


第一声がこれで、それは長いお説教だったわ。

眠たすぎてこうなる事を考えていなかった私のミスだわ。


お母様ま送ってくれたメイドさんに頭を下げて、お礼を伝えて、メイドさんは帰っていった。


涙組む私にお母様はホットミルクを入れてくれた。

きっと帰ってきたら飲めるよう準備をしていてくれたのだろう。


暖かい。


「それを飲んだら早く寝るのよ」


そういって私の前に座ってこっちを眺める。

お父様はまだ帰ってきてない… のかな……。



「冒険は楽しかったのかしら」


「うん。そうなの、とても素敵なお話を聞いたのよ」


「そう?それはどんなお話?」


「感動するお話よ

ところで、お父様はまだ帰ってきてないの? 」


「そうなのよ。 あの人ったら。お仕事が忙しのか、ご友人と飲んでいるのかはわからないけど

遅いわね。 」


「ふうん~ 」


私は不満そうにうなずいた。


「私たちも今日は折角だし、羽目を外しましょうか」


え?



お母様の口からそんな言葉が出るなんて。


私はうれしくなった



「じゃあ私の冒険譚聞いて!

すごいのよ」



「えぇ、ぜひ聞かせてもらおうかしら。

楽しみだわ」


「じゃあ、まず、リリアお姉さまの事から、 」




私はお母様と夜遅くまで語り合った。

こんなことはめったに無かった。


リリアお姉さまを探しにいったこと。

怖い兵隊さんにあったこと。

そしてとても美しい薔薇のお話。


あったことをお母様に話し続けた。

眠たかった目はいつの間にか開いて、お母様の入れてくれたホットミルクを飲みながら気持ちが高揚して、


あれ?おかしいな眠たくなかったはずなのに……


とても、眠たくて、私、、、、



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