第8話 お転婆姫

 目を覚ますと、私たちのいる部屋にメイドさんがせっせと、出入りしていた。


 そして私たちの部屋に夕食が並べられていく。


 とても大きな銀の押し車に乗って3人分の食事がテーブルに置かれる。


 これまた豪華な食事で、肉に、魚それからフルーツの盛り合わせ、ワインにシャンパン、パンの詰め合わせに、どんどんと運ばれてくる。


 こんなに食べきれないわよ。私もお母様もお父様の帰りを早く待った。


 でも、全然帰ってこないんだから。まったく、何しているのかしら。


 せっかくのシチューも、熱々のスープも作りたてのステーキ肉も冷めてしまうわ。

 本当にお父様ったら。


 料理はまだまだ、どんどんと運ばれてくる。


 あいにく長く広いテーブルだったから置けない事は無いのだけれど。

 と言っても、もともと私たちが座っているテーブルも三人で座るテーブルの大きさではないのよね、これが、、、


 ざっと8人は軽々と席に着けるわね。


 どんどんとメイドさんたちが入っては出ていく。ほんと、何人のメイドさん達がいるのかしら。



 そんな中でも、このお屋敷のメイドをしている一人の女の人と私はとても仲良くなったの。

 とても優しくて、いつも私に良くしくれたお姉さん。

 

 リリアお姉ちゃん、この部屋に来てくれないかしら。

 来てくれたらうれしいのにな。


 ここに来てから、まだリリアお姉ちゃんとは一度も会えていない。

 こんだけ広いお家だもの。仕方ないと言えば仕方無いんだけど。



 メイドさん、メイドさんこれまたメイドさん。

 目で追って確認するけど、来る気配はないわ。


 とってもきれいな金髪は、一瞬で目を引くもの。はぁぁ、会いたいわ。


 そうしてメイドさんたちは入ってこないくなった。


 最後であろうメイドさんがお辞儀をしてメニューの説明をすると、去っていった。


 あぁ、リリアお姉様。

 やっぱり来なかったわ。

 お忙しいのよ、きっと。

 お部屋を抜け出して探しに行こうかしら、ご飯を食べたら暇だし。

 そうだ、アーネちゃんと一緒に探しに行ってもいいのかもしれないわ。




 なんて思っているうちに扉にノックの音が。


 やった、お父様だわ。やっと帰ってきた。


 私は駆け寄ってドアを開けた。


 でも、違った。


「あれっ?! 

 アーネ? 」


 そこにはアーネちゃんの姿があった。


「ターニャ―」


 そういって私に飛びついてきた。


「うっぐ、」


 容赦のない子。

「いったいどうしたの?」


 私はこんな時間にアーネが訪ねてきたことに驚いた。

 後、うれしくもあった。

「ターニャと一緒に居たくて。

ごはん…… 」


「ごはん?」


 私は唐突に言葉を切るからその続きを伺った。


「ごはん一緒に食べに来たの」


 あら、なんて素敵な事。


「いいよねぇ? 」


 勿論よ!


「お母様、アーネちゃんも一緒に食べてもいいわよね? 」


「えぇ、もちろんよ」


 やったわ。


「でも、アーネちゃん?

 お母様にはちゃんと言ってきたの?」



「えっと、

 知らないかもしれない」


「だったら心配するわよ」


「うーん、そうだよね。

 どうしよう、」



 アーネちゃんはもじもじしていた。

 きっとこの部屋を出て戻ったら、絶対止められると思っているのだろう。

 推測だけど、たぶんこの子、走って飛び出してきた感じを漂わせてるし、間違いなく、目を盗んで逃げだしてきてるわね。


「ねぇ、お母様いいでしょう? 」


「食べたら後で、アーネちゃんと一緒に誤りに行くから」


「ん―、そうねぇ、 」


 また扉の戸を叩く音。


 今度こそお父様だわ。


「失礼いたします」


 女性の声、、、

 また違ったわ。

 お父様、何しているの?


