第1話 コインの表12
ぼくは授業中ずっと、机の下で両手でスマホを握りしめていた。ユウヒからは結局、返信はなかった。
授業が終わってダッシュで帰れば、柳井たちから逃れられるかもしれない。最後のチャンスだ。ここで捕まったらもうおしまいだ。
ぼくはじっと黒板の上にある丸いアナログ時計を見つめていた。秒針の1秒1秒を目で追った。
そしてついに6時間目のチャイムが鳴った。
鳴ると同時に、教科書を慌ててカバンに詰め込んだ。誰よりも早く、先生よりも早く、急いで教室を飛び出した。
廊下に出て、頭を振り左右を見た。
廊下の左側の向こうに、男が立っていた。
下松先生だ。
やっぱりぼくのことを見張っていたんだ。
ぼくは下松先生がいるのとは反対側に向かって急いで走った。階段を下り、靴箱で下履きに替えることはせずに、そのまま校門にダッシュで向かった。
靴箱から校門に続く道には、さすがに誰もいなかった。
柳井たちもいない…
ぼくは緊張しながら無我夢中で走った。
校門を抜けた瞬間、ぼくは全身に解放感を感じた。
やった!
柳井たちから逃げられた!
今晩、家に帰ってご飯を食べて、湯船に浸かり、笑いながらテレビを見て、温かな布団で寝られる!
そう思った瞬間、校門のそばにある電信柱の影から柳井たちが現れた。
「ストップー!」
そう言うや否や柳井はぼくの胸ぐらをつかみ、校門の横の壁にぼくの背中を打ちつけた。柳井はニヤニヤ笑いながら言った。
「大野くん、忘れ物」
柳井はそう言って、ぼくに向かって右手を伸ばした。
「今週のお布施」
ぼくは恐怖で声が出なかった。ただ首を横に振った。
「まさか持って来てないことはないよね?」
情けないけど、柳井の圧力に震えて声が出なかった。
「それに、下松に僕らのことチクったよねー?なんなの?反抗期?無駄だよ。あいつはもうぼくの家来なんだから」
柳井がそう言うと、柳井の後ろにいた2人の腰巾着も「ウケる」と言ってゲラゲラ笑った。
柳井は笑うのをやめると、急に冷たい笑みを浮かべ静かな口調でぼくにこう言った。
「大野くん、上履きに替えるの忘れてるよ。学校に戻ろうか」
「……」
「あと、ちょっと一緒に遊ぼうよ。今日、面白いおもちゃ持って来たんだ」
柳井は笑いながら「ほら」と言って、学生服の内ポケットから黒い拳銃を見せた。
「本物じゃないよ。空気銃」
それを見てぼくの全身が凍りついた。突然心臓がバクバクと激しく動き出した。
殺される……。
ぼくは3人に囲まれながら、校舎に戻った。
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