第5話 昔の想い出

 いい香り。


 メイド服の人が銀のトレーに乗せたものをお父様たちにテーブルに並べてる。


 丁度じぃたちも帰ってきていた。


 もう、お腹がペコペコだったのか、アーネちゃんは真っ先にその呼び声に応じていった。


「さぁ、私達も行きましょうか」

 アーネちゃんのお母様が優しく微笑む。


「この話の続きがもし気になったのなら、また話してあげるわ」


 私とお母様もお父様達の方へ向かった。


 薔薇の話もっと聞きたかったのに。


 お父様たちのテーブルにつくと、美味しそうな食事が並んでいる。


 豪華な食事に、久しぶりの再会。

 まるで大家族の様に食卓を囲んで、談話が弾んだ。


 お父様たち大人の会話が始まると、私たちは相手にしてもらえないから、私はアーネちゃんと食事を楽しむ。


 面倒を見てくれる爺も、この時は大人の会話のほうへ参加してしまう。


 最初はこの時間ほどつまらない時は無いと思ったけど、今じゃ慣れたものね。


 大人は大人、私たちは私たちで楽しんでいる事が普通になった。


 お父様たちの会話にも耳を傾けたことはあるわ。


 だけど、政治や深刻な話が多くて。

 たまに、冗談言って笑い合ってるかと思うと、すぐにまた険しい顔になって話し出す。


 まったく楽しくない会話だわ。


 と、言いながら、結構無意識に耳にしていたりはするのだけど。

 とにかくこの会話が始まりだすと私たちは蚊帳の外にされる。


「ところで、セバス。

 実質、ノートリアム宮殿はどう出ると思う?

 今や情勢はよろしくは無いのではないか?」


「えぇ、そのようでした。もし放っておけばいずれ落ちるのは時間の問題かと」



「やはりか。だが、あそこに目をつけられるのは、こちらの状況もまずくなるな」


「えぇ、ですから、ここはひとつ手を打っておくのが良いかと思われます」


「爺もそう思うか。」


「えぇ、いずれ動くでしょう。彼らの目的はさらなる領地の拡大。

 ならば、あそこを支柱に納めない手は無いかと」



「この度の進軍はあちらも本気の沙汰である事は間違いない。

 このままではいずれ彼らは大きくなる。

 そうなればこちらも無事ではいられなくなるな。

 なんと手を打たなけらば。


 セバス、シチリアイの区域は。」



「何やら面白い事になっております」


「そうか、それはそれで手回しが上手くいっているという事か? 」


「えぇ、それ以上の結果になったかと。


しかし、今回の事といい、後ろで何か動いている気配があるかと。」


「どういうことだ? 」


「まず、第一にうまく行き過ぎている件、

 そしてあまりにも事がスムーズすぎる。

 それが誰で何なの陰謀なのかは、まだわかりかねてはおりますが、

 この件、ただの事柄ですますのはいささか危険かと」


「ふむ。


 アルスレット卿は今回の事、どう思われる。」




「爺。」


「はい。

 これまで、私共も色々と情勢を嗅ぎまわっておりました。

 そこである男の影を見つけたのですが……。 」


「その男とは? 」


「ローグ卿であります」



「ローグ卿だと?


 なぜローグ卿が


 何かの間違えではないのか?