 お母様が、はい。と返事をすると、すぐさま扉が開いた。


「申し訳ございません。






 やはり、」


またメイドさんだ。

メイドさんはアーネちゃんを見て言う。


「ここに居られたんですね」


「うわぁ―、マリア! 」


 アーネちゃんは目を丸くしていた。

 私たちには事情が分からないけど、

 一番来てほしくない人が来た、というお顔をしている。


「さぁ、早くいきますよ。アルスレットご婦人たちの、お食事の邪魔をされてはいけません。

 お母様たちもご心配されていますよ」


「えー、痛い、痛い、やだよ―」


 メイドさんがアーネちゃんの手を引っ張て無理矢理連れ出そうとしてた。

 怒らせたらとても怖そうなメイドさんだわ。

 なんだかこのお屋敷を一番知ってそうな感じ。

 でもそんな事言ってられない。


「ま、待ってください。

 私たちアーネちゃんと一緒にお食事をしようと思って、」


「いいえ、ティタ―ナお嬢様。

 お優しいお気持ちをおかけして頂いてありがとうございます。

 きっとアーネ様が勝手にお上がりして押し掛けたに違いありません。

 ご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ございません。


 さぁ、お嬢様」


 何一つ間違っていないわ。

 すべてお見通しね。

 すごいはこのメイドさん。

 こちらからかけれる言葉がない。

 どうしよう、これじゃあ、アーネちゃんが連れていかれる。

 でも、このメイドさんを止めれる言葉が見つからないわ。


 嫌がるアーネちゃんは手を離そうとするが、小さなアーネちゃんでは全くメイドさんには敵っていない。

 無駄な抵抗に見える。

 慣れた手つきで簡単に引っ張られていき、アーネちゃんは扉から出ていこうとしていた。


「ちょっと、お待ちになって」


「はい。」



 メイドさんは連れていくのをやめ、止まった。


「私たちとご飯をご一緒させて頂けないかしら? 」


「アルスレット様 

 それは構いませんが、申し訳ございません。

 奥方様に、連れて帰るよう申し付かっておりますので 」


「お願いマリア。

 あなたから王妃様に伝えてほしいの。

 私たちとご飯を食べているから大丈夫だと。

 私からのお願いだと」


「しかし、ご迷惑では? 」


「そんなことないわ

 それに、アーネちゃんも居てくれたほうが、明るくなって、楽しいもの。

 

 ね、ティターナ」


 お母様は優しくこちらを見た。


「はい。その通りですわ」


 私も必死に返事をした。


「アルスレット様……


 わかりました。御厚い御心遣い、感謝いたします。

 奥方様には私めがお伝えさせて頂きます」



「えぇ、ありがとう。

 それと、もし、王妃様もお忙しくなければ、ご一緒にいかがかしら、もちろんあなたも」


「ありがとうございます。王妃様も喜ばれるかと思います。

 ですが、ただいま、別件でお食事をされておりますゆえ、今晩は難しいかと。


 私なんぞもご一緒させて頂けるお言葉は大変喜ばしいのですが、わたくしも王 妃様と共に今晩はいなくてはなりませんので。折角のお誘いですが」


 

