第4話 青い花

 「ねえー、お母様」


 そういってお母様の腕の裾を軽く持つ。


 「あら、どうしたの? 貴女たち。」


 「運動は飽きちゃったのかしら? 」


 アーネちゃんのお母様が、微笑みながら語りかける。



 私は辺りに咲く薔薇を見ていた。


 青色の薔薇は珍しく、何処か普通ではない、特殊さを感じていたから。


 薔薇は赤色だと教えられたし、赤いバラはよく見るのに、ここに咲いているのは青い薔薇で、そこら辺では見たことがない。


「とても綺麗な薔薇でしょ。」


 アーネちゃんのお母様が言う。


「多分あまり見たことないでしょ。 本当に不思議な薔薇よね」


 アーネちゃんのお家には勿論普通の薔薇も植えてある。


 しかしここ一面に咲かせているのは青い薔薇だけみたい。


 そして、濃く色づく青は、とても私の目を引いた。


「ターニャちゃんはこの薔薇がお好き?」


「えぇ、――――。 そうですね。

ですが、赤い薔薇も私は好きです」


 好きとかではなく、単純にただその珍しさと、美しさに目を奪われていただけなのだけれど。


「ねぇ、お妃様。この薔薇はずっとここにあったのですか?」


「えぇ、そうよ。私たちが生まれる前からここにあったみたいなの」


「そうなのですね」


「この薔薇素敵よね。

ここの薔薇にはね、古いお話があるの」


そういってアーネちゃんのお母様も薔薇を見つめられた。


「それは、どんなお話なのですか? 」



「ん? そうね。 ちょっと長くなるのだけれど、


 王国貴族の間では薔薇と言うのはとても大切にされてきたの。

 それは今も同じね。

 象徴にするところでさえあるぐらい。


 ある時薔薇の中でも一本だけとても黒く咲く薔薇を見つけたらしいの」


 ほんとの話なのか、お伽の話なのか、黒い薔薇が咲くなどとは、この国では考えられない話だわ。


「庭師はその薔薇を見つけて病気にかかったか、腐ってると思ったらしいの」


 確かにそうだ。黒い薔薇をもし見たのなら、私だったら燃やされた後を、想像するわ。


「だから、明日朝早くに刈り取ろうとしたの。


 庭師が朝早くに行ってみるとその薔薇は黒ではなく紫色に咲いていたらしいの。

日が沈みかけてたから見間違えたのね。


 庭師はその薔薇を不思議に思ったわ。

 これは薔薇なのかってね。

 庭師は懸命にその薔薇を育ててみることにしたらいしの。


 そうすると紫色の中に赤く色ずく花びらが、何枚かできてはすぐ落ちたらしいの。


 下には赤くなろうとした花びらが、沢山落ちていた。


 もしかしたら必死で赤くなろうと薔薇たちは頑張っていたのかもしれないわね」



「青い薔薇の話なのに、紫の色の薔薇なの? 」


 私は全く青色が関係無いことに野次をいれていた。

 でも、もし皆と同じになろうと頑張って、なれなかったのだとしたら、その薔薇がとても私には可哀想に思えた。



「そうね、この薔薇が青くなるのにはまだ続きがあるの。


 しばらくしてその噂は広まりいつしか、その近場で疫病が流行りだしたわ。


 そしたら一人の聖者がやって来て、その原因はその薔薇です。


 そう言って紫の薔薇を指したの。


 皆その薔薇の見た目を見てこの薔薇が原因だと決めつけたわ。


 その聖者は危険なものだからとその薔薇を持っていってしまったの」


「その薔薇は疫病を巻いていたの? 」


「いいえ、違うわ。

 その薔薇はただ咲いていただけよ。


 その珍しさに聖者が自分のものにしたくて、口実に悪く言っただけなの」



「そんな酷い 」



「当然可愛がっていた庭師は悲しんだわ。

 勿論疫病も解消されなかった」



「アーネー、食事ができたよ。

 皆さんもこちらにきて食べましょう」



 アーネのお父さんの声だ。


 私たちは呼ばれ、話は止まった。

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