 ありえない。」



「我々も核心という確信はありませんが間違いないかと。


 彼を度々目撃している声が多発しています。


 事実、この爺もその場で彼の姿を見たとのこと。

 であれば、一刻を争う話なのです。


 もう一つ、気高き金の十字架を掲げた旗がありました。」



「何だと。」


「えぇ、聖教徒を束ねる集団信者の聖教者ダーヴィル候」



「聖教徒が絡むというのか。 この件には」


「こちらは間違いはないかと」



「そこでです。王、


 こちらから仕掛けるべきです。

 しかる準備を急いでしなければならいと私は言いに来ました」



 やっぱり面白くない。

 口に運びながらの会話は無くなり、みんな食べるのをやめて話しに夢中でいらっしゃる。

 よくはわからなかったけれど、悩む王様にお父様はとても真剣な話をしていたみたい。


 みんなでいる時ぐらい、もっと笑い合える楽しい会話の食事がしたいのに。


 私はアーネちゃんと話そう。

 割って入れる会話の雰囲気でもなさそうだもの。


 私は大好物のアイリッシュシチュ―を口に注いだ。

 これがとても美味しいの。

 カレーを薄めたような味のスープで、瑞々しく口当たりもよく、中にはお野菜の具材がたくさん入っている。

 香辛料にはタイムやパセリ、決め手の塩コショウにスープストックで煮たシチューよ。


 人参に白菜キャベツ、ジャガイモにヤギ肉か角ウサギの肉、それから玉ねぎにターリップ。

 特にアーネちゃん家のアイリッシュシチューは玉ねぎを煮詰めて甘くしてから切り刻んであるから、とてもこの甘さが少しスパイスの利いたシチューに溶け合うの。

 勿論色んなバリエーションがあって、牛乳を入れたクリームシチュー風の味も最高なの。ミックスビーンズを入れたトマト味のものも。

 お家によって本当にたくさんの味があるわ。



 私はまた掬い上げたスプーンの上の白菜と肉を見ながら口に入れる。

 