 深々とあの怖いメイドさんが頭を下げている。

 なんだか、本当に残念そうにしている。

 すごく固そうなこの人を言いくるめてしまうなんて、すごいわ、お母様。


「かまわないわ。

 仕方ないわね、あなたともまた、ゆっくりとお話したかったのだけれど。

 また、ご一緒していただけるお時間をいただけるかしら」


「なにをおっしゃいます。

 勿論でございます。

 わたくしもあなた様とまたお話させていただきたいと心より思っていおります。

 今回はお誘い頂けたのに申し訳なく心が痛みますが、アーネ様の件はわたくしがしっかりとお伝えいたします。

 どうか、アーネ様をよろしくお願いいたします」


「えぇ、あなたも頑張ってね」


 お母様の言葉に、メイドさんは笑顔を見せて去っていった。

 とても素敵な笑顔。

 私は、その美しい笑顔にに、見惚れてしまっていた。

 あんな顔もされる方なのね。

 ちょっと意外過ぎて、ドキッとしちゃったわ。


「ターニャ―!」





 うごえっ、





 アーネちゃんがまた抱き着いてきた。


「やったねー。一緒だよ」


「うん。そうだね」


 私も強く抱きしめて、喜びを分かち合った。


「ねぇ、お腹ぺこぺこだよー」


「そうね、こっちへ来て、一緒に食べましょう」


「うん」


 アーネはお母様のいるテーブルの方に嬉しそうに走っていった。


「アーネちゃんは本当に元気ね」


「うん」


 席について嬉しそうに答えるアーネちゃんを見ていると本当に元気になるわ。

 すごい子ね、あの子。

 さぁ、私も食べよう、なんだか私もお腹が減ってきたわ。


 アーネちゃんはお父様の分を食べていた。

 まぁ、帰ってこないし丁度いいわね。


大分量があったから、私たちもほっとした。


私とお母様は結構食べ終えたわ。

後はアーネちゃんに食べてもおう。


暫くして、扉が開く。


「失礼いたします

アーネ様の分のお食事をお持ちしました。」


えっ。






あの後、アーネちゃんはお父様と自分の分、それから、残ったお食事をすべて平らげて帰っていった。

帰りは別のメイドさんが迎えに来ていたので、お二人とも忙しっかのね。てっきりマリアさんが迎えに来るのだろうと思ってたんだけど。

マリアさんは怖かったけど、実はいい人ではないのかなと、私は思う。

だから、お友達になりたいと思ったわ。

けど、怒らせないようにはしたいわね。なんだか怖いもの。それだけはわかるわ。


で、今私は部屋を抜け出してきてリリアお姉ちゃんを探してる。

やっぱりどうしても会いたくって、気持ちが抑えられないわ。

もし私にお姉さまがいたらこんな感じだったのだろうかしら。

お姉さまって頼れてなんだかとても好きな存在だわ。


んー、でも闇雲に隙をみて飛び出しては来たものの、どこを探したらいいのか。

確かにメイドさんの部屋に行けば会えるかもだけど、もう時刻は10時を回っているもの。


大人に見つかろうものなら、私は部屋に連れ戻されてしまうわ。


どうにかして大人には見つから無いようにしないと。


ひっぃ、物音!



誰か来るわ。隠れないと。


私は急いで柱に身を隠した。

ふう。やり過ごしたわ。

こんな時間でも大人は出歩けるのだもの。うらやましいわ。



そうだ、そういえばこっちのほうに、酒場みたいなお部屋があったような。

そこでお仕えしているとかかな?

ちょっと覗いてみる価値はありそうね。


見つからないようにそっと覗けば大丈夫。

でも、どのあたりだったかしら?


ってまた足音。


私は曲がり角の一角の壁を盾にしてやり過ごそうとした。


「たく、中将は扱いが酷くてやだねぇ。

俺たちの事を何だと思ってやがるんだ。全く。



「しかたねえよ。このご時世だ。どこもかしこも、争いごとで収まらねぇ。

俺たちが俺たちの居場所をしっかりまもらねぇと」


「ねしてもだぜ、あの言いよう、あのしゃべり方。俺たちを完全になめ切ってやがるぜ

あんにゃろう、ふざけんなってんだ。」


「確かにな、言い方には難があったが、俺たちもこうして、ここで酒とか食らわせてもらえるわけだ。

それには感謝しなきゃなんねぇ。」


「そりゃそうだけど、でもよ、」


「まぁまぁ、愚痴ならこれから、酒飲みながら聞いてやるからよう――」


兵隊さんかしら。

お酒を飲みに行くって言っていたわよね。

これはチャンスだわ。彼らの後ろについて行けば、目的地にたどり着けそう。

さぁ、尾行よ。待っててねリリアお姉ちゃん。


「こら、お嬢ちゃん。こんなところで何やってんだい」


ひぃっ。

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