第1話 コインの表11

昼休みになった。


みんな楽しそうに弁当を食べ始める中、ぼくは弁当の蓋をはぐったまま手をつけずにいた。激しい緊張からか、食欲がなかった。こんなことは初めてだった。


机の上でじっとスマホの画面を見つめるが、ぼくの新たなメッセージに対するユウヒからの返信はなかった。『既読』にはなっているから、ユウヒが見ているのは確かだった。


なんで返事がないんだよ……

もうすぐ昼休みが終わって2時間授業受けたら放課後になってしまう。そしたらぼくは殺される…。


スマホを握る手が緊張から、汗でびしょびしょになった。


もう少しで昼休みが終わってしまう。ぼくはユウヒからの返事から待ちきれなくなって、教室を飛び出した。

3階にあるユウヒのクラスに向かって走った。ユウヒのクラスの教室を廊下から見回すが、ユウヒはいないようだった。教室の入り口にいるユウヒのクラスメイトに焦って訊ねた。


「ユウヒは?」


「さあ?図書室で勉強してるんじゃない?」


試験が近いからその可能性は高いと思った。

ぼくは再び図書室に向けて走り出した。渡り廊下を抜けて、突き当たりに図書室はある。


引き戸になっている図書室の扉を開けて、中に飛び込んだ。扉を開ける音が図書館中に鳴り響いた。図書室の受付の生徒が、すごい形相で飛び込んできたぼくを不思議そうに見ていた。ぼくは早歩きで図書室中を何度も往復して探した。


いない……


図書室を出て、ユウヒにライン電話をかけた。


♬♫♪〜……


電話のコールはなるのに、出ない。


なんでだよ。

なんかあったらいつでも言ってくれって、言ってたじゃないか。


何度も焦ってかけ直したが、ユウヒは全く出なかった。ぼくは泣きそうだった。


そして5時間目が始まる授業のチャイムの割れた音が、校内中に響き渡った。 


このまま学校を出て、家に帰ろうか…

そうしないと放課後には柳井たちがぼくを捕まえにやって来てしまう。


逃げるなら、今しかない!


そう思った瞬間、気がつくと、誰もいない静かな渡り廊下の向こうに、一人の人がこっちを見ているのに気がついた。


下松先生だ……。

なんでこんなところに……。


全身に鳥肌が立った。偶然にしては出来すぎている。


ぼくが家に帰らないように、ずっと見張っていたのか……?


その場に立ち尽くすぼくに、下松先生は大声でこう言った。


「5時間目の授業が始まるぞ。早く教室に戻れ」


ぼくは見張られてるんだ…

逃げられない…


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