第1話 コインの表13
ぼくは生気を失った顔でトボトボと校舎に戻った。
ぼくを逃すまいと、3人はぼくの両側と後ろにしっかりと張り付いていた。
校舎に入る前に上履きについた泥を払った。なるべくゆっくり時間を稼ぐようにそうしていると、誰かのケータイ電話が鳴った。
柳井のだった。
柳井は「親父だ。先に行ってて」と2人に言い、話の内容を聞かれたくないのか、向こう側に歩いていった。
残りの二人はぼくをつつき、歩くように促した。おそらくいつもの別棟の教室に連れて行くつもりなんだろう……。
本館から別棟に続く渡り廊下のところで、突然2人のうち一人が「うわ!」と大声を上げた。
そいつは片足を上げながら「なんでこんなところに、犬の糞があるんだよ」と叫んだ。犬の糞を踏んでいた。もう一人が「マジか」と言ってゲラゲラ笑い出した。
その瞬間、ぼくは走り出した。
二人は「おい、待て」と言って、すぐにぼくを追いかけた。ぼくは昔から足だけは早かった。人より早く走る自信があった。無我夢中で走った。別棟の入り口の隅に掃除のバケツがあるのが見えた。それをぼくは後ろ足で蹴飛ばし、後ろにいる二人にぶちまけた。
二人がひるんでいるすきに、ぼくは別棟に走り込み、階段を駆け上がった。別棟は入口があそこしかないから、屋上に登れば、追い詰められてしまう。屋上に行けば、柳井たちに追い詰められ、空気銃で威嚇され、屋上から飛び降りさせられるかもしれない。そんな光景が脳裏をかすめた。
どこかに隠れなきゃ!
3階には視聴覚室があり、いつも遮光カーテンが閉められていた。いくつもの大きな机が並べられている。隠れるならあそこしかない!
ぼくは視聴覚室に入り、引き戸になっている教室のドアを音を立てないようにそっとスライドさせた。そして慌てて、入口から一番遠いところにある机の下に隠れた。机には大きめのクロスがかけられていて、隠れるにはちょうどよかった。
廊下から大声で叫びながら階段を駆け上がる音がした。彼らは3階の階段を駆け上がり、屋上に行ったようだった。
ぼくはスマホを取り出しユウヒにラインした。
指が震えて上手く打てない……。
落ち着け、落ち着け、自分に言い聞かせた。
『助けて 殺される』
それだけなんとか打って、送信した。
頼む!見てくれ!
屋上にぼくがいないと判断した二人は、尚も狂ったように廊下で大声を上げた。
「出てこい!逃げやがって!どこ行った!」
ぼくがいる視聴覚室のドアが勢いよく開けられた。
ユウヒ……
ラインが『既読』になった!
助けてくれ、ユウヒ!
二人は別棟にあるすべての教室のドアを片っ端から開けているようだった。
ユウヒ、返事をくれ。
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