 んー、

 とても幸せな味だわ。




 それにしたって、このところ、この世界の感じは私でも何か、暗い雰囲気みたいなものを感じる。

 少し怖い感じ。

 まぁそれは、戦争と言うものをしているみたいだからなのだろうけれど。

 だからアーネちゃんといてこの感覚を忘れたい。



 アーネちゃんの方を見ると、よく食べておいででいらっしゃる。

 とても気品のある姿でそこに座って食べるアーネちゃん。

 という訳ではなく、凄まじい勢いで食べ物が無くなっていく。



 そういえば私たちがもっと小さかった頃もこんなだったわ。


 まだ使い慣れていないスプーンやフォークを、習ってはいても、直感で使ってるから、食べ物が手元に沢山転がっているの。

 私も、お母様たちから食事のマナーを習っていて、そのおかげで上手に使える様になったけど、アーネの机は、それはそれは、素晴らしかったわ。

 横にいた王様とお妃様はとても焦っていて、挙句の果てには止まらないから、もう二人とも苦笑いして、事を済ましていたわね。



 それにふふっ、とても美味しかったのかしら。

 口の周りにはデミグラスソースなんかとかがはみ出して、口紅の様にこびりついているし。


 私は手を伸ばしてアーネの口を吹いてあげるの。



 ちらっっとまたアーネを見ると、ほんと昔と変わらない姿がそこにあるわ。

食べこぼしは無くなったみたいだけど。



 口の周りにはまだ、口紅をつけている。

 ほんと、見ていていこちらが幸せになる様な食いっぷりね。


 アーネは幸せそうにご飯をほおばっていた。




 は――、 私はお腹もいっぱいになってきたから、フルーツでも食べようかしら。


 フルーツの盛り合わせが目に入ったからそこからマスカットを取って食べる。


 それから輪切りに薄く切られたキュウイ。


「ねーねー、ターニャ」


 裾をひっぱられ私はアーネを見る

 キュウイを口に入れようとした手が止まる。


「あっち行こー」


 どうやら食べ終わったみたい。食べ終わったら、じっとしてるのが飽きたのかしら。

 私まだフルーツをもう少し召し上がりたかったのだけれど、仕方がないわね。


「えぇ、ではお花の王冠を作るのに、またお花を摘みにいきましょ」


「うん、えへへへへへへっ」


 アーネはとてもうれしそうに喜んで私を引っ張っていく。

 ちょっと疲れてきていたけど、その元気と愛嬌に私は引っ張られていった。


「このお花にしましょう」


「ねぇ、アーネちゃん……


 これはちょっとさすがにまずいんじゃないかしら――」



 私たちは綺麗な花が沢山咲いている場所に来ている。


 どれもこれもしっかりと育てられ、その美しさを魅せている。


 その花はアーネちゃん家の庭に咲く花たちだ。


 流石の私でもその大事に育てられた花たちを摘んでいくのは、この後怒られる映像しか目に映らない。

 だからとても、止めたいのだけど


 だって絶対、絶対、ぜーったい、怒られるもの。

 あたりまえよ。


 でも確かに美しい花ばかりだから。王冠にしたい気持ちはわからなくもないけれど、これはダメね。うん。絶対やっちゃダメ。


 なんて言ってるうちに、アーネちゃんがそのうちの一本を摘みだして持って来た。


「はい」


 と言って私に渡してくる。


 ……いや、……受け取れないわ。

「ちょっ、って、ダメよ。アーネちゃん、 」


「え、どうして。

 これはみんな家の物よ。


 だからターニャも一緒に取ろうー

 私が良いって言ってるんだし大丈夫だよ」


 あどけなく笑う、楽しそうなアーネ。


 いやいや、このままお庭を荒らしてしまって、それまたそこを、お母様たちに見られたりでもしたら、――


 なんて恐ろしいこと。

 早く止めさせなければ。


 でも、確かに、ここのお庭はアーネちゃん家のお庭ではあるのよね。


 そのお庭に植えてあるのもアーネちゃん家のお花なんだから、摘んだって泥棒ってわけでもないし、おかしなことでもないわよね?

 だったら摘んでもいいのかしら。


 以外にアーネちゃんのお母様たちも素敵ねって喜んでくれたりして……






――――――――――――――――――――。






なんてこと、あるわけ無いない。


「まって、アーネちゃん」


 ちょっと本当に待って、止めて止めて、



 丁度止めようとしたところをお庭に出ていたひとりのメイドに見つかった。


 メイドはアーネに止めるように言い利かせた。


 流石ここのメイドさんはアーネを従わせるのが上手ね。

 なんて感心していると、お母様達に報告しに行った。




 終わったわ。


 最悪ね。


 もう怒られる覚悟はできているわ。何でも来い。



と思った矢先に視線が飛んで来て、すぐさま、お母様たちの姿が見えた。


私の母とアーネちゃんのお母様の姿がだんだんと大きくなってくる。



「貴女たち、」


はい。来た。


「お庭の花は摘んでもいいけれど、それぞれ一本ずつくらいにしてね。


 これでもちゃんと毎日手入れしているお庭だから、ぐちゃぐちゃにしては欲しくないの。

 いい? お庭だけは荒らさないって言うのなら、少しだけここのお花を摘んでもいいわよ。


 特に、わかったわね。アーネ! 


 約束よ。 」



 あれ?怒られない?

 おかしい、怒られると思ったのだけれど。


 ふぅ、よかったわ。

 なんだか肩の荷がすっかり下りた。


 私たちはアーネちゃんのお母様と約束してお庭の花を少し摘む事にした。


 と言っても抜いていいのは少しだけなので、慎重に選ぼう。

 あんまり抜きすぎると、後で怒られるかもしれないわ。


「アーネ。お花は慎重に選ぼう?


 じゃないとまたやばい事になるわ


 さぁ、選別の開始ね」



「そうだね。ターニャちゃん


 よぉーし、いっくよぉー」




 あれが良い、これはどうかしら? と、お庭の綺麗な花を一本ずつ集めていった。


 この花と、これは止めておいて、あっこれなんかいいわね、


 あれっ………。



 あの青い薔薇が目に飛び込んできた。


 あの薔薇……。


 私は、他の花から目が離れ、青い薔薇の方へと知らないうちに、足が私を運んでいた。



 とてもきれい。欲しい――


 私は知らないうちに美しく咲く、青い薔薇の一つに手をかけていてた。



 思い切り机を叩く音がこちらまで響く―――――。


「だからそうではないと言っているのだ。

 陛下、今やらなければ、ここが落とされますぞ。」


「しかし私は無益な戦いなど望んではおらん」


「あなたの守りたいものまで、失うことになるのですよ」



 向こうはすごく盛り上がってるのね。

 あまりの大きな怒声に私はびっくりして手を引いた。



 その瞬間だった。


 痛っ!!


 私の手から血が出ていて、それにびっくりして大きな声を上げてしまった。


 横にアーネがいて、その声にびっくりしたのか、私の手から流れ出る血を見て、慌てていた。


「大丈夫?! ターニャちゃん! 痛そう。ちょっと待ってて」


 慌ててお母様たちの方へ知らせに行った。


 大丈夫なんだけど。



 そういえば良く二人で怪我し回ってたことを思い出した。



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